映画「夕凪の街 桜の国」を観て | |||||||
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7月12日、日本教育会館ホールで行なわれた映画「夕凪の街 桜の国」(監督・佐々部清)の試写会に参加した。会場は満員だった。同名の漫画作品(原作・こうの史代)を実写化したもので、7月28日から全国公開される。 物語は、昭和33年(1958)の広島を舞台にした前編「夕凪の街」と、現在の東京を映す後編「桜の国」の2部構成。第1部は、戦後の復興を迎えようとする貧しい時代を健気に生き抜く皆美(麻生久美子)と職場の同僚打越(吉沢悠)の、美しくも悲しい恋の物語。 「私はなぜ生きているのか」――原爆で父と妹を失い、みずからも被爆し激しいトラウマに苦しむ皆実。それを知らず愛の告白をする打越。皆実の末弟・旭役の伊崎充則の演技が、本編を貫いてひときわ光っている。吉沢とともに拍手を送りたい名脇役だ。 第2部は平成19年の東京の風景。父親になった旭(堺正章)の家族を描く。父の不審な態度に尾行を決意する娘の七波(田中麗奈)。夜中に家を抜け出した父を追って広島までたどりつく。そこで七波が見たものとは……。 涙が止まらないのは第1部。当時を再現したリアリティあふれる町並み。つぶれそうな長屋で懸命に生きる母子と、さわやかな営業マンの出会い。疎開先に義理を貫く、はにかみ屋の弟。苦労人の母親役を演じるのはベテラン藤村志保、味がある。恋人の腕の中で静かに息を引き取る皆実。立ちつくす弟。クライマックスは前編終盤に訪れる。 感動的な「夕凪の街」に比して、後編は平凡な展開が目につく。50年後の旭を演じる堺正章の風貌は、少年時代とはまるで似ても似つかない。私が監督だったら大地康雄とか西田敏行らに声をかける。少なくとも堺よりは適役だろう。 堺の言動がコミカルで滑稽に見えて、第一部の余韻を冷ましてしまう。家族に内緒で夜中にひとり広島へ向かうのも不自然。故郷行きを隠す必要などまったくないはずだ。七波に同行する友人・東子(中越典子)と七波の弟・凪生(金井勇太)のロマンスも、どこか即席に挿入したような感がある。 第2部の中途半端さをかろうじて救っているのが、田中のクールでシリアスな演技だ。現代の若者の、戦争や原爆に対する複雑な思いをあっさりと演じている。ラストシーンでカメラは、彼女の表情を大写しにしたまま止まる。その瞳から涙がこぼれ落ちるまで。 「反戦映画か」と聞かれれば、私のような素人にはなんとも言えない。しかしひとつのテーマをめぐっても、さまざまな視点や表現があっていい。それが事実に反しなければ、一から100まで、すべてを詰め込む必要はない。原爆の後遺症に今も苦しむ被害者たちの人生を、「入り口」として伝える役割は果たしているのではないか。 ふたつの時間軸が何度も交錯し、モノクロの世界にカラーの主人公が足を踏み入れる。見慣れた手法だが、美しい音楽も効果的だ。そこから私たちは何を読み取るのか、課題も大きい。流れるテロップを見つめながら、観客たちはなかなか席を立とうとはしなかった。(T・横山) 公式サイト・http://www.yunagi-sakura.jp/ Created by staff01. Last modified on 2007-07-14 11:08:11 Copyright: Default |