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毎木曜掲載・第125回(2019/9/12)

中高生に社会運動が身近になる本

『みんなの「わがまま」入門』(富永京子、左右社)/評者:渡辺照子

 社会運動に対し、「わがままだからイヤだ」という「批判」を逆手に取ったのが、この本のタイトルだ。著者は「『わがまま』というツールを使いながら、言いづらいことを言いやすく」して、「そこから社会や政治といった『遠い』ことがらを身近な視点から見ようとする本」だと明示している。中高生にどう言えば社会運動が身近に感じてもらえるか、それを究極まで追求したのが本書だ。これ以上、わかりやすい社会運動を説明する書籍を私は知らない。

 だから学術用語は無論の事、専門用語や横文字は極力使われていない。その中で登場する社会運動においての専門用語は、その言葉でしか説明できないギリギリの必然性において使われる。「フレーミング」という用語がそれだ。ちょっと検索したら「同じ中身のものだとしても表現の方法次第では相手の印象を変えることができる効果」ということがわかった。著者の表現では「相手の考えている事や思っている事に合わせて」自分の主張の伝え方を調整する方法や理論なのだそうだ。

 この「フレーミング」、運動を広げたい者にとっては不可欠の所業だと思うが、案外、意識されていない。最近、あるイシューに専門的に取り組む市民団体に関わっているが、そこの印刷物が、「ジャーゴン」のカタマリだ。「ジャーゴン」とは「仲間うちにだけ通じる特殊用語。専門用語。職業用語。転じて、わけのわからない、ちんぷんかんぷんな言葉。」なのだが。(出典コトバンク)。その団体の印刷物に見られるジャーゴンは、そのイシューに熱心な人たちには説明が不要の当然のことだろうが、関心のない人たちにとっては日本語でありながら意味不明で、全く伝わらない。いささかキツめの表現が許されるならば内輪だけで盛り上がっている感じだ。そんなことも想起しつつ目が啓かれる(ひらかれる)思いで読み進む。

 キーワード、キーセンテンスを探すまでもなく、ポイントとなる個所は太字で示される。前回の紹介本のエピソードである、ある集会で素朴な質問をした若者を「そんなことも知らないのか。もっと勉強して出直してこい」と一喝してしまった活動のベテランとは真逆のスタンスだ。

 さらに親切なことに各章の終わりには「エクササイズ」が用意されており、数人の友人、仲間と気軽に実践できるワークショップのような方法も紹介されている。多様性や異質性を体感させるために視覚障碍者や妊婦に「なってみるツアー」、月収5万円の設定で家計簿をつけてみる方法で、「ふつう幻想」に気づく営みを提案したり。CMや商品で「モヤモヤする者を探す」というエクササイズでは、その理由をみんなと話し合う提案をしたり。

 各章のタイトルを見ると「『わがまま』準備運動」「さて、『わがまま』言ってみよう!」「『わがまま』を『おせっかい』につなげよう!」と、誰もが社会運動を無理なく取り組めるように「誘導」はしているのだが、ハードルが低いので押し付けがましくない。

 著者は社会運動論の研究者であり、運動の「当事者」ではないのだが、実に実践的に書いてくれた。これは社会運動のメタ認知の書籍だ。メタ認知とは、自分が認知していることを客観的に把握し、制御すること、つまり「認知していることを認知する」ことだ。社会運動に取り組む者は、社会問題の認知には熱心だが、自分自身の取り組みがどうなっているかを客観的に認知しようとする営みは不十分かもしれない。そこをこうした研究者から指摘してもらうことは、運動の質的向上にかなり貢献すると思う。

 どれだけ貢献するか。私の手元にいつも置いておく「お守り本」になるくらい貢献してくれる書籍だ。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子ほかです。


Created by staff01. Last modified on 2019-09-12 17:17:05 Copyright: Default

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