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レイバーネットTV第156号(2021年2月17日放送)

<特集 : フクシマから10年―終わらせてはいけない真実>
復興とは何か 10年の真実とは

報告=笠原眞弓

アーカイブ録画(90分)

復興させたいために被災者を犠牲にする政府。だが、個人の発信で世の中を変えられることもできるという。それは権力者が一番恐れることと3人のゲストがこもごも語った。

今回は、たんぽぽ舎が引っ越しして、新しい場所での初放送だった。スタジオが狭く、ギャラリーはお断りして、少し早めに準備に取り掛かった。

放射能はほぼ永遠に地球上で影響を及ぼし続ける中、つい数日前、2月13日の真夜中に震度6の余震があった。10年は長いようでいて、自然界では瞬きするくらいという。その瞬きの間に何がどう変わったのか、変わらなかったのか。青木さんはその時、福島にいただけで大学に行かれない子どもたちがいる。この格差は何か? それが粘り強く福島に向き合う動機だという。

避難者としてカウントされない避難者たちがいる。現に鼻血を出す人たちが訴えても、何の調査も対処もしない。バッシングの中で、ひたすら訴えていくよりほかはないと森松さん。10年、また新たな気持ちで取り組んでいきたいと柳田さん。「被曝者」とはだれか?「私」が当事者であると考えさせられた1時間半だった。

キャスター:北穂さゆり・堀切さとみ

トップは、すっかり定着したレイバーネット写真部の今月の一枚。Tomotarhoさんのスナップ。アメリカは今月から公共交通機関では、2歳からマスクが義務化したとか。口をふさぐマスクで、幼子は言葉を習得できるのでしょうか? 首が座って外に出られるようになるとすぐに「マスク」? 大人も子ども話すことで得られるものが失われるのではないかと、問題提起している。

<特集 : フクシマから10年―終わらせてはいけない真実>
進行:堀切さとみ
ゲスト:
・青木美希さん 朝日新聞所属のジャーナリスト/福島の手抜き除染をスクープし、新聞協会賞を受賞。著書に『地図から消される街―3・11後の「言ってはいけない真実」』(講談社現代新書)3月に新著発行予定

・森松明希子さん(リモート出演) 原発事故前は福島県郡山市で家族4人暮らし。3.11以後は2人の子どもと大阪に母子避難。著書に『災害からの命の守り方−私が避難できたわけ』(文芸社)。

・柳田真さん 「No Nukes Plaza たんぽぽ舎」の代表。反原発の市民運動の先頭を走ってきた。福島事故以降、より精力的に「脱原発」の行動を展開している。

◆脱原発運動初期の映像(3分)

ほとんど集会・デモなどしなくなっていた市民が、2011年に「黙っていないぞ」と燎原の火のように広がっていった脱原発運動。その初期の動画をまずダイジェスト版で上映。東電前や高円寺などで叫ぶ若者たち、経産省で訴える福島の女たち。2012年7月、国会の正門前の道路にあふれた人々の脱原発の思い。松元ヒロさんが叫ぶ。「警察は何もできないですよ。だってここは、国民の道路なんだから」。

◆反原発運動を振り返る 柳田真さん

事故直後、東京に住めるかどうかがたんぽぽ舎で検討された。この程度なら、東京に残って運動を続けようと決め、その発表をしたのがレイバーネットTVの場だったと振り返る。 3.11以前の反原発デモは、参加者は30〜40人だったが3.11後はそれが大きなうねりになり、ひょっとして世の中変えられるかもしれないと希望を持ったと。ところが10年経った今、原発をやめさせられなかった。だが、市民の休みない行動が55基あった原発のうち今4基しか動いていない。今後は、いかに早く原発から抜け出せるかに絞っていきたいという。

◆避難してくる町であり避難していく町で 「被曝防護」が行われなかった10年(森松)

 

郡山市は避難してくる人を受け入れる街でもあったが、森松さんは2か月後に自主避難をする。外で遊ぶ子どもたちの鼻血現象がひどかった。子どもが鼻血を出す。すると次の週、その子は避難する。チェルノブイリの事故では、まず原発から近い人から順番に強制避難していたので、そのうち自分たちにも避難指示が来ると思っていたのに来なかった。それで2か月後に自主避難した。

「被曝防護」は、放射線源から離れること。だから避難したのに、避難先で理解されず、『美味しんぼ』の鼻血事件と同じことが身の回りで起きたという。郡山市は避難住宅のあるところ。そこからなぜ避難してきたのかと言われる。そしてこの10年、その被曝(鼻血などの体調不良)について国も東電も全く調査も対策もしていない。

もう一つよく聞かれたのが、「いくらもらったか」。たくさん募金をしているので、それがちゃんと届いているかという意味も込めての質問だと思うが、福島の人は全員がもらっていると思われていたという。森松さんは一切もらっていなかった。

◆避難者とカウントされていない私たち(森松) 消えてしまった避難者(青木)

青木さんは、最大50万人が避難したといわれ、今は7万人まで減っている。とはいえ、国が発表する数値は1月末で4万2千人と、それより少ない。全町避難で誰も帰っていない双葉町の避難者数は町の調べでは4021人なのに福島県・政府発表では521人と極端に少ない。

この誤差は、決められている避難者の定義に県が則って集計をしていないからと青木さん。それは「事故からの早い復興」を求める国の姿勢の表れとか。つまり、避難者の人数を減らして、見せかけの「復興」と言っているに過ぎない。 森松さんは、大阪府の避難者統計が、88人と極端に少ないことに気づき、声を上げたところ800人に修正されたという。それでも公営住宅に入居していない人はカウントされなかった。つまり、実数はさらに多い。それは権利の侵害であり、保護義務にも違反している。

