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「子や孫に美しい自然と生活を残したい」〜8年ぶりに祝島を訪ねて

    堀切さとみ


 *月曜デモは今も続く

 8月3日の東京新聞夕刊一面に「上関原発 埋め立て延長許可」の見出しをみて驚いた。なんということだろう。1982年に建設計画が持ち上がったが、住民の粘り強い運動で着工を阻んできた上関原発。2009年に海の埋め立てが始まったものの、2011年3月に福島第一原発が爆発して建設が中断されていた。しかし中国電力も山口県も、この新たな原発建設をあきらめてはいなかったのだ。その前日まで私は、建設予定地の対岸から3.5キロのところにある祝島(いわいしま)にいた。8年ぶりの来島だった。


 *波止場にある『原発反対』の看板

 瀬戸内海に浮かぶ周囲12キロの小さなこの島は、9割の人が原発建設に反対し、時に体を張って阻止してきた。スナメリやカンムリウミスズメなどが繁殖し子育てする豊かな海。その海底を荒らさないように一本釣りをする漁師がいて、山の斜面に棚田を作る農民がいる。

 石を積んだ煉り塀の集落は映画のロケ地のような何とも言えない趣があり、歩いているだけで夢のようだが、波止場で朝日を拝むおじちゃん、夕涼みしながら談笑するおばちゃんたちの姿は少なくなったという。反対運動が始まった30年前には4000人いた島民も、今は400人。小中学校も休校。高齢化による変化は離島にとっては足早だ。それでも『ミツバチの羽音と地球の回転』(鎌仲ひとみ監督)や『祝の島』(纐纈あや監督)といった映画の影響もあって島を訪れる人は増え、移住者も現れた。小さな雑貨屋しかなかった島に、おしゃれなカフェや定食屋ができていた。

 滞在した二泊三日のあいだ、埋め立て申請許可のことが話題にでることはなかった。今年は4年に一度の「神舞」が行われる年で、島の人たちはその準備に向かっていたのだ。神舞は1200年つづく祭りだ。


 *2008年の神舞

 「祭りというのは島の暮らしそのもの。子どもらは神舞をみて大人になっていく。島に必要でない人は誰もおらん。よそに見せるためではない、自分たちのためだから真剣になる」。8年前に島にUターンし、有機農業と養豚を営む氏本長一さんはいう。原発問題のせいで過去二回中止になったことがあるが、島民の力で乗り越えてきた。「原発はたかが30年。祭りは1200年。時間軸が違う。神舞のおかげで右往左往しなくてすんだ」。そんな中で「今年が最期かもしれん」という声もある。「年をとって準備に参加できんようになったから」。4年という歳月は、この島の人にとってあまりにも長い。

 過疎化高齢化、一次産業の衰退に目をつけて、原発はやってくる。それを祝島の人たちは笑いとばしてきた。2008年の神舞の最中、全島停電になったが何のその。島の人は平然とろうそくを灯し、まきで風呂を炊いた。

 「電気がなくても人間生きていける。農業、漁業がなくては生きていけない」。その心意気は、よその若者の心をとらえた。5年前から家族とともに島に移住したМさん(35歳)は「原発反対というのは東電や国に対して言うことではなくて、原発とは反対の生き方をしてみせることなんだ」といい、島でひじき採りをしたり、バイオトイレを作りながら暮らしている。そんな彼らもまた、神舞を支えていく。

 「どっから来たん?」「埼玉です」「ああ、原発事故で避難した人が来よったところやね」。道ですれ違うおじちゃんも、福島のことを案じている。3・11は、福島から遠い瀬戸内海の島にとっても大きなことだった。

 今回、双葉町の友人も同行していた。ふるさとをなくした彼女の目に、この島はどう映っただろう。ただただ海や猫とたわむれて「癒されるう〜」と言う彼女に、氏本さんがいう。「心構えができていないうちに起きた原発事故。誰の責任かっていったら我々みんなの責任なんだ。祝島の人間もその責任から逃れられないと自覚している。双葉町のあなたにはキツイかもしれないけど、一緒にやっていこうよ」。

 高校がないこの島の人は、一度は島から離れる。都会での生活が長くなり、神舞のときしか帰らないという人も多いけれど「親世代が原発を止めてくれた。その歴史を引き継がなくてはならんと思って」と、Uターンする人もいる。四国・伊方原発は島からみえる距離にあり、再稼働で事故を起こせば逃げ場がない。


 *今年の神舞は8月16日から20日まで行われる

 毎週月曜のデモを支える山戸孝さん(39)はいう。「もし福島のようになったときに、自分だったらどうするじゃろうか。まず子どもや嫁さんは上関におらすことはできん。でも海や山があってこその生業があるから、島から離れたくない。福島の人たちは、こんな答えのない苦しみを突き付けられている・・」と絶句し、「子どもらに、自分の責任でないところで苦しむようなことをさせてはならん」と決意を語った。

 海や山をいつくしみ、厳しい環境の中で助け合って暮らしてきた祝島。自分のためでなく、子や孫に美しい自然と生活を残せればいいのであって「金なんかあってもなあ」という。そんな人たちの声を山口県知事は踏みにじる。安倍首相は山口県の人だ。なぜ、宝物のような日本の財産を殺すのか。理解することができない。


Created by staff01. Last modified on 2016-08-05 16:17:56 Copyright: Default

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