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■   China Now!
    ■ 第26号2006年3月22日
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  中国・大連
日系企業でのストライキとその後

【解説】2005年9月、中国東北地方の代表的都市、大連市 の開発区の日系企業で一連のストライキの嵐が吹き荒れた。な かでもキャノンの工場でのストライキは、大きな注目と関心を 集めた。China Now!第19号(2005年10月4 日発行)でもこの事件を取り上げた。今回訳出したレポートは 、この事件の詳報および続報である。やや古い話ではあるが、 貴重なレポートであることから訳出した。

レポートでは、ストライキの発端が、作業工程におけるトヨタ 方式の導入であることを明らかにしている。

事件の発端となったトヨタ方式の生みの親、トヨタ自動車の奥 田碩会長は日本経団連会長であり、ストライキがたたかわれた 大連キャノンの親会社の社長、御手洗冨士夫氏は日本経団連の 次期会長である。

奥田氏は、日本経団連会長として、2005年9月30日、宮 原賢次副会長(住友商事会長)、三村明夫副会長(新日本製鉄 社長)、森下洋一評議員会議長(松下電器産業会長)を引きつ れ中国・北京を極秘訪問し、胡錦濤国家主席と会談している。 その半月後の10月17日には小泉首相が靖国参拝を行ってい る。奥田氏の脳裏には大連での大規模なストライキと反日運動 が結びつくという悪夢がよぎっていたことは間違いない。

レポートでは中国での取材という限界がみられるが、それをわ り引いてみてもいくつかの貴重な情報を得ることができるだろ う。

トヨタはフィリピンをはじめ世界各地で労働者の団結権を侵害 している。また事件の発端となったトヨタ生産方式は、日本で はもてはやされ、郵便局などでも導入が進められているが、労 働者が過労死するという事態を引き起こしている。日本の労働 者と中国の労働者が繋がることのできる課題が見え始めてはい ないか。資本のグローバリゼーションに負けない、連帯と闘争 のグローバリゼーションを。(編集委員会)

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大連 日系企業でのストライキとその後
鳳凰週刊2005年第34期

?彦輝 記者

17歳の陶小燕(仮名)は、この103元の賃上げが容易でな かったことを知っている。

11月11日、陶小燕は日本キャノン大連有限公司から初任給 を受け取った。彼女と同期で就職した労働者の基本給は(かつ ての)627元から730元に引き上げられていた。彼女が就 職する前の9月9日、キャノン公司の6000名の労働者が賃 上げを要求してストライキに突入し、資本側から賃上げを引き 出しただけでなく、大連市の開発区にある他の日系企業でのス トライキの波を引き起こした。ストライキは三菱、東芝、日本 電産、日新工機、旭染織など十数社の日系企業に波及し、参加 者はピーク時で3万人以上に達した。一ヶ月後、大連市の10 0以上の企業で基本給が100元前後引き上げられた。

10月から雇用された陶小燕と400名以上の新入社員は、ス トライキには参加していないが、就職できたのはストライキの 結果であることを知っている。会社側は、ストライキに参加し た労働者に対し、その報復として解雇をおこなった。そして彼 女らはその穴埋めとして雇用されたからだ。

陶小燕が初任給を受け取ったときには、キャノン公司宿舎地区 の壁に何日か前からある公示が張り出されていた。そこには、 ストライキに参加した労働者に対して、前月の報奨金をカット すると書かれていた。

大連の日系企業でのストライキの波は、2005年7月27日 、東芝大連有限公司の5-600名の労働者らによってはじめ られた。11月9日、東芝公司の労働者が記者のインタビュー に答えた。ストライキのきっかけは、大連労働監査部門が、東 芝の労働者が月36時間以上の残業をしていることを知り、東 芝公司に対して「改善通知」を出したことによる。東芝は生産 効率の低下を避けるために、生産ラインのスピードを上げた。 20秒かかる工程を14秒に圧縮したのである。

