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第5話 急転直下の巻 新戸育郎

 (2008年4月13日掲載・連載の一覧はこちらへ。毎日曜更新)

  

《2巡目の授業》

 初めて尽くしの1週間をようやく終えて、第2週目に入った。ともかくひととおりクラスを経験したので、何となくこんな感じなのかということはわかった。授業前後の雑務についてもやり方は一応飲み込めた。

 で、月曜日は再び中2の理科。初回、冷汗をかきながら授業を進めた騒がしいクラス2クラスである。Cのクラスは何とか持ちこたえた。しかしAは、困ったことに変に反抗的な生徒がいて、注意を無視して隣としゃべったり、質問に関しても「そんなの知らねえよ」という風で、ザワついて教室がまとまらない。あまりひどければ爆弾を落とすという奥の手があるのだが、まだ2回目だし、様子をうかがうに留めた。

 それで余計甘く見られたのかも知れない。しかしあまり一か八かの賭けはしたくない。終って、また胃が痛くなるような事態になったなと思った。この前の小5の理科のクラスがやはり問題で、これではやっていけないと思ったばかりだ。2日分、計4クラスも神経をすり減らすようではとてもこれからやっていけない。そして途中飛ばして問題の小5のクラス、金曜日。もしどうしてもおとなしくならないようだったら、ドカンと1発お見舞を(といっても体罰ではない。体罰は絶対禁止となっている)と思っていた。大声を出して「ヤッカマシー!!!」とびっくりさせる心づもり。

 ただしその前に、こう言おうと思っていた。静かな口調で、「これから勉強はどんどん難しくなるのに、今までみたいなざわざわしたクラスだとついていけなくなるぞ。人が説明しているとき、だれかが答えているとき、勝手にしゃべるんじゃない。ここはみんな勉強したくて来てるんだろ。勉強したい人には徹底して教える。だけど勉強したくないものには教えるつもりなんかない。騒いで迷惑をかけるやつがいたら、教室から出ていってもらうかもしれないからな」と。

 実際に授業を始める前にそう言ってみた。と、何と意外や意外、彼らの態度が変わったのだ。そうか、ガチャガチャした小学生でも、こちらが真剣に言えば伝わるんだな。案外彼らのことを見くびっていたのかも知れない。  うれしい誤算だった。すぐにでもやめたいと思っていたクラスが、急に苦痛なものではなくなった。同時に、月曜の中2のクラスでも案外行けるんじゃないかと自信が湧いてきた。  それで次の月曜、かねて思案の計画を実行に移した。小5に言ったのと同じような意味のことを、出欠を取る前にわざと小さめの声で言ったのである。「こんなことは言いたくないが、今教えている小4から中2までのクラスのなかで、授業態度はお前らが最低最悪だぞ。中学生として恥ずかしくないのか」とも。

 果して、予想通り、あのざわざわ、ガチャガチャしていたクラスが一変した。反抗的だった生徒も妙におとなしい。体罰などを加えなくても、あるいは暴言を吐かなくても、こちらの態度が真剣であればちゃんとわかってくれる。

 この日、単にうまく行ったという満足感だけでなく、真面目に対処すればきちんと伝わり、わかってくれるのだということが実感できて、大変嬉しかった。少し浮き浮きした。これで嫌なクラスがなくなった。これは素晴らしいことだ。胃の痛みや神経性の下痢に悩まされることもない。

《急転直下》

 ところが‥‥。

 気分も軽く金曜の小5。やっぱり過度な期待は禁物。また騒々しいのがぶり返している。ひどくなりそうだと少し厳しい声を出してみるが、一時的。甘い態度ではやっていけないなと感じる。あ〜やれやれ‥‥。

