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News Item 20040129m
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民衆のためのネットワーク

安田です。

今回のWSFは、個人的にはインターネットやITを労働運動、民衆運動の中でど のように使い、国際的な連帯のツールとして活用するべきか、というあたりを 中心的な目的にして参加しました。先日報告したアジアのレイバーネットにつ いての会議も、そのひとつです。

 個人的には労働運動、特に日本をはじめとするアジアの労働運動は、インター ネットや各種の情報ツールに関する戦略的な活用という面で、かなり厳しい状 態にあると認識しています。途上国ではITの利用はコストがかかりすぎます。 日本では、コストは安いものの、「インターネットを使うとこんなに得をする、 こんなに生活が便利になる」といった商業的な利用ばかりが喧伝され、社会運 動のツールとしてのITに対する視点は、ほとんど提供されることはありません。

 アジア地域では、韓国の労働運動、社会運動でのIT利用はずば抜けています が、これは理由があります。インターネットの普及がはじまり、社会的に猫も 杓子もインターネット、という雰囲気だった頃、若い人たちを中心とするグルー プが「労働者のためのインターネット利用を」と訴えて、行動を起こしました。  そうした声に対して、民主労総の幹部をはじめとする社会運動の長老たちが、 「私たちにはよくわからない。でもお前たち、それほど言うのなら、ひとつやっ てみろ。できるだけ応援する」と言って支援を約束してくれたそうです。ネッ トワークを皮膚感覚で知っている多くの若い人たちが積極的に社会運動にこの ツールを使おうと動いたということもたいしたものですが、社会運動の指導者 たちが若い人たちの斬新な提案を積極的に理解しようとし、組織的なバックアッ プの体制を組んだということに感銘しました。どちらが欠けていても、韓国の 社会運動がこれほどITの活用に成功することはできなかったでしょう。

 韓国の場合は、ちょうどその頃、「IMF危機」という国家的な危機状況にあっ たという点も、活動家の目をIT利用に向けさせた理由のひとつです。  ぼくは、現在の日本は、韓国のIMF危機に等しい国家的な危機状況に向かって いると感じています。政府の無能による財政の破綻、金融に対する不信、そし て市場原理主義による労働条件の大幅な低下や失業の増加、さらに戦争の危機。 ぼくはこうした状況は、日本の労働運動や社会運動を本格的にITの活用に向か わせるきっかけになると思っています。  たとえば、昨年のイラク戦争反対のデモには、予想を超える数の人々が集ま りました。携帯電話のメールがなければ、あれほど多くの人々を集めることは できなかったでしょう。逆に言えば、運動団体が戦略的に携帯電話のメールに 対応していけば、それだけの人々を動員できるということです。  日本の社会運動がITを活用しきれていない理由はいくつもあります。しかし IT の利用とは、それまでの組織論や運動論の見直しや、枠組みの大きな変更 を要求しかねない部分を内包しているという点は、大きな理由のひとつでしょ う。それは組織の一時的な不安定化を招く可能性があり、よほどの覚悟がなけ れば選択できないオプションなのかもしれません。しかし今は、それだけの覚 悟をせざるをえない時期なのだと思っています。

 前置きが長くなってしまいましたが、そんなわけで、レイバーネット日本の 役割は重く、重要なものなのだ、と言いたいわけです。はい。  さて、今回のWSFでは、プログラムに書かれているフォーラムのタイトルと、 実際のフォーラムの内容が違う、なんてことがしばしばありました。どうやら、 とりあえず適当なタイトルで申し込んで枠だけ確保しておいて、実際の内容は 後で考える、ということをしたところが少なくなかったようです。また、プロ グラムには「13時からA-15で」と書かれているのに、ちょっと遅れて行ってみ ると誰もいないということもありました。客が来ないので、さっさと切り上げ てしまったのでしょう。

 マニラの女性団体のISISインターナショナルが開いた新自由主義下での原理 主義と女性に関するフォーラムなんかも、タイトルと内容が違うという例のひ とつ。ISISは、レイバーネットがサーバーを利用しているJCA-NETや、アメリ カのレイバーネットなどが加入しているAPCという通信NGOのメンバーでもあり ます。そんな関係で、以前からJCA-NETが参加していたAsiaLinkというネット ワーク(APWSLと同様にファンドが切れて数年前に解散)を通じて現在も連絡 のある在米インド人のジャグディッシュさんから会場で、このフォーラムでや はりAsiaLinkのメンバーだったフィリピンのオベットさんが発表する話を聞い て参加することにしたわけです。