「そうすると労働時間は短縮されるが、労働強度は増加する」 。この労働者は怒りを込めて言った。それまでは残業してやっ と業務を完成させることができたが、いまでは通常の労働時間 内に圧縮させられた。だがノルマを時間内に完成させることは できない。残業も「廃止」されたので受け取る賃金も下がった 。一部の生産ラインでは生産スピードが追いつかずに製品が滞 留する現象が見られたことから、日本人課長から批判された。 それをきっかけに労働者の中からストライキで抗議することが 提案された。

7月27日、東芝公司のモーター生産ラインでストライキが打 たれた。このラインの労働者5-600人がストライキに参加 して賃上げを要求した。それを聞きつけ駆けつけた日本人管理 職は、ストライキ参加者に対して解雇すると通告したことから 、双方の対立は激化した。3時間後すべてのラインが停止した 。

ストライキは地元政府を驚かせた。大連市開発区管理委員会と 総工会(労働組合)は激化した双方の矛盾を緩和するために介 入した。最終的に、日本側が妥協し、150元の賃上げと、工 場記念日には1000元のボーナスを支給することで合意し、 労働者は仕事に戻った。大連市開発区管理委員会と総工会は調 停が終了したのち引き上げた。

東芝労働者のストライキによる賃上げ獲得は、大連市開発区の 他の工場を刺激した。開発区には1856社の外資系企業があ り、そのうち日系企業は529社。工場や宿舎は隣接している ので、それぞれの企業の労働者はつねに賃金状況についての情 報を交換している。東芝につづき、小規模の日系企業でストラ イキが行われ、賃上げ要求がおこなわれたという情報が飛び交 った。

9月初め、賃上げストライキの波はキャノン大連公司に波及し 、労働者の一部がサボタージュをはじめた。ラインについても 仕事に取り掛からなかったり、職場を放棄するものもでた。労 働者達はこっそりと「ストライキ」と書かれたメモを回覧した り、宿舎やトイレの壁に「ストライキへ!」と書いたりして、 近々ストライキがあることを暗示させた。

そして9月9日がやってきた。キャノン公司工場記念日、早朝 8時に1600名の労働者が会社の体育館前にあつまってスト ライキに突入した。その日出勤予定だったB班の労働者だけで なく、まだ寝ぼけ眼であったA班の労働者も騒ぎに起こされて ストライキに参加し、最終的に参加者は6000名以上になっ た(キャノン公司のローテーションはA班16:50〜2:15、B班7:50 〜16:50の2勤制)。

「われわれの呼びかけにみんな一斉に応えてくれた」。ある労 働者は当時を振り返ってこう語る。その時の状況は壮観で、参 加者はすべて17−22歳の青年労働者。態度も断固としてお り、最後までストライキを打ち抜く決意を示していた。30歳 以上の労働者は失職を恐れ、工場から出てこなかった。

労働者の一部は興奮して、市政府へ請願に向かおうとしたが、 ストライキの情報を察知した当局が警察を動員して道路を封鎖 したことから、それは未然に終わった。一部の女性労働者はと くに激昂していた。なぜなら彼女たちは23歳になると自動的 に解雇されるからだ。このような差別規定は現在キャノンだけ にしか残っていない。そんな年齢になって解雇されてもどこも 雇ってくれない、とある女性労働者は語った。

ストライキ参加者は経営側に対して200元の賃上げと23歳 で女性労働者を解雇する規定の廃止、暖房補助費支給など12 項目を要求した。しかし9日午後3時、事態は急展開した。大 連市政府代表と開発区管理委員会および総工会が介入し、「一 銭の賃上げにも応じない」というかたくなな態度を示し、法律 で「ストライキは違法」である旨を宣言した。ストライキ参加 者は激昂し、ストライキ解除を拒否した。

キャノンの従業員は語る。「政府の態度は非常に強硬だった。 仕事に戻らないと解雇だという。警告も張り出された」。4日 後に6-7名の労働者を指名解雇するとも言った。

