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韓国:密陽希望バス1泊2日訪問記
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送電塔・核発電反対、労働者実践を提案して

[寄稿]密陽希望バス1泊2日訪問記

パク・ジョンギュ(非正規職ない世の中作り) 2013.12.04 18:02

密陽の空は青かった。冬の訪れを知らせる時期はずれの吹雪と厳しい寒さが過ぎ去った野原は静まり返っていた。それまで収穫されず爛熟していく柿の木の間から、カササギが飛びたつ。濃霧が広がり始める貯水池の風景は平和な山村の村を描いた一幅の水彩画のように美しかった。

11月30日午後3時、76万5000ボルトの109番と110番の送電塔が通る道谷貯水池に 到着した。どこからか歌声が聞こえてきた。火をおこしてとても楽しそうな声 で「ポンチャック」を歌うおばあさんの笑い声に緊張して震える心があっとい う間に消えてしまった。赤紫のチョッキに毛糸の帽子をかぶり、棒をたたきな がら、昔の歌を合唱する姿は、どこかの田舎の村の風景そのままであった。

希望バスが一つ二つと到着した。なつかしい顔が見える。双竜自動車解雇者、 現代車牙山工場非正規職労働者だ。金属労組大田忠北支部組合員もいる。 知らない顔はもっと多い。

おばあさんの後から後ろ手に組んでいたおじいさんがトラックに乗れと言う。 六、七台のトラックの荷台に村の住民と希望バスの乗客が共に上がる。一日に バスが二回しか通らない、くねくねとした田舎道を上がると警察が見え始める。 警察バスの終わりが見えない。ざっと30台ほどはいるようだ。

ある村の住民が手まねきする。「夜明けに警官があの山にぎょうさん登りよった。 そこが送電塔が立つ所や。わしらは止められて、一ぺんも登れらん」。

おばあさんの歌声に緊張は消えて

おじいさんたちは、急がなければ日が暮れる前に降りられないという。労働者 と住民が入り乱れて忙しく歩く。70以上に見えるおばあさんもツエをついて 山道をのぼる。300人ほどだろうか。警官はもっと多いだろうが、心の一角に 心配がやどる。

年齢が高い住民は遅れ、希望バスの乗客が先頭に立つ。30分ぐらい歩いたか、 警察が盾で遮る。5、6人も通れるかというような狭い道、右は尾根、左は断崖だ。

危険だから道をあけろという声と、警察の掛け声、斜面を滑り落ちた人の悲鳴 が入り乱れる。尾根を這い上がり、木と岩を越えて斜面を降りて上がって…。 しばらくしてまた山に登る。警察も私たちの後から一緒に登る。山の中を登る 苦しい登山にシュプレヒコールの声が力強い。

「送電塔を作るな」 「核発電を中断しろ」

一時間ほどすると、また警官が現れた。今回は数がとても多い。大きな岩を中 心として坂道の上でぐるっと取り囲み、乗客を遮る。あちこちで小競り合いに なる。がっしりした人たちが先頭に立つ。警察が遮っていない所をしばらく歩 いて上がる。あたふたと警察が防ぐために駆けつける。その間を人々が上がる。 警察と希望バスの乗客、住民が入り乱れる。私たちと警察が一緒に山に登る。

▲密陽市上東面道谷村110番送電塔の建設現場に登る希望バス乗客と、その後から一緒に登る警官たち

警察と入り乱れて山を登る

頂上が近くに見える所には、警察がはるかに多かった。婦人警官もいる。日が 薄暗くなっている。山は早く日が暮れ、山の中は危険なので5時前には山を降り なければならないといったが心配だった。

この時だった。村住民の1人が大声を上げた。ここを越えさえすれば送電塔工事 現場だという。警察に阻止され、今まで一度も行けなかったという。二つの目 で見るだけでも願いがかなうと話す。

人々が最後に頑張る。婦人警官に捕えられて恐れに震えている若い女性を村の 住民が行って救ってくる。数字がはるかに多い警官が一人ずつ取り巻き、解放 されるということを繰り返す。警察を避けて尾根に上がった人たちが、送電塔 工事現場の鉄条網に到着して大声を上げる。ついに警察は鉄条網の前まで押し 出された。

目の前に残酷な工事現場が広がった。110番工事現場だ。美しい山にセメントの 塊りが醜く置かれ、鉄筋の塊りが板に刺さっていた。山頂まで上がってきた4人 のおばさんが抱き合って涙声で話す。なぜ政府と警察にこんなことができるの かと痛哭する。そばにいた希望バスの乗客の目からも涙が流れる。

