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*筆者の太田さんは、「1973年から1980年まで国民年金の仕事をしていました。その後も、年金にはかかわることが多く、今回の問題にも大変関心を持っています」とのことです。(編集部)

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投稿者: 太田蘭子

ちょっと待って「年金問題」


 年金について基礎年金番号に統合されていないデーターが5000万件あるということが今大きく社会問題になっている。
「自分の年金は大丈夫か?」と心配している人が多いとおもう。
ところで、ちょっと冷静に考えておかなければならない問題がここに潜んでいることをぜひ多くの人に考えてもらいたい。

●どうやったら「来年五月に照合完了できるの?」

 「基礎年金番号に統合されていない約5000万件について全ての名寄せを完了させる」(自民党選挙公約)としている。「国民が心配している」「一刻も早くやらないと選挙に負ける」というのが現在その理由とされている。
ではどうやって照合するのかを明らかにしていない。おそらく「同一生年月日、同姓同名」のデーター。「同一生年月日のデーター」「同姓同名者のデーター」などいくつかのキーワードで全データーをマッチングさせる。そこからもれたデーターを今度は、なんらかの方法でふるいにかけるなどを行うのであろう。基礎年金番号に統合漏れが起きている原因は、同一人がいくつもの年金番号をもっていることに気づいていない、同一人がカナフリの段階でマチマチのカナフリをされてしまっている。結婚等で名前が変わったあとに別の年金番号を取得した、年齢をごまかして就職していたなどが考えられる。

 そして、照合をした結果を国民に伝えるとしている。
 ところで、「同一人」であると判断できる根拠はあるのか?世の中には「同姓同名同一性年月日」の人はある程度いる。そうした人をどうやって「同一人である」とできるのか?また、結婚等で名前が変わった人たちをどうやれば「同一人である」とすることができるのか?まして、年齢や名前をごまかしたあるいは誤入力人のデーターはどうしたら照合できるのか?

 おそらく、政府の官僚は一年で行うことや全ての名寄せを完了させることは「無理だろう」と思っている。しかし、無理を承知でやるというのは何らかの意図がある。
現在参議院選挙日程まで変えて審議されようとしている「社会保険庁改革関連法」の中の「国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律案」によれば「住民基本台帳ネットワークシステムから本人確認が提供できる事務として国民年金事務を加える」となっている。更に自民党の選挙公約では「住民基本台帳ネットワークシステムとも連携し、コンピーターシステムの刷新やカードシステムの導入などを平成23年度にも新たな管理システムの構築を図る」としている。
「年金問題」を取り上げながら、住記ネットとの統合の方向に世論を誘導する。「統合されていれば、名前が変わっても大丈夫。住所も把握できるので、年金についてのお知らせを定期的に送ることも簡単にできる」等というように。

●政府に全て管理される社会でいいのか?

 そして、いまや年金情報と住記情報の統合だけではない。「社会保障番号」なる構想まである。国民一人ひとりの「医療、介護、年金」を一元的に管理するシステムさえも作ろうとしている。国民一人ひとりが今、どこに住民登録していて、どこで働いているか?年金にも加入していないのは誰か?誰が保険料を払っていないのか?誰がいつどんな病気にかかっているのか?介護の必要度は?こうしたデーターが蓄積される。そして政府に全て管理される社会が作られる。

 「社会保険庁改革関連法案」の中の「国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律案」では「市町村の判断により国民年金保険料が未納の人には、国民健康保険証の有効期間を通常より短期にすることができる」となっている。つまり、年金未納者からは、国民健康保険証を取り上げようとしているのである。管理社会はすぐにこうしたことを可能とする。そもそも国民年金の保険料を払っていない人の多くはニートやフリーター、ワーキングプァという「払えない」状態に置かれている人々である。こうした問題を置き去りにして、強制的な徴収を可能とするような管理システムを作り上げようとしているのである。

さらに、こうした管理システムを作っておけば、戦争動員体制もすぐにできる。「健康であるが、働き口のない若者は誰でどこにいるのか?」をつかみこうした人たちを戦場にリクルートするというように。

●年金問題の本質はデーターの管理ではない

 確かに、今回の「年金問題」はデーター管理の問題である。しかし、年金問題として問題にすべきことは、「年金保険料」として集められた膨大な資金がどう使われていたのか?今後どう使われるのか?という問題である。

年金制度は、その発足当初から「年金のために金を集める」ということより、集めた金を年金として支払うまでの間どう使うのかという大きな問題がある。戦中は戦費に使い、高度経済成長期には「財政投融資」として、現在は、膨大な株式投資に使われている。