◆トップが決めれば脱原発はできる

震度6の地震後の2月16日、女川町長の記者会見があった。13日の地震で原発に不具合が起きていたのに「マクロ的視点(交付金に頼り、原発雇用に街の再生をかけるなど…)」から原発の再稼働は必要だと言う。町民の61.5%(河北新報)が再稼働に反対しているにもかかわらず、この選択である。そこに原発の持つ闇を感じる。青木さんは、トップが決めれば脱原発はできると思っていると鋭く指摘する。

◆ちょっと休憩タイム

「東京ドドンパ娘の替え歌「東京でデデンコ娘」がジョニーHさんによって歌われる。

続いて乱鬼龍さんの今月の川柳は「あれから十年お忘れなくと震度6」とつい3日前の2月13日の地震を詠みこむ。続いて以前に川柳の番組の時に出演していただいた森松さんである。そこで1句。

「復興庁避難者ゼロで復興か」(森松明希子)と、「復興」とは何なのか?力技で「復興」させていく為政者に対する怒りを詠み込んだ。

◆復興って? 避難者の苦しみごと見えなくすること?

避難者の立場から見れば、県のいう避難者数は全くでたらめである。数字だけが復興しているのだ。精神的なダメージは、別な角度の統計にはっきりと表れている。抑うつなどで苦しんでいる人は、減ることはない。避難指示が出た地域の調査で、生活に支障があるほどのうつの患者さんは毎年変わらず、およそ一般の2倍、2019年で5.7%もいた。

2017年に住宅手当を打ち切った。そこで、何が起こったか。家族の分散避難が起きた。そして悲劇も起きる。Sさん、生活のために父親だけ除染作業員として戻ることにしたところ、そのショックで息子が自死。本人も2度ほど後を追おうとして保護されている。彼は言う。

「原発事故は終わっていないですから。復興だと言っているけれど、何も終わっていないですよ」と。避難者に対しての医療費の支援が打ち切られる。働けない彼はもう医者にもかかれないと嘆く。そのうえ、2020年の3月にはバリケードで入れない浪江など一部の地域で、住宅提供の打ち切りをした。それが「復興」の中身である。

◆今や、被災者自身が発信を始めた

森松さんの本は、まさに被災者自身が、その立場で書いた本。「記者が書くものは裏も取り客観的で正確だが、当事者のものはフィルターもなく、見たまま、感じたまま」である。森松さんが「鼻血が出た」というと、チャットに「私も出た」と書き込みがある。そういう声が集まって、核災害の全貌が見えてくると。客観的なもの、主観的なもの、この両方が大事だという。

◆なぜ原発が止まらないのか 謎を解く青木さんの新著

原発は、これだけ市民運動が盛り上がり、専門家の指摘もありながら、止まらない。青木さんは、その謎を政、官、行、学、報がその時どうしたかを、彼らに罵倒されながら、コツコツと取材し1冊にまとめた。3月19日発売予定で、488ページの大著になってしまったと笑う。『福島第一原発事故10年目の「言ってはいけない真実」』とタイトルも長い。

◆「原発の問題の本質は放射能」を忘れ原発安全神話から放射能安全神話へ(柳田)

柳田さんは、今後の運動の見通しを語った。13日の震度6の地震は、女川では震度4だった。それにもかかわらず、原発はじめかなりの被害が出たという。もう少し大きいのが来た場合の恐ろしさを語る。また、原子力の本質は放射能である。美味しんぼの発言は本当だ。放射能被曝で鼻血が出るのだという。原発推進派の主張が10年前は、原発安全神話だったが、今は「放射能安全神話」に移ってきている。それに核武装がくっついている。ここで改めて、原発反対の運動を展開したいと、3月11日から追悼と東電本社前と日本原電前で抗議をするという。

◆被曝からの自由を求めていく! (森松)

森松さんは、被曝を許容するのか拒否するのか。許容することは「命に関わる権利を手放す」ことを多くの人と共有し、被曝からの自由を求めていきたいという。命が脅かされているときに、漫然と「被曝」を受け入れる側にくみするのか、それとも抗うのか、広島、長崎、ビキニ、原発と76年の歴史の上に立って、被曝からの自由を意識した発信をしていきたい。

◆一人でも世の中は動く SNSで大きく動いた経験を力に(青木)

青木さんは、ツイッターなどSNSで世の中が動くようになったことが、大きな希望だという。一人ひとりが学び、発信していくことができるようになった。実際にも一人の声から大きく変わった経験をした。

これまでは、格差の中で這い上がれないと為政者によって思いこまされてきた。ところが実際は「格差」も「原発」も彼らによって作られたもの。「原発から脱せられない」のも首相が「脱する」と決めないから。私たちは、未来を選ぶ権利があり、決めればできるのにそのための行動をしないから出来ない。

ドイツの再生エネルギー率は30%を超えている。ところが日本は18%でしかない。これもそう決めたか決めないかであると、指摘する。

「一人ひとりが声を上げましょう」と青木さんは小柄な体を大きく揺らしながら私たちに訴えた。彼女は取材を外されてできることは少なくなるが、避難当事者の声を届ける場ができないかと、実現に向けて歩み始めているという。

市民メディアであるレイバーネットも、発信していかなければならないと思う。いや、青木さんは、その前にあなた自身が、たった一人でも声をあげましょうと言っているのだ。

*写真撮影=小林未来


Created by staff01. Last modified on 2021-02-24 20:16:35 Copyright: Default

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