 なにしろWSFの公式情報というのはアテになりません。苦労して公式情報ら しきものを入手しても、内容の真偽はわからない。別の人に聞くと、別の公式 情報らしきものを教えられたりします。参加者の間での情報交換が重要だとい う話は、出発前に聞いてましたから、そんなもんだろうと思ってましたが。  女性団体だけに、女性に関する話題が比較的多かったのですが、途上国では 女性の労働条件がますます悪くなっているという話や、電話オペレータのオフ ショアリングといったレイバーネット的話題もあってなかなか面白く、結局最 後まで聞いてしまいました。

 オベットさんという人は、インターネット以前から、マニラにEメールセン ターという通信拠点を運用してきたNGO活動家です。しかし、インターネット が普及してからは、グローバル経済の神経網的なインターネットに対して批判 的で、Eメールセンターも閉鎖されてしまいました。  しかし、民衆を結び付ける情報メディアが重要であるという点については認 識を共有し、このフォーラムでも適正な技術や情報へのアクセスといった話が 提供され、グローバル経済、それを支えるインターネット、インターネットを 操るアメリカという構造に注意を喚起しています。個人的には、この議論には 異論がありますが、グローバリゼーション、あるいは「帝国」との関連でイン ターネットを見る視点は非常に重要だと思っています。

 WSFには、AsiaLinkのメンバーがこのほかにも何人か参加しており、その後、 久しぶりに再会したメンバーが集まってもう一度AsiaLinkの枠組みで何かしよ うかという話になりました。非公式なミーティングを持つことになりました。 現在は開店休業中のAsiaLinkのメーリングリストを復活させて、今後の方向を 検討していく予定です。

 実はAsiaLinkの中には労働部門もあり、もしかするとレイバーネット・アジ アとの合流というような選択肢も考えられるかもしれません。

 WSFの正式なプログラムに掲載されているフォーラムやセミナー、そして、 アジアのレイバーネットとのうな事前に予定されている非公式なミーティング のほかに、このようにたまたま再会した人の間で新しい動きが提起されるよう なこともあるわけです。

 正直なところ、正式なフォーラムやセミナーの類は、インターネットや書籍 などで入手できるような内容だったりすることも少なくありません。本を読ま なくても、黙って座っていれば、いろんな話が聞けるという意味では便利なの ですが、それだけではわざわざ遠くまででかけて行くほどのものでもないかも しれません。

 今回、インドのWSFに参加して感じたことは、公式行事以外のさまざまな活 動、その場にいなければ関与することができない活動に参加することができ、 新しい可能性を見つけることができるということの意味です。金も暇もかかり ますが、それだけの価値はありますね。

 もちろん、正式なフォーラムが面白くないというわけではなくて、このほか にIT関連では、たとえばフリーソフトウェア運動に関するフォーラムは、なか なか面白いものでした。

 フリーソフトウェアとは、すべての情報を自由に利用できるように公開され るソフトウェアのことで、レイバーネットをはじめ、多くのサイトがフリーソ フトウェアを使って運用されています。

 また、今回のWSF会場に設置されたメディアセンターのコンピュータは、 Windowsなどという帝国主義的なシステムは置かれておらず、すべてフリーソ フトウェアで運用されていたとのことです。

 フリーソフトウェア関連ではいくつかフォーラムが開かれていたのですが、 特に最終日の2つのフォーラムは面白かったです。IT以外にも、医薬やバイオ テクノロジーの分野などで知的所有権がグローバリゼーションの問題に浮上し ており、フリーソフトウェアという概念からこの問題に切り込んでいくことは 重要な意味があると考えています。

 フォーラムには、フリーソフトウェア運動の提唱者であり、カリスマ的な存 在でもあるリチャード・ストールマンという人の発言もあって、結構多くの人 が集まってました。もっとも、ストールマンは賢明なんだか卑怯なんだか、常 に政治的な発言を避ける人で、今回もフロアから新自由主義についてどう考え るかといった質問には「別の人が答えるから」と回答を避けてました。ストー ルマンが新自由主義を批判すれば、結構インパクトはあるんですが、それをや るとフリーソフトウェアそのものが攻撃の対象になりかねないという部分があっ て、しかたがないのかもしれません。しかし、それだけに、活動家のレベルで の発言が重要になってくるのだと思います。ちなみに前述のオベットさんは、 新自由主義に対抗するために、民衆レベルでフリーソフトウェアを使っていく べきだという明確なスタンスを表明していました。

 まだIT関連で話題がないわけでもないのですが、長くなってしまいましたの で、IT関連の話はここまで。

*レイバーネット日本・メーリングリストより


Created byStaff. Created on 2004-01-29 14:32:01 / Last modified on 2005-09-05 02:59:35 Copyright: Default

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