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〔レイバーネット国際部・Ｉ〕
僕も少しだけお手伝いした『なぜ中国は環境破壊を止められないのか』（リチャード・ス ミス著、寺本勉訳、柘植書房新社）が発売されました。宣伝です。 出版社サイト https://tsugeshobo.com/modules/books/index.php?lid=165 さっそく入手して日本語版の序文を拝読。 20頁余りのなかに、本書のエッセンスがギュッと詰まってます！ 原著にある膨大な原注リストからもわかるように、かなりの力作です。 https://tsugeshobo.com/downloads/chinas-environment/index.html 日本語版の本にある訳注も力作です。 以下、ざっと日本語版序文を読んだ感想。 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 日本語版序文の冒頭からしばらくは「グリーン権威主義」と称された中国共産党・習近平 体制の気候政策や二酸化炭素排出量や再生可能エネルギーなどのデータや他国との比較な ど、気候変動問題に造詣の深い読者には難なくクリアできる内容だが、数字の苦手な僕の ような読者には少し（だけ）読みづらく感じるところもある。ただしこれは本書全体に貫 かれている著者のデータや真実に基づく記述、とりわけ気候変動問題はデータがベースと なって議論されることなので仕方ないなぁ、とも思う。 中国一国の二酸化炭素排出量はとっくにアメリカやEUを超えて世界一となっており、一人 当たりでみても2012年の時点でEUを超えて、2020年には先進国平均を超え、2023年にはア メリカの一人当たりの排出量の３分の２を超えるまでに増大したこと。 一方で、2020年の国連総会で習近平が「グリーン低炭素の発展様式へ移行する」、「CO2 排出量を2030年までに減少に転じさせる」などと述べて、世界でも再生可能エネルギーに よる発電能力ではかなりリードしているにもかかわらず、実際には膨大な太陽光や風力発 電が利用されず、炭素集約（多排出）型業である炭鉱や鉄鋼などの生産力を維持している という。 また水や土壌、食品汚染の状況も酷いもので、具体的なデータを提示しつつ、「エコ（生 態）文明を建設する」とぶち上げた独裁政府がなぜそのような状態を放置しているのかな どの疑問が提起されている。 党の政策や権力者を批判する報道の自由、それを裁く司法の独立がないことが党体制によ る環境汚染の暴走を防ぐことができない理由の一つに挙げられているのだが、それは根源 的な理由ではない。 「2013年に始まった終わりのない「腐敗との戦争」が150万人もの官僚、すなわち党書記 企業の最高責任者、将軍、提督、警察や秘密警察のトップ、ほとんどの規制機関の幹部 銀行首脳などを摘発したのに、勝利していないのと同じく、汚染との戦争も決して勝利 を収めることはない。」（19頁） 「本書は、中国における汚染削減の主な障壁が技術的・経済的なものではなく、政治的な ものであると主張する。私は、中国のハイブリッド市場化されたスターリニスト経済には 資本主義の利潤最大化という原動力とは異なり、それ以上に強力な組織的・民族主義的 ・国家統制主義的・政治的な原動力が存在すると仮定している。」（20頁） 「中国が二酸化炭素排出の大幅で急速かつ即時の削減にとりくむことを可能にする唯一の 道は『緊急ブレーキをかける』ことである。・・・警察国家の監視カメラシステムやデー タセンターを稼働させ、国内都市を過剰に照明するために用いられる電力の途方もない浪 費をやめることである。しかし、中国共産党は生産抑制という選択肢を受け入れることが できない。なぜならば、電力供給とCO2排出削減が困難な産業は、中国の台頭に不可欠で あり、『中国を再び偉大な国にする』、技術競争に勝つ、アメリカを抜いて世界一の超大 国になるという共産党の願望をささえているからである。」（21頁） そして鳥籠資本主義から国家資本主義、そしてグローバル資本主義の発展、さらには民営 化や土地の権利の市場化で最大限利益をむさぼろうとする官僚腐敗資本主義の今に至るま でが描写されている。 