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「いったい私は誰と共に、誰のために働いたのですか?」

[ワーカーズ ルポ]旭硝子非正規職労働者たちの「本当の社長探し」4年の闘争

ヨンジョン(ルポ作家) 2019.07.02 10:52

亀尾初の非正規職労働組合

慶尚北道亀尾市国家産業4団地には、 携帯電話、TVのブラウン管などに使う液晶用ガラス基板を生産する 「旭硝子ファインテクノコリア」という会社がある。

代表的な戦犯企業として指折り数えられる日本の三菱が設立した旭硝子は、 2005年に「旭硝子ファインテクノコリア(以下『旭硝子』)」という子会社を作り、 韓国に入ってきた。 当時、旭硝子は11万坪の土地の50年無償賃貸と、 5年間の国税全額減免、15年間の法人税・地方税減免という破格的な特典を受け、 亀尾工業団地に入居した。 旭硝子は10数年間の年平均売り上げは1兆ウォン、 年平均当期純利益800億ウォンという途方もない収益を上げた。 この会社の社内留保金は7200億ウォンにのぼる。[1]

旭硝子が受けた特典は、地域の雇用創出と地域経済活性化寄与を前提とするものだった。 しかし旭硝子は300人の非正規職労働者を最もつらい工程に365日3交代と夜昼2交代で雇用した。 この工場で働く900人の正規職労働者の一部は、 旭硝子が買収した韓国電気硝子で働いていた労働者だ。 事実上、旭硝子が入ってきた後に新規採用した正規職労働者は、 買収初期の数百人に過ぎなかった。

旭硝子は過度な競争システムで非正規職労働者を絞り取った。 旭の非正規職労働者は特に昼休みがなく、 休み時間は20分間、休憩室で弁当を食べた。 単価2500ウォンの弁当は、毎日味が違った。 その上、キムチとたくあんしか出ない時もあった。 給与も入社したばかりの人も、9年間働いた人も、殆ど差がなかった。 賃金が最低時給で全く同じだったからだ。 会社は過度な労働強度により発生した小さなミスも容認しなかった。 失敗した人に、空気も通らない厚いビニール材質の懲罰用チョッキ (別名『赤チョッキ』)を短くても一週間、長ければ1か月以上着せた。 誰が見ても「あの人、何か失敗したんだ」と思わせる標識だった。

2015年5月29日、旭硝子の非正規職労働者が 労働組合(民主労総金属労組所属)を結成した。 旭硝子の16人の非正規職労働者に対する勧告辞職が契機になった。 あっという間に旭硝子下請企業GTS非正規職労働者170人のうち138人が労働組合に加入した。 亀尾で初めて生まれた非正規職労働組合だった。 労組ができると、非正規職を監視して統制していた元請・下請管理者の態度も変わった。 しかし彼らが工場の中で味わった解放感は、たった一か月で終わる。

▲旭非正規職支会の組合員たち[出処:ヨンジョン]

9年ぶりに初めて休む日を決めた解雇通知

2015年6月30日、労組設立から一か月で旭硝子非正規職労働者たちは携帯メールで解雇通知を受けた。 組合員たちが所属する下請企業GTSがまるごと廃業したのだった。 まだ契約期間が6か月も残っている状況だった。 旭硝子が労働組合をなくすために、意図的に下請企業を廃業させたようなものだった。 労働者たちが解雇通知を受けたその日は、 電気工事を理由に9年ぶりに初めて休みになる日だった。

会社に入れなくなった解雇労働者たちは、工場の前にテントを張った。 そして7月、彼らは不法派遣と不当労働行為の容疑で 旭硝子使用者側と当時旭硝子代表だった原野タケシ、 旭硝子下請企業のGTSと当時代表を告訴した。 「派遣勤労者保護などに関する法律」には、 製造業の直接生産工程に派遣労働者は雇用できないことになっているが、 旭硝子は10年近くこれに違反してきたためだ。 非正規職労働者たちは、旭硝子工場の連続流れ(コンベアベルトシステム)工程の特性上、 元請が決めた生産計画によって作業量と労働者数・作業時間などが決定され、 非正規職労働者たちに元請が具体的な作業指示を出したと主張した。

「旭硝子は成果によって下請企業に金を支払ったから請負だと主張するが、 労働者の数によって金を支払ったのがそうです。 たとえば、1か月に1100個を生産しても900個を生産しても、 毎月178人の労働者数に合わせて計算して金を支払いました。 具体的な業務指示も旭の文書で行われていました。」 (チャ・ホノ、旭非正規職支会支会長)

