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過去の歴史にフタをする逆転不当判決!〜群馬の森「朝鮮人犠牲者追悼碑」控訴審

        松本浩美

動画(3分/安田浩一インタビュー)

 県立公園「群馬の森」に設置された、アジア太平洋戦争中強制連行され犠牲になった朝鮮人追悼碑の存続を巡る裁判で、8月26日、東京高裁の高橋譲裁判長は「県による追悼碑の更新不許可処分は適法」とする判決を下した。処分を違法とした一審判決から一転、逆転敗訴となった(注1)

●ありえない不当判決

 控訴審が始まったのは2018年9月。途中で、碑の存続を求める支援者(追悼碑管理団体「記憶・反省・そして友好」の追悼碑を守る会、「追悼碑裁判を支える会」)と県との間で和解協議がもたれたが決裂、コロナ禍による休廷もあり、約3年をかけて迎えた判決日。群馬県および首都圏から大勢の人が集まった。

 「ありえない判決、こんな非常識な判決があっていいのか!」 判決後に行われた集会で、角田義一弁護団長(写真上)は開口一番強く批判した。一審判決では、追悼碑の前で開催した行事で来賓による挨拶の中で「強制連行」という発言が3回あったことを理由に、「政治的行事」が行われたと認定。
「設置許可条件には違反しているが、都市公園としての効用をまったく阻害していないにもかかわらず、ただ静かに座っている追悼碑を撤去するのは、社会常識に反して違法とした。一審判決は問題はあるものの非常に良識的」(角田弁護団長)。(注2)

 しかし、二審の東京高裁では、「政治的な行事」を理由に、碑の持つ中立性が失われ、公園としての効用が阻害された。したがって、県の処分は適法と、一審で認めた原告の主張をすべて覆した。

●追悼碑の持つ表現の価値を認めず

 下山順主任弁護人(写真上)は判決の問題点を指摘する。
 まず、表現の自由をまったく認めていない。そもそも、公園に設置する施設はすべて政治的に中立でなければならず、「政治的行事」の禁止は公園施設を設置するための不可欠な条件としている。

 しかし、「政治的行事」とは一体何か、何が該当するのか、県から、追悼碑管理団体に対して具体的な説明はなかった。それにもかかわらず、追悼碑建立の際、碑文のうち「強制連行」という言葉が県からクレーム受け、これを「労務動員」と置き換えたことを理由に、追悼式などで「強制連行」という言葉を使ってはいけないことを認識していたはず、と県の主張を認めた。

 そして、「強制連行」を3回繰り返したことで、碑の持つ中立性が失われ、公園施設、教養施設としてはふさわしくない、としたのだ。

 「県の主張をなぞっているのだが、ひどい。日朝日韓の友好推進、過去の歴史を記憶にとどめて友好につなげていこうという追悼碑の持つ表現の価値を一切認めていない」(注3)

●政府見解に反したら「政治的」


*群馬の森の朝鮮人追悼碑

 「強制連行」という言葉が使われれば政治的行事になるのか、この点は「裁判の本質にかかわる問題」と、下山弁護士は続けた。
「『強制連行』という言葉は、歴史の教科書にも広辞苑にも掲載されている学術的な用語、概念。それなのに、歴史修正主義と同列に扱って、あたかも2つの間で戦いが起こっていて、政治的なので避けるべき、とする主張に行政が乗ってしまった。そして、司法も推認してしまった。信じがたい」

 弁護団の一人赤石あゆ子弁護士はさらに踏み込んで批判した。
「政治的中立とは、いろいろな政治的見解に対して同じ距離をとること。しかし、判決では政府の見解と異なるものを『政治的』とみなして、政治的中立性を害するとしている。司法権が行政権に追随している。司法の危機だ」

●全国へ波及する恐れ

 さらに問題なのは、判決では、追悼碑を巡って右派団体による抗議行動が活発化したことを、更新不許可処分の理由として考慮できる、とした点だ。右派団体は、裁判になる前から、追悼碑前で抗議行動を行い、騒ぎを起こしたこともある。また、一審時から毎回開廷前前、右派団体「そよ風」が街宣活動を行い、ヘイトスピーチをまき散らしている。


*ヘイトスピーチの右派団体に対してカウンターで抗議する人たち(8月26日/裁判所前)

 「判決では、不当な抗議活動であっても表現活動も制約できるという判断枠組みを示してしまった。全国の『強制連行』という文言の入った戦跡、公園施設がターゲットにされてしまう。しかし、判決は確定したわけではない。上告して、この動きを波及させてはならない」(下山弁護士)

●碑を守るために闘う決意

 不当判決を覆すため、そして碑を守るため、「追悼碑を守る会」は上告する予定だ。最高裁での弁論開催と高裁への差し戻しを目指すという。
「追悼碑がブルトーザーでぶっ壊されるところを想像してごらんなさい! 日本は非常識なことを平気でやる国だと批判されるだろう。私は84歳だが、ずっと闘う。徹底的に戦おう!」(角田弁護団長)


 集会に訪れた福島みずほ議員(写真上)も弁護団と支援者を激励した。
「追悼碑を守ることが過去の犠牲者への追悼と、未来の戦争への道を防ぐことになると確信して、一緒にがんばりたい。今日は決意と決起の日です」

 最後に参加者一同で、運動の拡大と上告審に向けて、「団結ガンバロー!」と声をあげて集会を終えた。


〔注1〕高橋譲裁判長は、大阪高裁時代、朝鮮学校無償化裁判控訴審において、一審で勝訴した大阪朝鮮学校に対して、2018年9月逆転敗訴判決を出した。
〔注2〕一審判決では、追悼碑の撤去は違法だが、実際の設置期間更新に関する判断は県の裁量の範囲内とした。そのため、「追悼碑を守る会」では設置期間更新の許可を求め付帯控訴した。
〔注3〕判決文では、追悼碑について「政治的争点に係る一方の主義主張と密接に関係する存在とみなされるようになり、中立的的な性格を失うに至ったもの」、さらには「政治的対立をもたらす潜在的な危険性を有するもの」とまで表現。森の中で静かにたたずむ追悼碑を危険物扱いしている。


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