ただ、この辺までは、批判的な中国政治の論評でもみられる内容だとおもう。 これに最後の部分つまり、激動する極右資本主義の中国で奮闘する中国民衆のたたかいが 登場することで、やっとオルタグローバリゼーション運動的な内容になる。 「習近平の立場から見て最悪だったのは、党の統制が及ばない市民社会が盛んに発展した こと、および民主主義と人権に対する要求が更新され、大いに公然化したことだった。そ の要求は、一党支配国家を政治的民主主義と資本主義に置き換えることをはっきりと求め た点で、1989年の天安門における学生たちの要求を超えたものだった。」（27頁） そして劉暁波の「08憲章」が大きく紹介されている。 「2010年代になると、党支配国家は、資本主義・民主主義への平和的進化を迫るさまざま な集中した経済勢力や国内外の政治勢力に直面していたのである。このように考えると、 党が、国家が中心となり国有企業が支配する経済、昔ながらの全体主義政治へと『180度 転換』したことは、それほど驚くべきことではななった。1978年、上級党官僚集団は、共 産党と救うために資本主義を復活させようとして��小平を指名した。それは見事に成功し たが、同時に党に〔今日に至る〕新たな存亡の危機をもたらした。そこで2011年、守旧派 は共産党を資本主義から救い、かつての信条を復活させるために習近平を指名したのであ る。」（27頁） こうして習近平は党トップ就任後すぐに普遍的人権の価値を封じる「9号文献」を下ろし て、新時代の弾圧の予兆がもたらされた。 そして著者は、インターネット検閲の全面化、人権弁護士の大量逮捕、独立メディアへの 弾圧、外国教科書の禁止、独立的研究者の解雇や逮捕、外国のスパイを摘発せよという国 内宣伝の強化、毛派やマルクス派の草の根労働運動への弾圧、環境保護活動家、フェミニ ズム活動家の逮捕などなど、 「2013年からの10年間で、市民社会をほぼ消滅させ、独立した思考を粉砕し、民間ビジネ スや宗教を党の支配下に置き、非政府組織を消滅させ、中国史を民族的記憶喪失のなかで あいまいなものにしてしまった。」（28頁） そして原著を上梓した2020年以降に起こった新疆ウイグルへの統制強化やゼロコロナ政策 とその破綻などについても日本語版序文で触れつつ、党支配体制への消極的抵抗としての 女性たちの「四不」（恋愛、結婚、家庭、出産の４つをやらない）、寝そべり族、９９６ 、そして2022年10月に北京の立体交差「四通橋」に掲げられた巨大スローガン「不要核酸 要吃飯，不要封鎖要自由，不要謊言要尊厳，不要文革要改革，不要領袖要選票，不做奴才 做公民」が書かれたの横断幕が登場したことに触れ、2010年代から本格的に市民権のため に声を上げて投獄されている許志永の名前も記されている。 序文の概要は以上の通りだが、本章にもぜひともチャレンジしたい。 ざっとページをめくってみただけでも、マルクス主義の著者なので、当然だが環境問題を 労働者の視点から描写している箇所もあるだろう。大量浪費をささえる過酷な労働搾取、 汚染産業における労働、産業の構造転換のなかでの解雇、環境産業における労働の実態な ど。 第7章「非常ブレーキをかける」の最後にはブレーキとともにハンドルを切る＝汚染産業 からの構造転換として「全国的な公共労働による雇用プログラム」が挙げられている（ケ ア労働への言及が見当たらないのが気になるが）。 最後の第８章「次なる中国革命」の「資本主義か、それともエコ社会主義か？」という小 見出しで述べられている一節を以てこの本の紹介を終えたいとおもう。 「中国共産党は自ら作り出した最悪の危機であるこの国の環境危機を解決することはでき ない。中国の非常に創造的で、才能があり、勤勉だが長いあいだ抑圧されてきた市民のイ ニシアチブだけが彼らを押さえつけてきた警察国家の束縛から解き放たれ、『急ブレーキ をかける』ために奮闘する世界中の人々に加わって、地球を救うための緊急計画を作り出 し、地球規模のエコロジー文明を創造する道を切り開くことができる。」（353頁） （以上）
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