紹介『抵抗川柳句集』(レイバーネット日本 川柳班編著)
〜『伝送便』の仲間の句も掲載〜
土田宏樹

戦後八〇年、治安維持法一〇〇年を期しての出版だ。
冒頭に『王様は裸だ』という文章を寄せ、
「優れた川柳は、おかしな現実を皮肉や笑いとともに可視化する。思い込みや刷り込みのベールを突き破り、おかしな現実をみんなに気づかせてくれる。」
と、川柳の役割を述べる柳 広司という名前に見覚えがあると思ったら、『南風(まぜ)に乗る』などの小説を書いてきた人である。瀬長亀次郎の生涯を描いていた。近作『アンブレイカブル』では鶴彬(つる・あきら)も登場する。鶴彬(一九〇九〜一九三八)は治安維持法違反に問われて二九歳で獄死した川柳作家だ。「手と足をもいだ丸太にしてかへし」はあまりに有名。
しかし、ここでは『抵抗川柳句集』に寄せられた現代の作品をいくつか紹介しておこう。
人道的にやれと黙認ジェノサイド 笑い茸
笑いではなく怒りがこみあげる。作者も怒りを噛みしめて詠んでいるのである。
銃口にひるまぬ民の底力 夜市
去年暮れに韓国で国会に侵入してきた戒厳軍兵士の前に立ちはだかり、銃口をつかんだ女性を詠んだのだろう。こうした闘いを前に「非常戒厳」宣布は六時間で撤回された。
ファシズムをSNSが連れてくる なずな

*イラスト=壱花花
参政党の進出を予言したか。句集の発行日は七月二〇日で、奇しくも参院選の投開票日と同じであった。
レイバーネット川柳班の句会は毎月開かれていて(会場は『伝送便』事務所も入っている郵政共同センター)、今年四月の会で最高点を得たのは
あっそうと加害の歴史をスルーする 為子
であったという。そのときのお題は「天皇」であった。これほどの秀作でもマスメディアなら絶対に載せないだろうね。レイバーネット川柳班の面目躍如である。
嬉しいのは『伝送便』の仲間であり、郵政ユニオン創設からのメンバーであった齋藤明男さんを追悼するために一ページが割かれていることだ。二〇二一年に六七歳で逝去された吉橋登志彦さん(川柳作者としては<里見羊・北総ラム>)の追悼ページと見開きになっている。斎藤さんは一昨年七月一五日に七八歳で逝去。川柳作者としては<すなふきん>という名前でレイバーネット川柳でも常連であった。
ヤスクニの神にしてやる死んでこい 里見羊
この道を続く人へと茨(いばら)刈る すなふきん
一昨年の七月、齋藤さんの告別式(於 江古田斎場)のとき心の中で詠んだ拙歌をついでに書き加える。川柳で彼を送れればよかったのだが、川柳は不慣れなので三十一文字になってしまった。
秋が立つそれにはすこし早いけど男齋藤いま黄泉へ発つ
頒価七〇〇円。購読申し込みはレイバーネット日本のHPを参照してください。
*この文章は『伝送便』558号より転載・一部補正したものです。
→『抵抗川柳句集』申込みサイト
→『伝送便』HP
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Last modified on 2025-09-05 19:00:40
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