残酷な工事現場を目撃した二つの目には涙が

とても有難い、希望バスでなければ、この惨憺たる工事現場を見ることもでき なかったと、今日私たちの願いがかなったと、もっと暗くなる前に降りようと 密陽お母さんが言う。人々が集まって集会をする。次は、この工事現場を必ず 取り戻すと約束する。送電塔工事を必ず中断させると決意する。

もう山は暗くなっていた。足を速める。山頂に登れず座っていたおばあさんの 手を取り、軽い足取りで村に向かう。110番現場に登った警察が山の中腹に座っ ている。催涙液の発射機が見える。この素朴な密陽住民に警察は催涙液を撃ち たかったようだ。

山を降りる前に完全に暗くなった。街灯一つない山奥の村、前の人について村 に到着した。急いで生死(?)を確認してバスに乗り、文化祭が開かれる密陽駅に 向かう。七十を越える住民もバスに乗る。バスの中で幸せな微笑が広がる。

▲警官の後に110番送電塔建設現場

催涙液を持って山に登る警察

密陽駅は祭りの現場そのものだった。列車を利用してくれという要請を振りきっ て八十の老駆を率いて希望バスに乗った白基玩(ペク・キワン)先生の言葉と 現代車非正規職をはじめとする闘争する労働者たちの声は感動だった。

韓電と警察は寝て飯を食べること以外はみんな嘘だとし、死んでも送電塔を防 ぐという密陽のおばあさんの絶叫が胸に長く深くしみた。密陽のお母さんたち によって構成された合唱団の「年がなんや〜、デモをするのにええ年や」は、 文化祭の白眉であった。

122番送電塔のヨス村で、110番送電塔の道谷村で、96番送電塔の桐花田村で、 密陽住民と希望バスの乗客が手に手を取って一緒に登ったという知らせに密陽 駅は割れるほどに歓呼した。夕食が足りず飯にありつけない人が続出したが、 人々の顔はいつより幸せな微笑でいっぱいだった。

文化祭の後に帰った村ごとに村祭りが行われた。住民が金を集めて豚をつぶし、 越冬用キムチを出し、醸造場からマッコリをもらってきて、村会館ごとに乗客 をむかえた。麗水村会館をはじめ、12の村で住民と希望バス乗客が名節故郷の 家に帰ったように賑やかな夜を送った。

密陽駅は祭りの現場、村ごとに村祭り

12月1日、道谷貯水池の座込場には100人ほどの村の住民が早朝から話に夢中に なっていた。110番工事現場を見てきた話、前夜に村会館で行われた祭りの話、 警官をこらしめた話が笑い声と共に聞こえてきた。

警官との小競り合いは朝から続いた。あるおばあさんは食事を運ぶ警察を防い で、「あんたらも、うちらがご飯を持っていくのを邪魔したやないか」と大声 を張り上げた。村に降りる車は通そうという言葉に、降りて行くやつらも 「止めなあかん」と言ったた。

希望バスがくる前に、おばあさんが受けた悲しみがあちこちから出てきていた。 朝食中も、ノド自慢の時間も、戦争は終わらなかった。

イ・チウお年寄りが焼身してまで送電塔を防ごうとしたポラ村の決意大会まで 一時間しか残っていなかった。村の住民が前日、現場まで登ったので、今日は 山に行かないでおこうという。何も準備ができていない状態、即席でマイクを 準備して希望バス乗客と4つの村の住民たちの歌祭りを繰り広げる。

村長とお年寄りのありがとうという言葉と、また訪ねてくるという希望バスの 乗客の決意が続く。工事が本格化する来年の春にはもっと大きな希望バスに乗っ て、工事を防ぐためにまたくると約束する。

▲12月1日朝、道谷貯水池で村住民と希望バス乗客の歌祭り(1)

「来年の春に密陽希望バスまたきます」

前日送電塔に登ったコタプ村のチョ・ボンニョンお母さんの楽しいポンチャッ クの調べに集まった300人ほどの肩が揺れた。希望バスの乗客は、ハーモニカと 太平簫の演奏で応えた。

二十で嫁にきて、九十になっても密陽で暮らすあるおばあさんが、かろうじて ツエをついて立ち上がって話をする。マイクを持つのも大変なおばあさんは、 私が死んだらこの成り行きを見なかっただろう、この美しい村を頼むからその ままにしてくれと絶叫される。人々の目に涙がたまる。別のおばあさんも出て きた。十七で嫁にきて暮らしてきた話をすると、歌を一曲歌う。