10日は週末ということで、会社側は決意の固いB班を休暇と した。残ったA班の労働者に対して、政府の関連部門や労働組 合、キャノンの中国人管理者などが仕事に戻るよう説得した。 労働者の宿舎にまでやってきて仕事に戻る旨の文書にサインを 迫った。そして「仕事に戻らないとクビだ。大連ではどこでも 雇ってもらえないと思え」と言い放った。女性労働者達はびっ くりしてしまい、みんな宿舎からとびだしてしまった。夜にな って当局や会社の説得が終わって、やっとみんなは宿舎に戻る ことができた。

11日夕方、サインを拒否した数千の労働者達が次々に宿舎か ら出てきて、寮に隣接する東北大通りに集まり、政府による強 制的なストライキ解除に抗議した。その数は続々と増え、座り 込みは道路いっぱいに広がった。その日、中秋まじかの月は冴 えわたっていた。多くの参加者が夕食もとらず道路で一夜を明 かした。

しかし政府はキャノン労働者の賃上げ要求を認めなかった。そ れは他の日系企業の労働者たちの不満をさらにかき立てた。1 2日には、日本電産大連有限公司の労働者達9000人以上が 連帯ストライキに突入した。一週間のうちにストライキは三菱 、東芝、日新工機、旭染織タオルなど十数社の日系企業に波及 し、ストライキ参加者は3万人あまりに達した。

ある政府関係者は本誌に対して、11の日系企業がストライキ に巻き込まれたことを明らかにしたが、ある情報筋によるとス トが打たれた日系企業は14社、ストライキ参加者はさらに多 く、開発区の日系企業の半分がストライキに巻き込まれたとい う情報もある。

「他でストライキがあったので、それに合わせてやった。自分 たちのためだけどね」と日本電産の女性労働者は語った。「賃 上げを実現したいのなら、一企業だけで立ち上がってもだめ。 みんなでストライキをやらないと」。

■ 反日ではなく、反低賃金

大連市開発区における日系企業の累計投資総額は38.9億ド ル、全外資総額の35.4%を占める。開発区最大の投資者で ある日系企業での一連のストライキ事件ということもあって、 他の投資額の少ない外国企業はそう心配していない。ストライ キは労働者による反日感情の憂さ晴らしであると考えている日 本人経営者もいる。ストライキは中国の国難日である9月18 日記念日の前後に集中しており、また日中関係が困難な局面に あり反日感情が高揚していた時期に重なっていたからである。 日本の経営陣は、日本のメディアに対して電話やFAXでのイ ンタビューには答えないと回答し、敏感な問題なので言及しな いよう求めた。

11月9日、日本電産大連有限公司の田村猛雄代表取締役は本 誌に対して次のように語った。「ストライキ事件はすでに過去 のことで、問題はすべて解決した」。そして「不愉快な件」に ついてはもうこれ以上触れたくないという。

一部の中国人管理者は、ストライキ決行の時期の選択には民族 的感情を織り込むこともある、とこっそりと本誌に語った。

ある現場管理者は本誌に対して、日本企業は近年になり生産革 新のために「日本トヨタ生産方式」を導入していることを明ら かにした。この効率追求を第一とした生産方式は、工員の立ち 位置、手の位置、視線、頭の向き、部品の持ち方や姿勢などが すべて決められており、人ひとりを生産ラインの一部として考 え、労働者のこれらの動作を生産の過程の一つとみなす。キャ ノンはさらに労働者に立ち作業を強要した。午前の休憩8分、 午後の休憩7分、労働時間は一分足りとも削ってはならない。 一部の工員は「初めの頃は足がしびれた」と語った。かれらは 、日系企業は無味乾燥で、不満を持ちやすい職場だとも語った 。

ある現場管理者によると、近年、日系企業は大量の臨時工を雇 用している。それによって日本企業は医療保険や年金などの責 任と義務を回避することができる。かつてであれば政府がそれ を認めなかったという。

この管理者は、日本側の管理者がほとんど生産ラインの労働者 と交流せず、会っても無視するとも語った。労働者がなにか問 題を抱えている場合、まず中国側の管理者にそれを伝え、その 後、中国側の管理者を通じて日本側と協議する。「かれらは従 業員にとても冷たい。見て見ぬふりで、労働者への対応ができ ない」。

