本文の先頭へ
LNJ Logo 太田昌国のコラム「サザンクロス」 : 「忖度」したNHK幹部たち
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 0328ota
Status: published
View



 ●第16回 2018年3月28日(毎月10日・25日)

 17年前、「勘ぐれ」と言われて「忖度」したNHK幹部たち

 安倍晋三という人物の言動については、心ならずも、何度も論じてきた。「心ならずも」と敢えて言うのは、政治家としてのその識見に見るべきものがない人間は、本来なら、論じるに値しないからである。はっきり言えば、政治家を「家業」と勘違いする人間がこうも多い時代になると、ひどい資質の人間が政治家になってしまうものだと慨嘆せざるを得ないが、その典型のような人物だと思えたからである。にもかかわらず「論じてきた」のは、21世紀初頭以降の自民党内の政治力学ゆえに、よりによってこんな人物までもが指導的部署に上り詰める過程が見えてきて、しかも、民族排外主義的な感情が充満する日本社会の社会・思想状況ゆえに、この人種差別主義者が一定の「人気」を獲得して、首相にまでなってしまったからである。

 安倍晋三が、急逝した父親・晋太郎の「跡を継いで」国会議員になったのは1993年だった。早くも1997年には、その極右的な体質を顕わにした行動を取っている。「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の事務局長に就任したのである。同会は「歴史教科書に従軍慰安婦の記述が載ることに疑問を持つ戦後世代を中心とした若手議員」の集まりであった。彼らは、2001年1月末に、それとは社会に知られることなく、水面下で蠢く。

 2000年12月、東京で、慰安婦制度の実態を解明し、責任者を明らかにする「女性国際戦犯法廷」が開かれた(法廷の内容を報告する書籍は複数出版されており、ビデオも制作されている)。NHK教育テレビの番組『ETV2001』は、「戦争をどう裁くか」シリーズの2回目「問われる戦時性暴力」で、この法廷が投げかけた問いを取り上げた(放映日:2001年1月30日)。この頃、雑誌『正論』(産経新聞社刊)には「NHKウォッチング」という連載があって、NHKの「偏向」番組や「不敬」番組の「摘発」を行なっていた。極右勢力はNHKの内部情報をいち早く入手できる独自の調査網を持っており、昭和天皇の戦争責任や日本軍従軍慰安婦の問題にも触れるこの番組の内容を事前に知り、自民党国会議員に伝えた。親しい関係にある安倍晋三や中川昭一らの「若手議員」に対して、である。

 放送前日、安倍と中川はNHK幹部と会った。矢面に立った元NHK放送総局長・松尾武の証言によれば、「ご注進が事実とすると心配があるよということを伝えたい」とまず言われた。中川議員には「客観性をもってものを論じろ」「わかっているだろう、お前。それができないならやめてしまえ」などと、ヤクザのような物言いをされた。もう一人の「先生はなかなか頭がいい。抽象的な言い方で人を攻めてきて、いやな奴だなあと思った要素があった。ストレートには言わない要素が一方であった。『勘ぐれ、お前』みたいな言い方をした部分もある」(魚住昭『国家とメディア』、ちくま文庫、2006年/写真)。

 この物言いをしたのが安倍晋三だった。与党との新年度予算折衝をまじかに控えていたNHK幹部は慌てふためき、番組制作に当たってきた現場のディレクターやプロデューサーの反対を押し切って、放映直前に番組内容を改ざんした。実際に放映された番組は、本来のものとは似ても似つかぬものとなった。

 この一件が明るみに出たのは、事件から4年後の2005年1月の朝日新聞のスクープによってだった。このとき、テレビのワイドショーに出た安倍が、朝日新聞とNHKに「巣食う左翼記者」の相関図もどきのクリップを掲げながら、本質からまったく外れた弁明を行なっていた図を思いだす。

 ところで、「勘ぐる」と「忖度」とは同義語であることを私たちは知っている。(3月28日記)

【追記】末尾に、『ところで、「勘ぐる」と「忖度」とは同義語であることを私たちは知っている。』と書きました。補足が必要だと思います。「勘ぐる」を命令形で使うという安倍氏らしい言葉遣いに引き付けて、こう書いたのですが、三省堂新明解国語辞典に拠れば、「勘ぐる」=勝手な想像をめぐらして、相手が何か良くないことをしたかのように疑う。「忖度」=他人の気持ちを推し量る意味の漢語的表現。と説明されています。確かにこれが私たちが慣れ親しんだ用い方なのですが、これを前提にすると、「勘ぐれ」とは、なかなかに意味深長な物言いということになります。これ以上は申しません。              


Created by staff01. Last modified on 2018-03-30 09:24:15 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について