2001年の「財政投融資制度」の改正まではODA予算や国債などに使われ、一部は年金福祉事業と称したグリーンピア建設などに使いまわしをしていた。そして、2008年には、「財政投融資」制度のもとで財務省に預託されていた公的年金積立金の償還が完了する。つまり、財務省は、年金積立金から借りていたお金を完全に返し終わらさなければならない。しかし、ほとんど明らかになっていないが、かなりの額が不良債権化しているといわれている。(保坂展人氏の「年金のうそ」によれば、約半分。榊原英資は「約四割」と推計している!!)現在国会で審議中の「社会保険庁改革関連法案」によれば、今後は「社会保険庁」を解体して年金事業機構とするとしている。国鉄が分割民営化された時も行われたが、日経新聞によれば「政府が2003年度以降、雇用・能力開発機構、宇宙開発事業団など54の特殊法人を49の独立行政法人に移行する過程で、総額12兆円の繰越欠損金などを政府出資金で穴埋めしていたことがわかった。新法人に移行する際、過去の損失を民間企業の資本金にあたる政府出資金で相殺し、減資した。明確な説明をしないまま巨額の政府出資金を消した形で、政府の説明責任が問われそうだ。」(07:01)ということが行われている。今回の社会保険庁の組織再編=民営化によって膨大な赤字が国家予算(税金)で補填される可能性が高いのではないだろうか。

そして、2008年以降は、年金資金の運用は全て金融資本市場行われることになる。つまり、郵政民営化の際に問題となった。郵便貯金の市場開放と同じことが年金でも行われる。社保庁は年金の窓口業務を扱っているに過ぎず、そこをいくらいじっても、その大元にある年金利権や資金運用の闇に手を付けない限り、年金の危機的状況は変わらない。ドサクサにまぎれの中で行われる「民営化」の狙いは、焦げ付きの埋め合わせと市場への資金流出をよりやりやすくするためではないだろうか?
 
●社会保険庁解体は第二の「国鉄問題」となる

 社会保険庁改革関連法案によれば、社会保険庁を解体し、民営化(法人化)することによって常勤3500人、非常勤6300人削減するとしている。「日本年金機構」設立委員会が職員の労働条件を明示し、職員の募集をおこなう。募集要項に基づき現社会保険庁職員の意向調査を行い社会保険庁長官は、「日本年金機構」を希望した者の中から名簿を作成し、設立委員会に提出する。設立委員会は人事管理に関する学識経験者からの意見を聞き、採用を決定する。採用されなかった者は、転任(他の省庁への異動)退職、分限免職となる。というものである。法案が通れば、施行日から設立委員会が作られ、2010年1月には移行される。つまり約二年間の間に一万人の人員削減(首切り)を行おうとしているのである。

 社会保険庁に対しては、この間政府、マスコミを総動員したバッシングが行われ、「ボーナスをカットしろ」であるとか労働安全衛生法に基づくVDT作業基準(45分作業をしたら15分休む)の遵守という当然のことすら槍玉に挙げられ、はては、「残業手当を出すな」なる労働基準法違反のただ働きの強制を言い出す部分までいる。こうしたバッシングは国鉄分割民営化の過程でも行われた。国鉄分割民営化では「怠け者」とうそレッテルを貼り、ILOにすらうその報告書を上げ、裁判に訴えられても不当判決を下すという許すことのできない事態になっている。政府は同じことを社会保険庁に対しても行おうとしている。「労働組合のぬるま湯体制の一掃」(自民党公約)と労組への攻撃を強めることによって闘う団結を解体し「憲法改正」の道を掃き清めようとしているのである。

●どさくさまぎれの逃げ切りを許すな

 国会でデーターの未統合の問題ばかりが取り上げられ社保庁改革法案審議が淡々と進む中、本当は解明、解決しなければならないことは別にある。しかし、どさくさにまぎれて、一目散に問題を隠蔽してしまおうとしているのではないだろうか?

 年金問題については、いつも本質的な問題に迫られることなく、社会保険庁の無駄使いや役人の働きぶり、国会議員の未納問題などがセンセーショナルに騒がれてきた。しかし、集めた年金のお金がどこにどう流れたのかを追求し、焦げ付きや不正はないのか?を追求した話はあまり聞かない。社会保険庁の解体、財政投融資制度の変更などによってわけがわからなくなる前に追求すべき課題はたくさんある。「年金問題」は今回もデーターの統合問題にきり縮められ、一万人もの首切り、国民を管理する制度の拡充に使われることになるのではないだろうか?


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