大連市の職員の平均年収は1万8709元だが、開発区の日系 企業の臨時工の月給は500元程度。この賃金水準は長い間変 わっていない。それにくらべると、契約労働者の待遇はまだま しで、最低賃金は1000元前後になる。しかしキャノンの労 働者によると、臨時工から契約労働者に採用される人は、毎年 ごくわずかで1000人中2-3人程度にすぎない。

これまで、キャノンの基本給は627元で賃金水準は「中の下 」といったところだ。日本電産の基本給は480元だったが今 年のストライキで510元にあがった。規模の小さい日系企業 の労働者の基本給は400元前後、日夜関係なく残業してやっ とある程度の収入になる。ある被服加工の日系企業に勤める労 働者によると、女性労働者は定時になると、わずかな休憩をは さんで、さらに8時まで残業が続く。一ヶ月もすると目の下に くまができるが、がんばれば月1000元前後になることから 、労働者だけでなく中国人管理者も残業したがるという。

しかし、「労働法」では月の残業時間は36時間を超えてはな らないとされている。本誌の調査によると一部の規模の小さな 日系企業では残業が普遍的に存在している。規模の大きな日系 企業は「違法行為」をすることができない。だから規模の大き な日系企業の労働者は収入増の道が断たれることになる。また 経営側も生産性を維持するために労働強度を強化することから 、労使間の矛盾が蓄積されていくことになる。

一部の労働者は憤慨してこう言う。「給料が上がらないなんて 道理が通らない」。今回ストライキに参加したのは主要には日 系企業の生産ラインの労働者達だ。かれらの多くは短期契約労 働者か臨時雇用労働者で、待遇も一番悪い。賃金以外にも、住 宅積立金や年金、健康保険など一切の保障はない。

■ストライキ参加者に交渉権なし

ストライキの規模がこれほど大きくなるとは誰も予想しなかっ たが、政府部門による調停がはじまったとき、ストライキには 組織者や交渉代表がいないことが明らかになった。

「指導者を出して交渉代表にするように」と政府が求めた際に 、ストライキに参加していた労働者はみんな一歩引いた。交渉 代表者になると政府や企業からストライキの指導者とみなされ ることを恐れたからだ。

開発区の労働社会保障局の何守林局長は次のように語る。「ほ とんどわれわれが間に立って調整した。最終には、労働者代表 も政府が選んで企業側と交渉させることになった。代表はスト ライキの責任を負わない、という条件をつけてね」。

何局長自身も4−5社の会社と連絡を取り交渉した。結果的に 比較的満足いく解決がなされたと考えている。結局ストライキ があった企業では100元ほどの賃上げが行われたからだ。

9月14日午後、開発区管理委員会、キャノン、従業員代表の 三者が協議を行い、103元の賃上げに合意した。A班の労働 者は生産ラインに戻りはじめた。B班の労働者は一週間の休暇 ののち仕事に戻ることになった。他の企業でも会社側の賃上げ 回答を受けて仕事に戻りはじめた。

その後、本誌は今回のストライキの参加者に連絡をとったが、 政府側も労働者の側も今回のストライキは自発的なものであっ たと語る。

「今回のストライキに指導者はいない。労働者が心を一つにし たときには指導者はいらない」と労働者は語る。大連市開発区 の日系企業に勤める労働者の多くは周辺の北三市、瓦房店、普 蘭店、庄河、鞍山市岫岩地区などの出身者で、同郷者というこ ともあり意思疎通も容易で「ラインで誰か仕事をストップする とみんなそれに同調する」。

だが「ストライキは自発的で、指導者がいない、というのは不 思議だ。何千何万もの労働者が一斉に行動するときに指導者や 組織者がいないとは考えにくい」。事情に詳しい市民は語る。 ストライキは普通の労働者がそう簡単に組織できるものではな く、技術関係者や総務関係者などが関係している可能性も高い という。

ある労働者が本誌に語ったところによると、ストライキを指導 し組織する労働者はリスクを負うので、事前にリスクを計算し 、それぞれの労働者は100-2000元を、組織者にカンパす ることもあるという。中国人管理者が積極的にストライキ参加 者を組織して、もし賃上げを達成できたら、いくらかを管理者 に供出する、という約束を労働者との間で取り交わすこともあ るという。

