| 美術館めぐり:「漂着」展 ジャム・セッション(アーティゾン美術館) | |
| [MenuOn] Home | ニュース | イベント | ビデオ | キャンペーン | 韓国 | コラム | About | Help [login ] | |
|
志真斗美恵 第17回(2025.11.24)・毎月第4月曜掲載 ●「漂着」展 ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子(アーティゾン美術館) 沖縄と東北から継承を考える「漂着」展は、東京駅近くのアーティゾン美術館で開かれている。山城知佳子は1976年沖縄生まれのビデオアーティスト、志賀理江子は、写真家で1980年生まれ、2008年宮城県に移住した。2人とも40代の若いアーティスト。 3階で受け付けを済ますと、まず、エレベータで美術館6階に案内される。全体が、山城知佳子の部屋で、暗闇の中、天井から何枚もの布がたれさがっている部屋に入る。4つのスクリーンがあり、絶えず映像が映され、音が流されている。解説によると、山城の父達雄(1936−)の記憶を起点としているのだが、それと気づかないないまま、映像を見る。老人=父が、幼いころ経験したパラオの風景と沖縄に生きる人びとの戦争、そして戦後の映像が映されている。 インスタレーションにつけられた「Recalling(s)」とは、「思い出す/呼び戻す」の意味。パラオの青年や廃墟、ガマ、シンガー斎藤梯子(1935−)が歌い金城義雄がドラム弾く「we shall over come …」、米占領下で祈りを通して抵抗した牧師・平良修(1931−)の説教、喜納昌吉(1948−)が三線(サンシン)を弾き歌う「ハイサイおじさん」が、つぎつぎに映されていく。東京大空襲の夜、兄弟や母を失った亀谷敏子(1931−)は、大写しされた家族9人が写った古い写真を前にすすり泣きながらその夜の体験を話すスクリーンもある。それぞれの名前は紹介されない。 自然が破壊されて行く様、辺野古の反対運動や土砂を運ぶ業者たちの膨大な数のトラックの様子などがあったが、私にわからない画面もあり、展示を見た、特に若い世代の人と話し合いたかった。 志賀は、5階全体を使っている。写真と詳しい言葉の説明がある。原子力船「むつ」をもとにした全長11mのターポリン製の船もある。1965年むつ市大湊港進水、1948年8月28日初の臨界達成、9月1日放射能漏れ発生との文章も読める。第五福竜丸が被爆したビキニ核実験で1422の船が被爆と書かれてる。「大丈夫です 核の産業は滅びません 核と国は強い力で繋がっています…」という文も読める。 会場全体に蛙の声が響き、人と自然、知と身体を思わせ、現代が抱える問題を考えさせる。 「ジャム・セッション」として、山城の展示室にジンジャー・ライ・マンドゥワラワラの作品、志賀の展示室には、アルベルト・ジャコメッティ、ヘンリー・ムーア、瀧口修造の作品が各1点展示されていた。 展示された山城作品は、本展閉幕後には那覇文化芸術劇場なはーとに、志賀作品は青森県立美術館の大日本大震災15年志賀理江子展(仮題)に展示される。 タイトルの「漂着」の意味を、あらためて考えてみなくては、と思わせられる展覧会であった。 5階会場外の窓辺に「反戦反核」と大きく手書きされて、100冊以上の本が紹介されていた。高岩仁や加藤直樹、韓国語や花岡事件のものなどゆっくり手にとりたい本が多かった。 短信:「ケーテ・コルヴィッツ展――平和の轍を繋げる」(津田塾大学創立125周年記念事業・小平キャンバス津田梅子記念交流館山根記念ギャラリー 12月18日まで 土・日曜日休館)〈生者から死者へ 1919年1月15日の追憶〉と刻まれた「リープクネヒト追悼」もある。理不尽な死に追い込まれた無数の人びとの代表として、彼女はリープクネヒトを描いた。それは、彼女の母としての悲しみが、抑圧された人びとの悲しみに転換された作品であり、今なお、見るものの心に響く力を持っている。 「ケーテ・コルヴッツへ捧ぐ」として、画家・山内若菜が文章と絵画3枚を今回の展覧会に寄せている。「コルヴィッツは、小さく愛おしい柔らかな存在を、優しく描き出す。そして力強い腕で守る。」「静かな、しかし魂の叫びのある、ケーテ・コルヴィッツの魂を学び引き継ぎ、そして今を届けてゆきたい思いです」と文を寄せて、「仔馬を抱く娘」を描いている。彼女は、3・11以後福島の牧場に通い続けている。「仔馬を抱く娘」は、ケーテ・コルヴィッツの「死んだ子どもを抱く母」(1903)を連想させる作品で、ケーテへの共感」をこめて作品を捧げたのは、山内だけではないかと思う。 彼女は、5月から6月にかけて同じ場所で、津田塾大学創立125周年記念「命をみつめる」展を開いている。彼女と津田塾大学出身であり現在当大学で講座も持っている詩人・作家の小池昌代とのギャラリートークが10月19日にあった。現在Uチューブでみることができる。 山内若菜の作品については、昨年12月23日掲載の本欄「絵は絶望を希望に変えることができる」で紹介している。都立第五福竜丸展示館での〈ビキニ水爆被災70年 山内若菜展 ふたつの太陽〉で、第五福竜丸の左舷全体を覆う作品が展示されていて圧巻であった。 Created by staff01. Last modified on 2025-11-25 17:28:17 Copyright: Default | |