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〔解説〕全米自動車労組は前委員長や前々委員長などが横領や収賄により起訴されるというスキャンダルに巻き込まれていた。昨年12月に法務省との和解に達し、執行部を全組合員の秘密投票により選出するのか、現行の大会での間接選挙を続けるか、全組合員投票で決定することになった。この組合民主化の歴史的な一歩となりうる動きについて、著名な歴史家ネルソン・リクテンステインがレイバーノーツ誌に投稿した記事を一部省略して翻訳した。(レイバーネット日本国際部 山崎精一)
*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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全米自動車労組、民主化への道が開く

2021年1月19日
ネルソン・リクテンステイン

*2019年ゼネラル・モーターズでのUAWストライキ

12月、全米自動車労組UAWの指導部は司法省との和解に達し、同労組の執行委員を組合員の直接選挙により選出する道が開かれることになった。これにより、70年以上にわたる一党支配に終止符が打たれ、かつては活発な内部討論と競争的な指導者争いで知られていた同労組の民主化に貢献するかもしれない。

この和解により強い権限を持ち裁判所により任命される監視官が6年間置かれることなり、UAWスタッフの新規採用に拒否権を持ち、汚職防止基準を満たしていない役員候補者を拒否したりする権限などを持つ。

さらに重要なのは、この和解が、執行委員を組合員による直接選挙で決めることを希望するか、あるいは4年ごとに開催される大会で代議員が執行委員を選ぶ現行制度を継続するかを決めるために全組合員40万人による投票を求めていることである。

裁判所命令のタイムテーブルによると、監視官が監督する全組合員投票は2021年9月までに実施しなければならない。組合員が執行部の直接選挙を選択した場合、役員を選ぶための全組合員の投票が2022年に行われる。

●組合中枢部での民主主義の欠如

この和解により、デニス・ウィリアムズとゲイリー・ジョーンズの2人の元会長を含む11人の組合幹部による横領、収賄、隠ぺい工作を明らかにした連邦政府の大規模な調査が終了した。11人の組合幹部は合わせると、150万ドル以上の組合費を横領し、フィアット・クライスラーの幹部から350万ドルの違法な金銭を受け、労働協約交渉を腐敗させようとした。

調査を主導したマシュー・シュナイダー連邦検事は、民主主義の欠如がUAWの問題の核心にあると主張している。シュナイダー検事がこの詐欺行為を追及したことにより、UAW執行委員会の閉鎖性と自己利益追求が、腐敗がはびこる環境を作り出していることを明らかにしている。この腐敗スキャンダルが進行する過程で、ウィリアムズ委員長の後任にジョーンズ委員長が執行委員会の中から選出されていた。

シュナイダー検事はトランプ前大統領により任命されていたが、UAWの中の新しい改革のためのコーカス(注1) Unite All Workers for Democracy(UAWD)の影響を受けて組合員投票による役員選出を推し進めた。UAWDは以前から組合員1人1票による役員選出を求める運動を展開していた。2020年初頭には、それを実現するため臨時大会を招集しようとしたが、26のローカル(注2)の6万人のUAW組合員が支持したが、必要とされる8万人を下回り成功しなかった。

●一党支配体制

UAWは何十年にもわたって一党体制を維持してきた。それは、組合本部のトップ役員をすべて選出する組合大会がアドミニストレーション・コーカスによって厳重に支配されていたためである。同コーカスは代議員の圧倒的な多数を常に占めてきている。

誰がUAWの指導者に指名されるか実際の決定は、13人からなる執行委員会によって行われるが、その全員がアドミニストレーション・コーカスに属している。時にはこの執行委員会の中で、激しい対立が起こる。委員長選挙では1970年にはレナード・ウッドコックがダグラス・フレイザーをわずか1票で破り、1982年にはオーウェン・ビーバーが1年近くに及ぶ内部抗争の末に委員長の座を確保した。

しかし、執行委員会が役員を選出すると、組合幹部はお互いを守り合う。第二次世界大戦後の組合全盛期に、UAWが自動車会社に立ち向かうために展開したスローガンが「指導者のチームワーク、組合員の連帯」だった。しかし今日では、このスローガンはほぼ独裁的な支配を意味するようになっている。

