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News Item 0825kokusai
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〔解説〕レイバー・ノーツ誌8月号からバーモント州の看護師ストライキの記事を翻訳した。組合に入っていない介護などの補助労働者の賃上げも要求して市民の支持を得ることができた、という成功例である。このバーモント大学病院があるのはバーリントン市であり、バーニー・サンダース議員の地元で1980年代には市長を務めていたことでも知られている。(レイバーネット国際部・山崎精一)*毎月25日前後に「レイバー・ノーツ」誌の最新記事を紹介します。

バーモント州の看護師ストが非組合員の賃上げを要求

  ジョナ・ファーマン(レイバーノーツ・スタッフ)

 専門職の労働者のストライキで賃上げが主な要求の場合は、世間からの支持を取り付けることが課題となる。抜け目のない経営者は組合員はわがままだと主張する。組合のない労働者と比べると既に高い給料を得ていると言いたいのだ。

 7月12日から13日にかけてバーモント州で二番目に大きな雇用主であるバーモント大学病院の1800人の看護師と医療技術者が賃上げを要求してストライキに入った。病院があるバーリントン市の市民はストライキ支援に立ち上がった。「警官や消防士やUPS社の宅配運転手たちがピケに駆け付けて握手を求めてきました」と神経科看護師のマギー・ベレンスさんは言う。「ピザ宅配が何十ものピザを差し入れたり、アイスクリームを只で届けてくれました」

 病院から市の中心部に向けて1000人のスト労働者たちがデモを始めると「道端のレストランで夕食中の人たちが立ち上がってスタンディングオベーションで迎えてくれたのです。感激しました」

 なぜこのように広い支持を得られたのか? それはこの病院労働者たちは自分たちの賃上げだけを要求していたのではなかったからだ。電話交換手、庁舎清掃、給食、介護などの組合員ではない同僚のために最低時給15ドルも要求していたのだ。

 2011年のリストラの結果、バーモント州からニューヨーク州北部に広がる6つの病院、訪問看護協会、診療所からなるバーモント大学医療ネットワークが設立された。その中で一番の中心はこの大学病院だった。州で唯一の一級外傷センターで一番重症の難しい患者を扱っていた。10年間小児科と外科の集中治療看護師を務めているジェイソン・ウィンストンは重篤患者を大学病院が受け入れるのは当然だと言う。「しかし、そのためには設備が必要です。また人員を増やす必要があるし、採用するには十分な賃金も必要です」

 ところが、病院ではいつも看護師が欠員である。バーモント大学病院の看護師の給与は30マイル離れたニューヨーク州プラッツバーグにあるチャンプレイン・バレー病院よりも低い。ニューヨーク州の物価はバーモントよりかなり低く、しかもチャンプレイン・バレー病院では特別治療の必要な患者をバーモント大学病院に送ってきているのである、とウィンストンさんは言う。

 ●最賃15ドルを求めて

 看護師と技術職を対象に労働協約の要求づくりのためのアンケートをしたところ、賃金が一番の関心事項だが、新しい工夫を求めていることも分かった。組合員たちは自分たちの賃上げだけではなく、非組合員の事務職や補助労働者の賃上げも求めていたのだ。バーモント看護師医療専門職連盟は病院の全労働者の四分の一足らずを代表しているに過ぎない。

 バーモント州議会は5月に最賃を15ドルに引き上げる条例を可決したが、知事が拒否権を行使していた。看護師たちは大学病院が職員の最賃を15ドルに引き上げる予算があることを知っていたので、組合はそのために闘う意志を固めた。

 労働組合は労働協約の対象ではない職種の賃上げについて交渉することは表向きにはできない。しかし、病院は「交渉単位に属する従業員(この場合は看護師と医療技術者)の職務が過大にならないように十分な数の補助スタッフを確保しなければならない」という協約条項がある。慢性的な欠員をなくすためには補助スタッフの賃金を引き上げて人員を確保する必要があると、労働組合は主張した。

 組合は5月に地域集会を開いて、初任給が13ドルを下回っている介護士の低賃金問題を取り上げた。ベレンスさんによると、「看護師の仕事には介護士は絶対に必要です。血圧や温度を測り、床ずれを予防するための体位交換をし、排せつを助けています。介護士は相棒です。」「介護士は看護師以上にいつも欠員です。そこで看護師は本来の仕事の上に介護士の仕事をやらねばなりません」

 地域集会の後、600人の看護師と支援者はバーリントン市の中心部に向けてデモを行い、その後大学病院が準備中の分院に向った。その分院は中心部向けの医療を行うために新しいビルの一部を借り上げるもので、そのために相場より100万ドルも高い年間賃料を払うことになっている。「市中心部の医療にとっては素晴らしいことです。しかしそのためにお金があり、理事報酬のためのお金があるのなら、看護師のためにも使えるはずです」とウィンストンさんは言っている。

 ●大衆動員

 組合員たちはこの2日間のストライキのために一年半かけて準備した。その中心は執行部だけではなくできるだけ多くの組合員を含めた体制を作ることだった。

 組合規約によると各科の看護師は一人の交渉委員を選出でき、大きい科は二人以上選べる。その結果、交渉委員は総勢で36人となった。交渉委員でなくても団体交渉に参加することが奨励されている。労働組合はいつもできるだけ多くの組合員を参加させてきた。

○最初の団交申込は普通は事務的な手続きなのだが、100人の看護師が参加して書面を手交した。
○第一回団交には400人近い看護師が参加した。
○6月のストライキ権確立投票には1300人が投票して94パーセントが賛成した。
○ストライキ直前の最終団交には赤いTシャツを着た数百人の看護師たちが団交室に入り、「欠員補充で命を救おう」「理事長、今日は何床ベッドメーキングしたんだ?」とシュプレヒコールを繰り返した。ブルムステッド理事長は2017年の年俸が200万ドルを超えていた。

 ●大きな未来像

 職歴3年のベレンスさんは組合員活動チーム(組合員10人に一人ほど選ばれる職場のリーダーの集まりで職場委員と似た活動を行う)に選ばれている。つまり神経科の同僚たちを活動に参加させる責任がある、大変な仕事である。神経科ではこれまでの交渉ではあまり参加していなかった。日々の労働条件はそんなに悪くはなく、責任者も公正な人だと思われていた。「ストライキに反対の人もいたし、様子見の人も沢山いました。」とベレンスさんは言う。そこで彼女は他の部署の人員不足や重労働を考えてもらおうとした。整形外科や泌尿器科などでは補助スタッフが足りず、看護師一人当たりの患者数はもっと多い。集会、デモ、大衆団交は「団結を固める」ために大事で、「みんなを勇気づけ、組合は本気なことを病院に見せつける」効果があった。

 ストライキの日が迫るにつれ勢いがついていった。「最後の一月で大きく飛躍しました。」とベレンスさんは語る。それは何カ月も毎日のように組合員活動チームが何百人もの組合員と一対一の対話を行い、質疑討論会を繰り返した成果である。

 これまで組合に協力して来なかった人が何人もピケに加わっているのを見てベレンスさんは驚きうれしくなった。一月前にスト権投票の時に反対票を投じた人が彼女にこう言った「ストライキがもう一度必要ならやりましょう!」


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