こうして「本当の社長」を探すための旭硝子非正規職労働者たちの長い旅が始まる。 工場から追い出されてから4年経った今でも旭非正規職支会の組合員たちは、 不法派遣認定と正規職としての復職、労組活動保障、不当労働行為責任者処罰などを要求し、路上で闘争している。 その間、使用者側の希望退職の懐柔と生計問題で多くの組合員が離れ、 現在は23人の組合員が残っている。

労働組合が法的対応すると、原野氏は旭硝子代表職を辞任した。 しばらくして、雇用労働部はこの事件を不法派遣起訴意見で検察に送った。 旭硝子使用者側には直接雇用是正命令と17億8千万ウォンの過怠金を賦課した。 しかし旭硝子はこれを拒否して行政訴訟に入った。 そして2年後、大邱地方警察庁金泉支庁(検事キム・ドヒョン)は5千ページを越える捜査記録にもかかわらず、 旭硝子不法派遣は証拠不充分だとして無嫌疑処分をした。 労組はすぐに抗告し、再起捜査命令で不法派遣の再捜査が始まった。 それでも大邱地検は事件処理を遅らせ、 大邱地検長との面談要請の過程で旭非正規職労働者11人が連行されることもあった。 結局、今年の2月に最高検察庁捜査審議委員会で不法派遣容疑起訴が決定し、 4月10日に3年9か月ぶりに不法派遣刑事裁判が始まった。

原野タケシの住所をご存知ですか?

6月12日午後2時、大邱地方法院金泉支院刑事1号法廷。 旭硝子による派遣勤労者保護などに関する法律違反の裁判(以下『不法派遣裁判』)が始まった。 検事の前には1万3千ページの捜査記録がうずたかく積まれている。 検事の反対側にはキム&チャン所属の使用者側弁護人3人とGTSの弁護人が並んで座った。

「ファインテクノコリアの 原野タケシの住所をご存知ですか?」

「今日聞いたので、 内容を受け取れませんでした。」

判事の質問に、旭硝子側の弁護人は初耳だというように あわてた表情を浮かべながら答えた。 彼は検事が提出した資料もこの日、初めて見たと言う。

「この間も同じ話をしましたが、 確認してくださいますか?」

「共同弁護人を通して 内容を確認して準備します。」

依頼人の所在を知らずに弁護をする弁護人。 被告人の住所を知らず、裁判の召喚状さえ送れなかったという判事と検事。 最近よくある法廷ドラマでも見たことない話だ。

被告人の原野氏は、 不法派遣裁判と非正規職労働者たちが旭硝子を相手に出した (元請が実際の雇用当事者であることを確認する)勤労者地位確認訴訟に 一度も出席しなかった。 多国籍企業であり大企業の前代表が一瞬にして消えてしまった。 彼は本当に日本にいるのだろうか? 住所が分からず、召喚状さえ送れないため、 法廷に出席できないという原野氏、彼と会った人がいるのか?

番号票を取って4年待って聞いた返事、私たちには責任がない?

裁判を見ていると「爆発する黄昏(監督パク・ヨンジュ)」という映画を思い出す。 銀行の駐車管理員として働いていたある「シニア」労働者、イ・パングク氏は、 無人駐車システムが導入されたため、契約期間が残っているのに突然解雇される。 自分を銀行職員だと思っていた彼は、銀行側に復職のための対話を試みる。 しかしこれが上手く行かず、銀行に座布団爆弾を送る。 これであとは「復職させなければ(爆弾は)18時きっかりに爆発する」という内容を 銀行側に伝えることだけが残されたが、それが容易ではない。 銀行のコールセンターに電話をかけると 「現在、通話が多く、相談員につながりにくくなっています」という回答だけだ。

インターネットバンキングをするとすぐ銀行につながるという息子の言葉に インターネットで銀行との対話を試みるが、 セキュリティソフトをインストールする障壁の前で諦めるしかなかった。 しかたなく彼は自分が勤務していた銀行に直接行って 「私がここに爆弾を...」と話そうとする。 だが「番号票を取りましたか?」という銀行の窓口職員の言葉に、 また誠実に番号票を取って順序を待つ。 結局、彼は警察署まで行って、銀行に爆弾を送ったと言うが、 警察もこれを信じない。 どうしてどうして彼をかわいそうに思った警官と銀行に行くが、 駐車場の担当者と会うのは迷路であった。 右に行って左に行き、トイレで右に曲がってまた曲がらなければならない。 間接雇用労働者の現実を反映したさまざまなエピソードを見ていると、 笑いの後に苦々しさが押し寄せる。 ある労働者の「本当の社長」を探す旅程は本当に長く険しい。