 そして、また月曜が巡って来た。昼過ぎ、中2理科の準備をしていたら派遣先の(株)ゼニコから電話。

 「急なんですがね、センセ、きょうのスクールの授業はなくなりました。センセ、前にこのクラスは最低最悪だなんておっしゃってません?」

 ん?と思って、しらばっくれて「何のことでしょうかね?」と尋ねると、「センセがこのクラスは最低だというようなことを生徒におっしゃったせいで、親御さんのほうからスクールにクレームが来ましてね‥‥」

 あくまで推測だが、生徒の誰かが親に言い、その親が塾に文句を言ったらしいのだ。我が子を最低だなんて言う先生なんかに教えてもらいたくありません、とでもいうのだろうか。

 もちろん能力を最低だなどと言った覚えはない。授業態度が小学生並だといったわけで、中学生としての責任感を自覚させるためであったことはいうまでもない。そんな意図を確認もしないで、子どもが言ったから文句をつける‥‥、ったくも〜どうしようもない。

 「でもセンセ、こういうことはよくあるんで、担当者も大きな問題だとは考えていないようですから、あまり気にされなくていいですよ。授業は向こうのスクールの方で誰か対処するみたいですから」

 というわけで突然、月曜日の担当に関してはたった2回の授業で実に簡単にクビになった。

 予備校ってこんなもんなのかなぁ。生徒との絆なんてひとたまりもないなぁ。

 「センセの方も言い方に少し気をつけていただいて、反省すべき所は反省してくださいね、センセ」

 てやんでぇ〜、誰が反省なんかしてやるものか。

 絶対に言わなければならないことを言ったのであって、それが指導上必要だったんだ。だからこそ生徒たちは態度を変えたではないか。信頼感の芽生えが手ごたえとしてやっと感じられたというのに、そしてこれからがいよいよスタートだというのに‥‥。

 しかし私は実は少々さばさばした。月曜はいちばん遠いところだったし(往復で3〜4時間かかる)、理科はいずれやめたいと思っていた。正直ほっとして、突然の休日を楽しんだのであった。

《体罰禁止の校則は‥‥》

 話は変わるが、体罰について少々。

 実家に帰ったとき、塾の仕事に関連して、母から、親類の誰やらがスパルタ式の塾に子どもを行かせているという話を聞いた。最初から体罰容認の学校なのだそうだ。

 体罰そのものの是非は今ちょっとおくとして、たとえばある生徒が宿題をやってこなかったり授業中騒いだり逆にあまりにも不活発であったりした場合、一体何が原因なのかということだ。体罰を宣伝文句に生徒を集めているような塾なら、生徒がたるんでいれば即罰なのだろうか。

 短い塾講師経験で結論を出すのは乱暴かもしれないが、生徒の態度が悪いというとき、8、9割は教師が原因だと私はつくづく思う。立派なことを教えているつもりでも、それが生徒のレベルにあっていなかったら当然生徒には面白くないのだ。

 体罰容認の塾なら、絶対的権力を握っている教師に対しては、正当な反論も主張することはできない。体罰が有効な(かもしれない)のは、100%生徒に落度がある場合だけではないだろうか。そんなケースなど、実際にはまずあり得ないと思う。

 金福学園塚崎校でこんな様子を目にした。

 事務の女性が本棚を整理していた。ああでもない、こうでもないと長いこと考えている。何をそんなに思案しているのかと思っていたら、1人の講師がその様子を見ながら「やっぱりそれじゃお母さん方が見て印象よくないでしょうね」などと言っている。

 たまに受け付けに立ち寄る父母(といっても圧倒的に母親だが)の視線を気にしているのだ。男性講師のネクタイ着用も、親御さんたちにきちんとした学園だという印象をもってもらうため、とちゃんと心得に書いてある。

 あるスクールの塾長の談話としてこうも書かれていた。

 「生徒1人が退塾すると年間30万〜50万円の売上減になる。塾にとって大変な損失である。塾経営の面から、そういう点も考えて仕事にとり組んでほしい」

 「体罰絶対禁止」というこの学園のルールも、必ずしも生徒のためを思って、のことではなさそうだ。


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