本文の先頭へ
LNJ Logo 韓国:大宇造船の救済金融交渉が残した傷
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 20170510
Status: published
View


大宇造船の救済金融交渉が残した傷

[ワーカーズ]経済から見る世の中

ソン・ミョングァン(チャムセサン研究所) 2017.05.04 08:34

本当にこれしか出来なかったのか

4月17日、大宇造船海洋の債務調停案が紆余曲折の末に合意した。 互いに対立した産業銀行と国民年金の交渉が解決したためだ。 それでなくても崔順実(チェ・スンシル)-サムスンゲートで国民年金は焚きつけとして動員されたという批判が提起され、 最近急浮上した国民年金の債務調停案受け入れの可否は焦眉の関心事であった。 すべてのニュースポータルサイトには自分たちの老後の資金を「ゾンビ企業」に払う行為だというコメントもあふれた。

しかしここで私たちが注目する点は、産業構造調整の主体である政府は後に退いて、 事態の解決が国民年金と産業銀行の綱引きとしてのみあらわれた点だ。 このような解決の過程は果たして合理的だったのだろうか? 政府は問題解決の優先順位が債権団の自律構造調整にあると強調した。 そして、もし債務調整交渉が妥結しなければ、「Pプラン」と呼ばれる超短期法定管理に入ると話し、 すべての準備作業を終えたと何度も明らかにした。 それと共に大宇造船が「Pプラン」に入れば債権団の損失は自律債務調停案よりさらに大きいと強調した。 事実上、自律財務調整を選択せざるをえないということだ。 答はすでに決まっているので、国民年金は早く決断しろという言葉と違わなかった。

しかし現在の崔順実-サムスンゲートの捜査で国民年金は政治的外圧を受け、 背任行為を行ったと批判されている。 こうした状況で一方的な債務調停案がそのまま受容されてはならない。 しかも4月の会社債満期がわずか一か月先に予定されている状況で、3週間以内に債務調整を承認しなければならないという立場になれば、さらに事態の解決は難しい。 それで国民年金に対する同情論と共に、大宇造船の清算を主張する世論が強まった。 「ゾンビ企業に私の老後の資金を与えることはできない」という論理が大勢になったのだ。

[出処:パク・タソル記者]

今、劇的な妥結で一旦整理されたこの時点で、短いが強烈だった数週間の論争をふりかえってみよう。 まず「Pプラン」という言葉に隠れた政府の卑怯な態度を指摘せざるをえない。 そもそも政府は自律債務調整の方がPプランより損失が小さいという理由で、 事態が極端に駆け上がるまで放置する必要は全くなかった。 政府の介入を自制して社債券団の自律構造調整を優先したという論理の中に隠れる問題ではない。 今回の債務調整で最大の損失を負担する産業銀行、輸出入銀行、国民年金、郵政事業本部などはすべて公共機関なので、 この事態の解決の過程で政府の介入自制を云々すること自体が名分でしかない。 たとえば企画財政部傘下の公共機関として、国家の財政で資本金を充当する輸出入銀行は、この過程で最大の損失を抱えることになった。 その上、大宇造船の永久債(元金償還なしで利子だけを受け取る債権)の金利を3%から1%に下げて受け取ることに決定した。 もし誰かが輸出入銀行を国民年金と比較して、同じ論理で「ゾンビ企業に私の税金を与えることはできれない」と主張すれば、 政府はこれを額面通り受け入れて後に隠れてしまうだろうか?

「損失の社会化」に対する大衆的な批判に対して政府が取るべき正しい態度はこれではない。 事実上、国家財政に対する負担になり、すでに損失が社会化されたのに、 まるで政府介入を最小化すべきという名分に執着することこそ、 どっちつかずの最悪の態度だ。 こうした論理は今後、構造調整された大宇造船をしっかりした企業に発展させ、 民間に売却すべきだという論理とも通じる。 この途方もない救済金融と構造調整の苦痛に耐えて作った国家資産をなぜ売却しなければならないのか? 辻褄が合わない。

また、政府はこの議論の中心に国民年金を置き、国民年金に対する大衆的不信をまた大きくしてしまった。 国民年金が要求する通りに無保証確約書を産業銀行は関連法規を口実に拒否したが、 これは国民年金の資産を国家が守る防御装置がないことを大衆に認識させた。 これは数年前、大衆が国民年金に対する国家保証の法制化を要求した時、 政府が負債比率の上昇を理由に拒否した論理を連想させる。 結局、こうした対立は国民年金に対する大衆の不信を大きくし、 私的年金に依存する心理的な傾向を強化した。 さらに同じ心理とともに現在、大宇造船の債務調整の議論は、「大宇造船清算」に簡単に同意させるようにした。 その上、大宇造船の労働者を国民の財布に寄生するガンのような存在にまでしてしまった。 果たして政府はこの事態をこれほど引っ張っていくしかなかったのだろうか?

