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名古屋コラム

郵政首切り20年・名古屋哲一の月刊エッセイ

 トヨタのエリートたちの苦労

  「伝送便11月号」にJPS(トヨタ方式)実験局の埼玉・越谷局員=中田さんが「ズシッとくる立ち作業・・・集配全課で椅子を撤去する!」というレポートを書いている。郵便物の区分から道順組み立てや事故郵便(転居・不在等) 処理まで、全部立ち作業。中田さんはとても優しく思いやりのある人なのだが、めずらしく、このレポートにはそれが欠けているように思える。

 全逓が行った職場アンケートが報告されていて、「立ち作業による疲労度は」という設問に「増えた」との答えは86人中81人。「組込について」は、「早くなった」は1人で、「変わらない」32人、「遅くなった」47人といった調子で、ロクでもないカイゼンであることが実証されている。郵政九州労組機関紙「未来11月19日号」にも詳しく、「14%のコストダウン」と胸を張るJPS推進室に対して、それは「サービス残業の増大」によるものであることや、「1〜2週間の事故郵便滞留はざら」等が明かされている。

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中田さんのレポートは素晴らしいのだが、昨年から越谷局へ派遣されたトヨタのエリート社員たちに対する思いやりが無い。彼らの立場になって考えてみたい。

 当初、彼らは400を越えるカイゼン点を列挙したが、これは大した苦労無しでできただろう。トヨタでやっている事との違いを、それが良いか悪いか、郵便作業に適しているか否かなどに関係なく、ただ並べれば事足りた。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。昔から現場労働者が指摘していた官僚仕事の矛盾も、幾つかは書かれる。「管理者が作業を把握していない」といったとてもマトモな記述もあるが、でもこんな事は、トヨタのエリートでなくても、小学生でも、一週間もいれば解ることだった。

 しかしこんな事以上に、彼らにいったい何ができただろう? 100年以上に及ぶ郵便労働者の汗の蓄積を越えるカイゼン案を、配達などしたこともない人間が提出できるわけがない。

 当初はこんな事でお茶を濁していれば良かったのだが、次には何らかの結果を出さねばならない事となった。何せ彼らは成果主義=トヨタのエリートなのだ。

 1年もしないうちに実績を上げる、この無理難題に答えるためには、「無理が通れば道理は引っ込む」道へ足を踏み入れねばならない。こうして、「朝から晩まで立ち作業!」のウルトラ案が誕生した。小学生だって、こんな「カイゼン」が「改善」につながらないことは解るのだが、何と言っても「道理は引っ込め」ねばならない。

実績が上がらなかった場合、「カイゼン」は「カイザン」になる。こうして「140%のコストダウン」が生まれた。

 彼らに同情しなければならない。彼らはエジソンでもアインシュタインでもないのに、発明・発見を求められる。何せ彼らは「カイゼン」=トヨタのエリートなのだから。エジソンやアインシュタインだったなら、「発明や発見は成果主義や競争主義の対極にあるんだよ」と笑い飛ばして、そもそもこんな任務を引き受けなかっただろう。しかし彼らにそんな拒否権はなかった。何せ彼らはトヨタのエリートなのだから。

 「どうせ自分が立ち作業で苦労するわけでもない。他人が苦しむことに、何で配慮する必要があるのだろうか?」と、彼らは考える。何せ彼らはトヨタのエリートなのだから。トヨタ方式が世間の評価を得るまでには、多くの失敗、想像を絶するほど多くの犠牲や使い捨てがあったのだった。

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 働く者にも郵便利用者にも、真に「改善」となる案を作る事は、本当は簡単なことだった。中田さんたち現場の労働者に「教えてほしい」と尋ねればよいだけの話だった。しかし彼らにはそれはできなかった。何せ彼らはトヨタのエリートなのだから。

郵政九州労組・郵政近畿労組吹田千里支部「機関紙11月末号」掲載

*タイトルはレイバーネット編集部


Created byStaff. Created on 2005-09-04 20:41:04 / Last modified on 2005-09-29 06:44:52 Copyright: Default

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