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LNJ Logo 報告 : 「被ばく労働を考えるネットワーク」設立集会に300人
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11月9日、「被ばく労働を考えるネットワーク」設立集会が都内で開かれ、300人近
い参加者が集った。

「3・11」以降、福島第一原発では先の見えない収束作業が続いている。被ばく労働
に従事する人々の安全と健康を守り、待遇改善をめざすべく全国各地で続けられてき
たさまざまな取り組みが、約1年の準備期間を経てこの日、正式にネットワークで結
ばれた。労組活動家や医師、弁護士らが呼びかけた。

会場となった東京・江東区の亀戸文化センターには、開会前から大勢の人々が詰めか
けた。二部屋を統合した広い会議室。長机の席、椅子席はすでに埋まり、床に座る
人、立ったままの人の間を、スタッフがあわただしく動き回る。

被ばく労働の実態を先駆的に暴いてきた報道写真家の樋口健二さんがあいさつ。昨年
の事故以降、多忙を極める時の人だ。

「みなさんがこんなに集まってくれて本当にありがたい。闇の中から浮かび上がった
被ばく労働は、差別の上に成り立っている。社会問題としてこの運動を盛りあげた
い」。樋口さんはいつもの口調で檄を飛ばした。

斉藤征二さんは原発下請労組の元分会長。原発への人集めは、戦争中の赤紙と同じだ
と憤る。除染には果てしない人数が必要になるが、内部被ばくの怖さを知らない労働
者たちは、防塵マスクも付けず黙々と働いている。被ばくの問題は、みんなで知恵を
出し合って考えていくことが大切だと強調した。

「被ばく労働には、なぜ今まで関心が集まらなかったのか」と切り出したのは、神奈
川労災職業病センターの川本浩之さん。日本初の原発被ばく裁判「岩佐訴訟」にもか
かわってきた。

「しんどい状況にある人ほど、立ちあがることはない」――川本さんの指摘は、原発
に限らず、厳しい条件下に置かれる労働者全般にあてはまる。

政府が税金から除染従事者に支払うべき「危険手当」が、実際には労働者の手に渡っ
ていなかったことが、マスコミの報道で明らかになった。国から受注する大手ゼネコ
ンは、「手当込み」の額で下請けに発注。上下に何層にも連なる業者の間で、どこか
へ消えていたことになる。

環境省が管轄するこの「特殊勤務手当」。だがその存在すら知らない中間業者が少な
くない。当事者や労組からの追求を受けると、基本給を法定の限界まで下げて総額を
再計算。わずかな差額を支払うことでその場をしのぐ。なかには、自社の社員にはき
ちんと加算するが、直下の業者には渡さない会社もある。まさにピンハネのスパイラ
ルと言える。

「基本給より多額の『手当』など、そもそもおかしい。本来基本給が多くあるべき
で、手当は少額のはず。手当が高額だから働く、あるいは手当だけを要求することに
も違和感がある」。主従が逆転した賃金の内訳に、川本さんは原則を対置した。

人いきれのなか、さまざまな問題提起があった。

「被ばく覚悟で高給を求める労働者もいる。それは脱原発の方針と矛盾しないか」。
「声をあげない、運動に参加できない労働者。原発と共に長年生きてきた労働者もい
る。そういう人々の心情に配慮することも大切だ」。

世の中にはサラ金やギャンブルなどの業界で働く人々も少なくない。彼ら
彼女らが職場の相談を持ちかけた時、私たちはそれを「反社会的な仕事であり、すぐ
辞めるべきだ」と切り捨てるのか。

「そうではないだろう」と川本さん。働いている以上は、その労働環境下での権利向
上をめざすべき、と冷静だ。

息子が原発作業員として働く母親も駆けつけた。F1では暴動が起きるのではないか
という状態にあるが、自分もそれを半分望んでいるという。「嶋橋伸之さんの母親を
はじめ、大切な子供を原発で働かせている、同じ思いを抱える親とつながりたい」と
胸の内を明かした。

「来年は再稼働の嵐がやってくる」。たんぽぽ舎の柳田真さんは危機感をあらわに
し、「他の人間に死を強制する発電はいらない」と力を込めた。翌日には、再稼働を
阻止する新たなネットワークの結成集会が予定されている。

「考えるネットワーク」との名称にあるように、結成宣言だけで終わる集会ではな
かった。これまでと同様、各地で地道な相談活動や、行政・企業への交渉などに取り
組む。そして、広く情報を共有し、意見交換や討論を尊重する姿勢が、満員の会場か
らひしひしと感じられた。

被ばくはしないに越したことはない。だが、福島事故以後のこの国は、多かれ少なかれ、
誰もがそのリスクを負わざるを得ない、深刻な事態に突入している。

だとしたら、どれだけその被害を軽減させるのか。そこに私たちの未来がかかっている。
複雑で重い課題に、正面から向き合う支援者らの、したたかで柔軟な底力を見た思いがした。

「本会は労組のネットワークではない。いわきに50坪の土地を確保した。ここを労働
者の出会いの拠点にしたい」。
中村光男さん(日雇全協)の締めくくりの言葉も、印象的だった。(Y)

Created by staff01. Last modified on 2012-11-17 15:42:33 Copyright: Default

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