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●ドキュメンタリー映画「精神」
病とは何か医者とは何なのか じっと撮るじっと見て考える

 想田和弘は一昨年、ドキュメンタリーの「選挙」で、連呼と握手ばかりの自民党議員 の選挙運動を撮って話題をまいたが、今度は精神病院にカメラをすえて、時には自殺に まで追い込まれていく精神障害に苦しむ人々を撮った。

 岡山市にある小さな精神科の診療所が舞台。今年73歳の山本昌知医師が中心になって 、精神障害者が地域社会で暮らしていけるよう牛乳配達の作業所やヘルパー派遣などの 支援活動も行っている。その山本医師の給料が10万円と聞いて驚くが、彼の元に「死に たい」ともらす患者が次々に訪れる。山本医師は自分で「こうしなさい」と診断せずに 、「あなたならどうしたい?」と聞き返して、本人に考えさせるようにする。そういう 診察方法が興味深い。

 想田は「選挙」のときと同じく、この映画も「観察映画」と銘打って、ナレーション も音楽も排して診察室でのやりとりをじっくり撮っている。それと同時に、患者の了解 を求めたうえで、直接その素顔にカメラを向けるシーンも多い。患者も撮影を望んでい たかのように、自らの半生を赤裸々に告白する。赤ん坊を殺したとか売春したとか1日 18時間もの勉強を半年続けて倒れたとか・。その内奥からの叫びは人ごとではない。な かでも、患者だった一人が名古屋で働いていたとき、山本医師にコレクトコールで20円 しかないと泣き言を伝えると、翌日岡山から下宿先にまで飛んできてくれたという話に は胸を打たれる。日本にもこんな奇特な医師がいるのか、と。

 また待合室での団欒シーンがとてもいい。「蚊に刺され吾も食いたしカツカレー」な んて俳句まで飛びだす。

 映画には、このように噴きだす場面もいくつかあるが、いつしか「そういうお前はど うなんだ」と観客(筆者)も自分を「観察」したくなってくる。(木下昌明/「サンデー毎日」09年6月14日号)

*映画「精神」は6月13日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムでロードショー、順次全国公開 (c) Laboratory X, Inc.

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<追記>

この短評ではふれらえませんでしたが、最底辺で互いに支え合うように生きている人々の この小さな診療所・作業所が、小泉政治による自立支援法という弱者切り捨て策によって 風前の灯の状況におかれています。それがさりげなくとらえられていますが、みていて政治の非情に怒りがこみ上げてきました。
また、ラストで登場人物のうちの3人の追悼が報じられています。わたしの周りに4人の 若い人が自殺したこともあって、胸に痛みが走りました。精神の病は、カーテンの向こう 側にあるのではなく、いまの時代そのものなのだ、と痛感しました。(木下)


Created bystaff01. Created on 2009-06-07 17:34:19 / Last modified on 2009-06-07 17:37:17 Copyright: Default

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