「労働組合の役割は限定的だ」。大連市開発区管理委員会のあ る担当者はそう語る。今回のストライキ事件で、組合は間に立 って調停することはなく、労働者との意志疎通もうまくできな かった。実際、本当に労働者を代表する労働組合の関与がなか ったことから、労使間の交渉はすべて政府主導となった。

日本では毎年、労働組合が企業と賃金交渉を行っているが、中 国においては、日本企業はともすれば政府による介入や、ひど い場合には警察の出動を要求し、抑えつけようとする。なぜな ら、労働組合が労働者のストライキを指導できず、労働者を代 表して日系企業と交渉もできないからだ。事件が大きくなると 政府が前面に出るしかない。

「労使の対立が膠着状態になった場合は、政府が介入するのは 当たり前だ。問題は政府が如何に公正中立を保てるかというこ とだ」。中国の労使関係専門家は次のように指摘する。現在、 労働者の利益と対立するのは企業であり、この矛盾と対立の多 くは経済的利益に関するものであり、政府とは直接の関係がな いので、政府は「中間者」「裁判官」になることができる。

しかし、一部の地域の政府はその境界を踏み越えて、企業側の 代弁をすることもある。最も極端な例は、完全に企業の側に立 って、ひどい場合には警察などを使い労働者を拘束する。それ に比べて大連政府は、ストライキ事件処理の中で事件を丸くお さめ、労働者にプレッシャーをかけたとは言え、自制的であっ たといえるだろう。

■政府の介入と困惑

ストライキによる賃上げの連鎖効果は、大連政府を二つの困難 に直面させた。

11月10日、開発区管理委員会のある担当者が本誌に語った ところによると、キャノンでのストライキのとき、日本の経営 側は労働者の要求に応じて賃上げを行う意志を示したが、同時 に「資本撤退」もちらつかせて政府が介入して事件を解決する よう要求したという。「この時もし政府が介入しなければ、日 系企業の一連のストライキ事件は収拾がつかなかったでしょう 」と政府部門の担当者は言う。

当初から、政府の関係部門は、今回のストライキが純粋に労使 紛争であり、労働者が自分の権利を主張する行為であると明言 していた。ある政府部門ではとりわけ、ストライキと日中関係 や政治とは無関係であることを強調していた。

しかしその後、大連開発区管理委員会と総工会(労働組合)の 介入は、ストライキの継続を阻止するために警察を投入し、組 織者と見られた労働者を拘束した。一部のストライキ参加者に よると、あの時は「ストライキしよう!」と言ったり、何か意 見を言ったり、交渉に加わろうとしただけで、ストライキの扇 動者とみなされたという。

開発区のある政府担当者は「ストライキは開発区にとって望ま しいことではない。投資者が見たら、労働者の質がこんなに悪 いのか、政府も管理できないのか、投資環境がこんなに悪いの か、と驚いて逃げてしまう」と語った。

しかし、ストライキ参加者は、他の企業もつられて賃上げが行 われ、大連地区全体の労働コストが高くなってしまい、外資を 引き付ける有利な条件を失ってしまうという政府の苦境も理解 している。政府は、ラインからラインへ、工場から工場へスト ライキが連鎖的に広がり収拾がつかなくなることを心配した。 しかしもし政府が強硬な態度で企業の側に立ったとしたら「わ れわれみんなストライキをしたでしょう」とある労働者は語っ た。

開発区管理委員会の労働社会保障局の何守林局長は、政府によ る調停は労使双方の利益を把握しなければならないと考えてい る。

「労働力のコストが上昇すると外資企業は投資できなくなる。 長期的にみて、開発区は安い労働力で外資を引きつける。でな ければ労働者の雇用が確保できない。だからわれわれが間に立 って調停したとき、労働者には現実的であるよう、過激すぎな いように求めた。その一方で日系企業とは、妥当な賃金水準に 調整して労働者を安心させるよう協議した。