▲亀尾旭硝子工場[出処:ヨンジョン]

旭非正規職労働者の本当の社長を探す旅程もまた似ている。 「法の通りに」すると言うので告訴して待ちに待ったが、 検察は起訴どころか回答もしなかった。 彼らは「本当の社長」と会うために、旭硝子本社がある日本にも四回も行った。

「本当の社長、日本旭硝子本社にすべての責任と権限があるから行ったのです。 日本の本社が人事権を直接行使します。 しかし彼らは『別の法人だ。私たちには責任がない。 あなたたちは私たちの正規職職員ではない。今、裁判が続いている」 こう話しました。 最近、亀尾の旭硝子で稼いだ1100億の株主配当金を日本の旭硝子本社に送金しました。 これだけを見ても彼らの主張が偽りだということが明らかなのに、 ずうずうしさに腹が立ちます。」 (ナム・ギウン、旭非正規職支会組合員)

傾いた法、罪を犯しても現れなければそれまで?

「内国人には、出てこなければ令状発布ができるが... (原野タケシは日本人なので令状発布が難しいため) 弁護士が確認して、検察が協調要請で把握して、 だめなら不拘束裁判に行かなければならないのではないか...」

裁判所が法務部長官と外交部長官を通じて被告人の住所を把握した後、 召喚状を送る手続きを進めることができた。 だが判事は検察が直接被告人の所在を探すほうが良いと話した。

「罪を犯しても、 逃げて出てこなければいいのか?」

「底が見える。 見える。」

傍聴席から嘆きと抗議の声が流れた。 暫くしてGTS使用者側の弁護人が判事に向かって 最初で最後の発言をした。

「傍聴席がざわざわしていて、 悪口も上がっています。」

この日は公判準備期日で、 検事が提出した70種類の証拠目録の採択に関する話がやり取りされる席だ。 使用者側弁護人は速記が難しいほど小さい声で話し続けた。 そして多少ばかばかしく感じられる声で、 使用者側にとって不利な不法派遣の証拠には同意しないといった。 判事はほとんど分かったといった。 この裁判を見ていた告訴人の1人のイム・ジョンソプ氏は、 裁判はとても不公平だといった。

「われわれは何か一つしただけでも、 罪を犯したと言ってすぐに調査して検察が強制召喚するのに、 この事件も原野タケシを強制召喚しなければならないのではありませんか? 判事は検事に押し付けて、検事は判事に押し付けて... 時間稼ぎなのは明らかです。 大きな期待はしていませんでしたが、失望を感じます。」

「正門で外部の警備員と衝突し、 横断幕をかけたことまで会社が不法だとか名誉毀損だとか言って告訴しました。 組合員たちが関わっている事件は11件ですが、検察がすべて起訴しました。 罰金、執行猶予.... 速戦即決です。 一件も時間がかかったり、不起訴や無罪宣告をしません。 法が傾いているのです。 その一軸に悪魔のようなキム&チャンがあります。」 (チャ・ホノ、旭非正規職支会支会長)

もう責任者でなければ信じられない

一時間近く、判事と検事、弁護人、三人のうっとうしい対話が続く。 判事はかなり時間が過ぎたから、次の期日をとらえて終えようと言う。 裁判が終わった後、 旭硝子非正規職労働者たちは今年中には裁判が終わらないと思うという、 不幸な予感を分けあいながら工場前の座込場に向かう。

映画「爆発する黄昏」の後半部でパングク氏は、 自分が銀行職員ではなく職員3人しかいない銀行の駐車管理用役業者に所属していたことを知って大きな衝撃を受ける。 用役業者のチーム長はすでにパングク氏が送った爆弾座布団を尻に敷いていた。 パングク氏は用役会社のチーム長に尋ねる。

「では、いったい私は誰と一緒に 誰のために働いていたのですか?」

爆弾が爆発することを恐れたチーム長は、 結局やむをえず復職をさせてあげると言った。 パングク氏が話す。

「申し訳ないが、責任者でなければもう信じられません。 あなたはこう考えるかもしれません。 駐車場の職員ごときがどうしてこんな大騒ぎをするのかと。 私のような人は、いつもじっとしていなければならないのか?」[ワーカーズ56号]

[脚注]

[1] 〈野花、工団に咲く〉、旭非正規職支会著作、2017年、ハンティジェ

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2019-07-04 06:00:19 / Last modified on 2019-07-05 20:30:48 Copyright: Default

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