

〔レイバーネット国際部・I〕
前回から一か月以上たってしまいましたが、続きです。職場や帰宅の途中で受けた性暴力
被害を職場や婦女連合会に訴えたところ、逆に自分が責められた、という酷い(けど日本
でもよくある)話です。ひどい。
原文はこちら。
https://aquariuseras.substack.com/p/fushikang-xiaofang
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「何もなかったフリなんてできない」
2018年11月2日、梅龍路の歩道橋で強姦未遂事件が発生した。ニュースのキーワードには
「通勤ラッシュ」「暴力的な痴漢行為」「常習犯」「防犯カメラなし」、そして「被害者
の重いトラウマ」が並んだ。この事件は工場内で一時大きな話題となった。この歩道橋は
工場エリアの北門からわずか100メートルしか離れておらず、工場エリア外の寮に住む労
働者にとっては毎日通勤に欠かせない場所だったからだ。
食堂では、小芳と女性労働者たちが集まり、事件について話し合った。女性労働者たちは
、露出狂に遭遇したり、バイクタクシーの運転手に胸を触られたり、ストーカー行為を受
けたり、痴漢行為に遭ったりなど、自らのセクハラ被害体験を語りあった。小芳は、この
ような経験をしたのは自分だけではないことに気づいた。その年の4月、彼女は夜勤を終
えて帰宅途中、隅にしゃがんでいた男に痴漢され、引きずられそうになったが、大声で叫
んで逃げることができた。7月には歩道橋の近くで再び痴漢に遭った。相手は同じ工場の
男性労働者で、運よく逃げることができた。それまで小芳は性教育を受けたことがなかっ
た。二度の痴漢は短期間に起こり、「立て続けに襲われてひどいトラウマになった」と語
った。
被害に遭ってからは、彼女は常に恐怖に怯え、眠っていても影が潜んでいるような感覚に
陥った。痴漢に引きずり回された時に顔を上げたので、闇夜に浮かんだ痴漢の顔を覚えて
いる。その顔は幾度となく彼女の脳裏に浮かび、一晩中眠れなかった。夜道を歩いている
と、また誰かに尾行され、腰を抱きしめられ、口を塞がれるのではないかと不安になった
…。ある時、作業場に入ると、男性の同僚が彼女の肩を軽く叩いた。彼女は最初、彼を押
しのけようとしたが、押しのけることができず、涙が頬を伝った。彼女はこの状態を「怯
え」だと感じた。「人は怯えてしまうと、立ち直るのに1、2年かかる」と彼女は言った。
誰かに打ち明けようとしたが、いつも言葉が終わる前に涙が溢れ、それから1、2時間は泣
き続けた。彼女は父親に話したが、父親は「お前は将来結婚するんだから、たとえ『ひど
い目に遭った』としても、人に言うんじゃないぞ」と彼女に言った。彼女は工場の男性同
僚たちにそう言ったが、彼らは「男勝りのあんたが俺たちを襲わないだけでありがたいよ
」と冗談で返すだけだった。周囲の無関心は、彼女にとって二次トラウマになった。知ら
ない人が見ると、小芳はぼうっとしていて食欲がないように見えた。他人とコミュニケー
ションを取ることを拒み、人と目を合わせることさえしなかった。誰かに触れられると反
射的に身を引いてしまう。「実際、息苦しくて、もう生きていられないような気がしまし
た」。
苦しみとの格闘を続けた小芳は、生き残るための道を模索し続けた。周囲の女性労働者も
よく性暴力被害を受けることを知った時、小芳は一つの考えを思いついた。「もう何もな
かったようなフリはできない」。彼女は龍華区の婦女連合会〔政府公認の官製女性団体〕
の事務所に被害者みんなで行って、夜勤の女性労働者の安全問題を報告しようと提案した
。ちょうどその日はみんな早番だったので時間があった。婦女連合会の事務所で、夜勤の
勤務区域に街灯や防犯カメラを設置すること、女性労働者に対してセクハラに関する安全