ストライキの後、開発区管理委員会は日本企業に対して、労働 者に対して報復や賃金カットをしないよう提案した。「特殊な 状況であり、労働者の提起した要求も現実的なものであり、こ れ以上のもめ事は必要ないと考えた」と何局長は語る。

11月11日、開発区管理委員会のある担当者が本誌に語った ところによると、政府はストライキ事件の総括を教訓化してい るところであり、少なくとも今後、開発区で頻繁にストライキ が起きないことは保障できるという。彼は次のように語る。「 将来、労働組合が労働者の利益を代表し、労使紛争を調停する 役割を果たさなければならず、政府も外資系企業と一層の意志 疎通を行わなければならない」。なぜなら中国ではストライキ 前の団体交渉やストライキ後の事後処理等、労使自身による紛 争解決メカニズムがないからだ。実際には政府と労働組合が間 に立って労使の問題を調停している。

この担当者は、開発区はまもなく参考値として各産業ごとの賃 金を公表する、また全国の他の企業や産業の賃金水準とも比較 する、と語った。

「外資導入の重点を若干変更する」とこの担当者は語った。「 投資受入れ」から「投資選択」へと移行するという。夏徳仁大 連市長は、外資受入れの重点的戦略を、日系企業との関係を維 持しながら、アメリカ、東南アジアへと向けると語った。「こ の方針のもとで、日系企業を引き続き引止めなければならない 」。

■ストライキが去って

一ヶ月後、ストライキに突入した日系企業が軒並み賃上げをお こなった。ストライキがなかった企業の労働者は、超過労働− −残業をすることでしか収入の増加を実現できない。しかし、 ストライキに参加した多数の労働者は100元程度の賃上げで も不満を持っている。

他の会社の賃上げに比べ、キャノンの労働者の心はいっそう晴 れない。「キャノンでのストライキの影響が一番大きかったの に、賃上げ額は一番少なかった。一体どういうわけなんだ」と ある労働者は語った。「最初にストライキがあった東芝では1 50元の賃上げがあり、キャノンに続いてストライキに入った 日本電産でも120元の賃上げがあった」。

キャノンの労働者はストライキでの交渉を次のように総括して いる。当初、ストライキで200元の賃上げを要求したが、そ れはまったく法外でもなんでもない、日本電産の労働者が50 0元の賃上げを要求したことに比べたら、非常に現実的な要求 である。キャノンのストライキで要求した額が低すぎたから、 交渉の余地が少なくなったのではないかと考えている労働者も いる。しかもストライキにおいて積極的な労働者代表が会社と の交渉に参加することがなかったことも影響していると考えて いる。

また、妥結内容に納得いかない労働者もいる。賃上げ額の10 3元がどのように算出されたのかが分からないからだ。かつて 現地管理者が各種手当てを合算して、キャノン労働者の一年の 平均月収は1007元になると算出したが、そんなにもらった ことはない、とある労働者は語った。

「われわれもあれこれ言うつもりはない。力がなかったんだか ら仕方がない」。ストライキに参加した一部の労働者はこう語 った。かれらも現在の仕事を失うことは忍びない。彼らの多く が大連近郊の農村出身で、農村では一年の収入は3−4000 元にしかならないが、ここでは1万元近くになる。農村の労働 力資源が過剰状態にあることから、雇用する側にとっては、低 賃金でも働きたい労働者には事欠かない。

キャノンの一部の現地管理者も現在の賃金には不満を持ってい る。「ずっとここで働いている。転職するにも雇用状況が良く ないからだ。」労働力市場は買い手市場になっている。「われ われは『人材』ではなく、安い労働力と考えられている」。

大連地区の労働力資源は豊富で、現在雇用されている労働人口 は131.2万人で、専門技術者は25万人。外資系企業で働 いている労働者は約20万人。毎年、大学卒業者は8.7万人 で、外資の需要を満たすことは充分可能である。

鳳凰週刊2005年第34期より訳出

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またまた発行が遅れ気味です。これでは資本のグローバリゼー ションにはまだまだ追いつかない・・・。▼もう少し短いレポ ートをいくつか入れたいですね。(編集委員会)

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