アドミニストレーション・コーカスは、千人以上の大会代議員の忠誠心を高めるために、さまざまな手段を使っている。組合スタッフの職を提供したり、ローカル役員選挙に推薦したり、逆に上からの批判や排除を行う。大会で選出される8人の地域責任者が組合統制の中心を担う。ローカルの不満の兆候を綿密に監視し、組合スタッフの任命や解雇を勧告することができる。

アドミニストレーション・コーカス支配下のUAWは汚職にまみれ、さらに深刻なのは、労使協調の文化にも悩まされている。UAWは譲歩や二層賃金制(注3)を受け入れ、各ローカルの組合員を互いに競わせ、米国の自動車生産に占める非組合員の割合が増加し、組織化に失敗したため、賃金や年金・健康保険給付が切り下げられた。

(中略)

●直接選挙は特効薬ではない

しかし、執行委員の全組合員投票による選出は万能ではない。組合の民主主義を実現するには、明確なプログラムを持ち、広くアピールし、明確な指導者を持つグループやコーカスを組織する必要がある。

UAWは設立当初の十数年間、国内で最も民主的で進歩的な組合の一つであった。共産主義者が支持する会派とウォルター・ルーサーが主導する会派の2つの派閥が、執行委員会だけでなく、ほとんどすべてのローカルや地域で執行部を競っていた。交渉戦略、ストライキ戦術、人種関係、外交政策、政治的行動など、考えられるあらゆる議題について、民主党やそれ以外の左派の中でも議論が交わされた。

毎年の組合大会は、議論、共闘関係の構築、組合員の教育のための刺激的な場となった。戦後、UAWの伝説的な委員長となったルーサーは、大会の書籍売り場の横に座って、代議員と何時間も話し合ったり、討論したりしていた。

各コーカスの指導者が重要な問題について議論するのを全代議員が聴き、その後で対立する決議案について投票すると、翌日には全国の主な新聞社がその結果を一面に掲載した。 1947年にルーサーのコーカスがすべてのトップ指導者ポストを獲得したことによって、このような組合民主主義は終わった。それ以降、反対派は執行委員会から外されたり、スタッフに雇われて取り込まれたりした。スタッフと役員は全員「花輪基金(注4)」に寄付しなければならず、ルーサー・コーカスの支配を維持するのに使われた。この基金は現在も存在し、最近の汚職スキャンダルに巻き込まれたUAW役員の一部に違法な裏金を提供している。大会の開催頻度が低下し、内部討論が衰退した。

 (中略)

●待ち受ける困難な仕事

UAWの改革派には困難な仕事が待ち受けている。2つの選挙に向けて組織化しなければならない。それは、組合が全組合員投票による役員選出に移行するかどうかを決める組合員投票と、それに続いて執行委員自体の選挙である。一方、ローリー・ギャンブルUAW会長は、全組合員で投票する「問題」について組合員を「教育」すると約束しており、アドミニストレーション・コーカスは、組合員による直接選挙に反対するためにその強力な政治力を発揮する可能性が高い。

しかし、UAW組合員とローカルの指導者が、より大きく強力な労働組合を構築するために組合の民主的な管理が不可欠であることを理解すれば、これらの障害を克服することができる。そのためには、UAWを「フリントでの座り込みスト(注5)を敢行し、公民権を擁護し、世界で最も強力な企業を相手にした戦闘的な労働組合として復活させる」ことをUAWDは追求している。
(ネルソン・リクテンスタインは『State of Union: A Century of American Labor』の著者であり、ウォルター・ルーサーの伝 記も執筆している。)

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注1)コーカスは労働組合の中に存在する組合員による独自組織で、組合員の言論の自由、結社の自由を保障する組織。派閥のような存在だが、法律によりその存在が保障されている。
注2)ローカルはアメリカの労働組合の地域組織で日本の労組の支部に当たる組織。
注3)賃金合理化の一方法。従業員の賃金を維持する代わりに新規採用者には低い賃金表を適用することで、二つの賃金体系を生み出す。
注4)組合員の葬儀のための花輪代と称して役員やスタッフから強制的に集めていた寄付基金の名称。拒否すると役職を外され、現場に戻されたと言われている。
注5)1937年に行われたGMでの一か月に及ぶ職場占拠ストライキ。


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