損失の社会化は、利益の社会化に進めろ

しかも残念な点は、どの政治勢力もこのような議論に積極的に対応できなかった点だ。 むしろ、市場自律という名分に捕われて清算主義的な見解に同調する態度を取る理論家が多かった。 しかしすでに国家的な損失の社会化がかなり進んでいる状況で、のんきに市場主導の不実整理という原則的な話をするのは事態の解決には全く役に立たない。 前述の輸出入銀行の永久債金利引き下げは、事実上、大宇造船に政府の予算をそのまま与えるようなものだ。 なぜなら1%という永久債の名目金利は事実上インフレ率よりも低い金利で、実質利率がマイナスだからだ。 その上、永久債は元金償還がない債権なので、事実上元金をそのまま与えることと違わない。 もし誰かの青年が、自分の未来への投資として1%の永久債を発行するから国家が買ってくれと言えばどう答えるだろうか? ある人は業界の状況が不確かに見える大宇造船より未来が期待されるこの青年に国家が投資する方が良いと答えるかもしれない。 果たしてわれわれはどう答えるべきか? 実際、一部の地方自治体が青年配当、青年手当てなどの青年支援政策を施行した事例を考えれば、そのまま聞き流せる質問ではないだろう。 恐らくこうした投資家共同体の利益にどう符合するのかが判断の根拠になるのだろう。

したがって政府は今回の大宇造船救済金融の交渉過程が国民年金の損失をめぐる議論に拡大することを防ぐべきであった。 そして大宇造船に対する救済金融で国民が得る利益が何かと詳細に説明するべきだった。 もし私たちが得る利益が何もないのなら、当初からこうした議論は始まることもなかっただろう。 問題は共同体の信頼だが、その利益が皆に共有されると説得するためには、大衆的な信頼が土台にならなければならない。 しかし「損失の社会化」に耐えた苦痛の結果が「利益の社会化」という実となって皆に戻ってくる過程を私たちはまだ一度も経験したことがない。 97年の外国為替危機と2008年の金融危機の時、不良企業に対する莫大な金融支援があったが、 それで生き返らせた国有企業と私企業から国民がどんな利益を得たのか、すぐには思い当たらない。 むしろ経済を生かすという名分で譲歩した労働法改正により、非正規職派遣労働者が大幅に増え、整理解雇が日常になった。 そして財閥大企業の余剰金は増え、大衆は借金をして使う反対の状況になった。 今、損失はこうしていつも社会化されたが、利益は社会化されないというこれまでの誤りを批判する時だ。

もし私たちが今回の大宇造船救済金融を契機として利益を社会化させようとするのなら、 民間売却を云々することをやめなければならない。 そして果たして国有企業が何か、韓国社会の公共資産が何かをまず再規定しなければならない。 現在の大宇造船不実事態の最大の原因を招いた海洋プラント事業は、 一時「金融危機に勝ち抜く新しい食い扶持」という言葉を聞くほどの有望事業として賞賛された。 しかし当時は国有企業だった大宇造船の経営態度は私企業とほとんど違わなかった。 出血競争を拒み、低価格受注に没頭して、プラント事業に非正規職社内下請労働者を大挙雇用した。 そして労災で命を落とす労働者は毎年増えた。 そして2015年から事業が悪化すると、彼らは難なく解雇された。 現在、彼らはほとんどが整理解雇されて正規職だけが残っている。 今はこの正規職も今回の救済金融の代価として人員削減に入る状況に置かれた。

このように、大宇造船はひと回り回って原点に戻ってきた。 また過去を繰り返すのだろうか? あるいは利益の社会化に進むことができるだろうか? 残念なことに、われわれはあまりにも考えが遅く、 その歩みは長いあいだ試みることさえできなかった。 今こそ新しい第一歩を踏み出す時だ。[ワーカーズ30号]

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2017-05-07 04:07:30 / Last modified on 2017-05-07 04:07:32 Copyright: Default

関連記事キーワード



世界のニュース | 韓国のニュース | 上の階層へ
このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について