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 第1回(2017/2/15)

本の力、読書会の魅力に溢れた『プリズン・ブック・クラブ』

●『プリズン・ブック・クラブーコリンズ・ベイ刑務所読書会の1年』(アン・ウォームズリー、向井和美訳、紀伊国屋書店、1900円)

 この本はカナダのコリンズ・ベイ、ビーバークリークの二つの刑務所で2011年から12年にかけて開かれた一年間の読書会のルポルタージュ。刑務所の中の読書会というだけでドラマティックだが、この本の最大の魅力は、本の力、そして本をめぐって話し合う読書会によって受刑者たちの生き方が変わっていくことにある。連続銀行強盗、殺人、薬物売買、恐喝などによる受刑者たちが本を読み、自分の考えを述べ合うことで変わる、その様子が生き生きと描かれる。

 著者アン・ウォームズリーはカナダ人ジャーナリストで、この読者会の運営ボランティアに加わるように友人のキャロルに誘われる。彼女は、8年前に強盗に襲われたことがある。その心の傷から簡単に引き受ける気になれない。おっかなびっくりで、おずおずと塀の中に入っていく。読書会で取り上げられる本は小説もあればノンフィクションもあり、自伝やハウツー本、新刊も古典もある。選ぶのも受刑者とボランティアの相談による。一年間、これだけの本を読めば世界は確実に広がるに違いない。受刑者の一人がいう。「本を一冊読むたびに自分の中の窓が開く」。

 グレアムは薬物売買と恐喝で17年の刑期。かれは途中でコリンズ・ベイからビーバークリーク刑務所に移る。ボランティアの中心キャロルに手紙がくる。「いまいる刑務所には読書会がないので立ち上げるのに力を貸してくれないか」と。そしてビーバークリークでも読書会が始まる。「彼らが夢中になっているのは、もはや麻薬ではなく書物なのだ」

 2011年の秋、スタインベックの『怒りの葡萄』が課題本に選ばれた。カナダ生まれ、ジャマイカ育ち、刑期4年のベンが感想をもらす。ジョード家の娘ローズが母親に勧められて、餓死寸前の男に自分の乳を飲ませる場面だ。娘は死産の直後だった。「すげえなあ」という声がして少し沈黙がある。ベンはいう。「この娘はやるべきことをやったんだ」。

 受刑者たちの読書会での感想や意見にアンは、そしてこの本を読むものも目を開かれる。ピーターはコンビニ強盗で4年の刑期だが、『怒りの葡萄』やディッケンズの『二都物語』を好む本好きな男。『ユダヤ人を救った動物園』をとりあげた時のこと。これは、ワルシャワの動物園長夫妻がナチス占領下のポーランドで園内に300人のユダヤ人をかくまった実話。「周りの人も危険にさらすのでは」という意見にたいして、彼は、言う。周囲の人も園長夫妻を見習うようになった、「善は悪より伝染しやすい」と。いまや塀の外でも聞くことのできない言葉だ。

 読書会運営に加わり、作者も心の傷から解放されていく。それにしても日本の刑務所では読書会は可能なのだろうか。カナダでは録音機持参で入っていけるのだ。この本は刑務所の在り方まで考えさせる。2016年7月現在カナダでは、7州の17の刑務所で26の読書会が開かれているとある。訳者も司書であり、ながいこと読書会にかかわっている。それだけに本への愛情が感じられるこころのこもった訳である。本の力と、読書会の魅力をここまで伝える本はそうはない。【志真秀弘】

〔編集部より〕

 2月15日からレイバーネットウェブサイトで、書評の新連載「本の発見」がスタートします。筆者は毎月15日が志真秀弘さん(編集者/写真左)、毎月1日が大西赤人さん(作家/写真右)で、当面1年の予定です。お二人は、昨年12月のレイバーネットTV「2016わたしの一冊〜本の発見」に出演しましたが、それがきっかけでこの連載の実現になりました。ぜひご愛読ください。ご意見も歓迎です。(ご意見はこちらまで)

*レイバーネットTV「2016わたしの一冊〜本の発見」アーカイブ(68分)


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