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AYAって、ご存知ですか? ちょうど医療費補助が切れる15歳以上から、介護保険が適用されない30代までの若者のがん患者さんのことをいうそうです。経済的にも弱く、年代的にも闘病とは正反対の自己研鑽して大きく羽ばたくときです。その年代で「ガンになる」ということは想像がつかないくらい辛いことだと思います。これはドキュメンタリーです。

映画紹介『ケアーを紡いで』〜身につまされる死を迎える生き方

笠原眞弓

この映画は、「ガン細胞」を体内に抱えて、治療はもうできないと言われている私にとって、他人事ではなかった。だからといって全く同じではない。人生が放っておいてももうすぐ終わる私と、未だ20代で、これからの鈴木ゆずなさんとは比べられない。彼女はAYA世代(医療支援と介護保険の谷間の15歳〜39歳のがん患者をさす)である。これからの未来ある友だちの中にいて、精神的にも辛かっただろう。そのうえ、経済的にも大変だ。

では、彼女はどう生きたのか。

口内炎が長引き、病院を変えてからが本格的な治療が始まった。2020年2月に病名確定。3月に手術。8月に肺転移発覚。21年3月肺がん治療中断。5月脳転移見つかる。12月の誕生日をベッドから起きられずに迎える。

彼女は病名がわかった時、同居中の翔太さんと結婚をする。それは病が治った時、子どもが産めるようにと「受精卵の凍結保存」を希望したからだ。もちろん互いの気持ちは、打算ではない。夫の翔太さんも入籍のタイミングを計りかねていたこともあって、二人の受精卵を凍結する選択に迷いはなかった。

彼女は、身体の動くうちにと、行きたいところへ行き、やりたいことを次々実行していく。コロナ対策を万全にしての結婚式もしたし、富士山の頂上に足跡を残し、その次の日には飛行機で南へ飛んだ。私もいつか動けなくなるから今できることを全力でと頑張っているのと同じかもしれない。「後で…」はないのだから。

ゆずなさんはそのうちに、元気な時の友だちと会っても、なんとなく気持ちがすれ違うようになり、別な居場所をさがしはじめる。

私もそうだった。死の時限爆弾を手にした人と、漠然と「人間はいつか死ぬ」と思っている人の間には、深い溝があり、こちらの気持ちを「解れ」というのは酷なのだ。それで私は「解ってもらう」という期待を捨てた。ゆずなさんは「ありのままの自分の弱さを受け入れる」。「甘える勇気を持つ」と言っていたのが、そのことかもしれないと思う。一人でいることに不安が出てきたゆずなさんは、友だちの協力でみつけた日中の居場所「地域で共に生きるナノ」に通い始める。

彼女は、看護師なので、そういう目で自分や周りを見ている。患者としての自分、入所者へのケアの工夫。自分のような患者の心の動きなどを見つめている。しかも何らかの形で、それを伝えたいと思っている。

ナノで障害者手帳の申請を勧められて、医療費も無料になる。実は、このような助成制度は、施行する自治体の裁量に任された部分もあり、市民の働きかけ次第で変わる部分もあるようだ。

この映画の中で大事なことは、彼女が自分を晒して病気との共生を私たちに提供していることだ。それこそ「看護師魂」だと思う。

私がガンの妹の話し相手になった時のこと、脳出血で反応のなくなった母の元に通ったこと、そして自分のこれから先の変化を思うとき、死が身近ではない方にもぜひ観ていただきたいと思う。

ゆずなさんはいう。「ステージ4でも治るとか、全身に転移しても治るとか言ってほしくない。人によって違うのだから」と。本当に同感だ!

監督:大宮浩一
4 /1 土 より [東京] ポレポレ東中野 にて、4 /8 土 より [大阪] 第七藝術劇場 にて、4/ 1 4 金 より [京都]京都シネマ にて、4 /1 5 土 より [愛知] 名古屋シネマテーク にて 公開、 ほか全国順次。


Created by staff01. Last modified on 2023-03-29 08:25:02 Copyright: Default

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