「道谷ノド自慢」の絶頂は、「村の趙容弼」と呼ばれるおばあさんのソロ・コ ンサートだった。おばあさんは五曲を歌い、村全体を興奮のるつぼに叩き込んだ。 双竜車労働者たちがおばあさんの横で踊りながら、アンコールと叫んだ。 後ろ手を組んでおばあさんたちのノド自慢を見るおじいさんたちの顔には笑い でいっぱいだった。

即席で道谷の4つの村と希望バスの姉妹提携がなされた。ソウル、京畿、忠南、 忠北、江原希望バスの乗客は、2次希望バスの前にも村を訪問すると約束した。 最後に朴槿恵大統領に送る要請文を朗読した後、希望バスの乗客は住民たちに 「私たちが密陽だ」と書かれたハンカチを首にかけた。

希望バスと村が姉妹提携

村の若者(?)たちは、バスに乗ってポラ村に向かい、八十を越えたお年寄りが 座込場を守る。両手をしっかり握ってずっと有難いと言う。故郷に来た子供と 孫を送るように、惜しみが満ちたの顔で抱いてくれる。

あるお母さんが呼びとめて食べろと言ってビニール袋一つを渡す。ノド自慢が 終わって急いで家に行ってきたようだった。ポラ村で最後の決意大会を終えて 涙を拭くおばあさんを後にしてバスに上がった。

酒のつまみにするためにポケットからビニール袋を取り出したところ、いったい 何だかわからない。お母さんに電話をすると、黒ニンニクだという。大変だった ろうから、頑張れと言う。黒ニンニクは即座に品切れになって、ソウルに帰るまで 希望バスは胸が痛いが幸せだった1泊2日の話に夢中になる。

▲12月1日朝、道谷貯水池で村の住民と希望バス乗客の歌ハンマダン(2)

故郷に来た孫を送るように

2011年6月11日、韓進重工業85号クレーンに上がったキム・ジンスク指導委員を 生かし、整理解雇を防ぐために生まれた希望バスは、双竜車と現代車非正規職 の希望バスにつながり、密陽希望バスを作り出した。

密陽で会ったある環境運動家は、労働と環境が初めて出会う希望バスがとても すばらしく、胸が高鳴るという。福島事故により環境問題への労働者市民らの 関心が高まった。だが労働者はサバやタラ、海産物は買わないのに、核発電所 と送電塔にはあまり関心がなかった。

全身で送電塔工事を防ぎ、現代車蔚山工場、双竜車平沢工場に来た密陽住民が いなければ、労働者たちが参加する希望バスは容易ではなかっただろう。密陽 でなければ、労働者たちも整理解雇や非正規職問題を越えて、環境問題で希望 バスに乗るのは難しかっただろう。密陽のおばあさんやおじいさんが架け橋に なって、労働者と環境を繋いてくれたのだ。

11月1日、金属労組現代自動車支部選挙に立候補した五人の候補は「核のない世 の中を願う、密陽送電塔阻止のための共同宣言文」に署名しつつ「環境と労働 を共に実践する労働運動の風土を作り出す」を約束した。彼らは、△核発電所 追加建設反対、△密陽住民の生存権死守闘争支持、△核のない世の中のために 積極的に連帯すると約束した。

今回の密陽希望バスには現代車非正規職、双竜車労働者をはじめ、闘争する多 くの労働者が参加し、現代車正規職労働者も参加したが、相変らず労働者の 関心は工場の塀を越えられずにいる。

密陽は労働と環境を繋ぐ架け橋

釜山、蔚山、昌原、慶州、浦項など、労働者が集まって暮らす都市は核発電所 から100km県内にある。福島の甲状腺ガンの発病率は他の地域の7倍高く、福島 原発から250kmほど離れた東京湾の河口でも、高濃度放射性セシウムが検出され たほどだ。

密陽希望バスを契機として労働者が核発電と送電塔問題を解決するための多様 な事業をしてみてはどうだろうか? 労働組合の幹部の修練会を密陽村会館で行い、 住民と対話の時間を持ってもいい。

核発電所に隣接する労働者の都市から、核発電所と密陽送電塔建設に反対する 労働者宣言を受け、これを全国に拡散してみてはどうだろうか? 工場に核発電 と送電塔に反対する横断幕も付け、労組の機関誌で知らせるてもいい。

組合員で募金をして、密陽を訪問して渡し、村ごとに姉妹提携を結べばさらに いいい。こうした気持ちが集まれば、雪が融けて送電塔工事が本格化する時、 また出発する密陽希望バスはもっと豊かで美しいバスになるではないだろうか?

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2013-12-05 02:30:48 / Last modified on 2013-12-05 02:30:48 Copyright: Default

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