知識を広めることなどを訴えた。小芳は事務所を後にする際に、申請用紙に自分の名前と
電話番号を記載し、自分がフォックスコンの従業員であることも伝えた。
数日後、婦女連合会から電話がかかってきて、「フォックスコン労働組合と協力してあな
たの要求を解決します」と言われ、驚いた。婦人連合会からの連絡を受けて、会社から小
芳に連絡がきたが、その際に婦女連合会に報告した小芳のセクハラ被害についても社内で
広まった。小芳は人事部に呼び出されたが、そこには現場の職長、婦女連合会の担当者、
労働組合の役員、従業員相談センターのスタッフ、法務部門の担当者がすでに集まってい
た。「たくさんの人が私を取り囲みました」。しかし、彼らは彼女を支援するというより
も、被害者である彼女のほうに落ち度があるかのように対応したという。
これらの人々は、彼女が現場で警察に通報せずに証拠も残さなかったこと、警察署でデー
タを確認したが痴漢事件に関する通報はなかったこと、事実確認ができるまでは何も動け
ないこと、安全に関する研修は来年度に実施するがあくまでフォックスコン職員を対象に
したものなどと告げた。労働組合の委員長も「工場の女性労働者の多くがこのような目に
遭っており、私たちの事務所のスタッフも被害者ですよ。数日前にも、女性スタッフがト
イレをのぞかれたと言ってました。だからと言っていったい何ができるのですか」とさえ
言う始末だった。
小芳は自分のせいでこの問題が大事になってしまったかのように感じたが、自分の身を守
ることができなかった。彼らは小芳にこう問いただした。「なぜ現場で警察に通報しなか
ったのか?なぜ相談ホットラインに連絡しなかったのか?なぜ証拠を残さなかったのか?
なぜ他の人と一緒に帰らなかったのか?なぜ大きな道ではなく近道を使ったのか?」
小芳は怒り心頭だった。「本当に問題を解決したいのなら、街灯の設置方法や巡回警官の
増員について話し合ってみたらどうですか?婦女連合会がどのような研修を実施できるか
、梅龍路の歩道橋をどう改善するか、すぐに話し合わないんですか?なぜ私たちだけに自
分で気をつけろと言いながら、私たちの個人情報を調べたりするのですか?」 小芳は婦
女連合会の事務所に一緒に行った女性労働者たちの名前を明かすことを拒否した。
その後、従業員相談センターのスタッフは、小芳が「心の病」を患っているのではないか
と質問し、会社の心理カウンセラーが小芳に対して、被害を受けたのは何分何秒、どこで
、どのように性的被害を受けたのかを詳細に尋ねた。小芳は堪忍袋の緒が切れた。「私は
被害者ですよ。何度も何度もトラウマに傷ついてきたのに、今度は会社の管理者らの前で
、何度も何度も傷つけられることを言われる。しかも同じ質問を7回も8回も」。これはベ
テラン社員の友玲にとっては思い当たることだった。「フォックスコンでは何か事件が起
こると、その問題を解決するのではなく、問題を提起した人をかたずけようとする」。
「問題を解決する」ことは徒労に終わった。さらに小芳は日常生活のなかで色眼鏡で見ら
れ、噂話の種にされることになった。そし間もなく彼女は異動を勧められた。「昇進チャ
ンス」と言われたこの異動は、実際には、通勤距離がより遠く、通勤経路もより暗いとこ
ろへの配属だった。小芳はさらに恐怖に駆られた。新しい部署の職長は彼女の名前を呼ぶ
なり、他の社員の前でこう叫んだのだ。「レイプされたってのは君?」 翌日、彼女は元
の部署に戻った。元のチームリーダーのもとに出勤する様子を動画に収めた。「戻りまし
た」と告げた小芳は、絶対に辞めるものかと誓った。
(つづく)
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Last modified on 2025-10-30 15:54:45
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