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LNJ Logo 木下昌明の映画の部屋・第139回
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●映画 『季節、めぐり それぞれの居場所』
老いてそして消えゆく人たち――織り成す生と死の『人間模様』

 何げない日常の中で、人が老いて消えていくのをよくみかける。二人三脚のように目の見えない妻の肩を抱いて出かけていた老夫婦が、ある時から夫しか見かけなくなったり、老妻の車椅子を押していた夫が今度はその車椅子に乗って娘に押してもらうようになったり、と。

 大宮浩一監督の『季節、めぐり それぞれの居場所』は、いくつかの民家風の介護施設を舞台に、そういった人々の生き死にの「人間模様」を内側からとらえている。その彼らに寄り添って何くれとなく面倒をみる施設長やスタッフの思いも取り上げている。

 映画で焦点を当てている一人に、「千代ちゃん」と呼ばれる93歳の老女がいる。彼女はスタッフが耳元で話しかけると反応するが、ほとんど目をつぶったままだ。「ストトン節」の奇妙な替え歌が大好きで、スタッフが歌うと一緒に歌う。そんな彼女の死期を察したスタッフが親戚を呼ぶと、その時は目をかあっと見開いて皆を見ていたという。スタッフは、お経のかわりに「ストトン節」合唱して送り出したという。これもまた人生である。

 実はこの映画、2年前の『ただいま それぞれの居場所』の続編ともいうべきドキュメンタリー。前作では、介護保険制度によってサービスが画一化されていくことに抵抗し、より柔軟な施設作りを目指す若い人々の奮闘ぶりに光を当てていた。今作では、それを踏まえて何がきっかけでこの仕事に就いたかや、介護の難しさについての悩みを聞いている。

 前作に出ていた58歳で脳障害を抱えたスポーツマンの元企業戦士はどうなったか――。気にかかっていた彼のその後を知ることもできた。いつも無表情な彼が、娘が施設に来る時だけは満面に笑みを浮かべて手を振るのだ。その彼もあっけなく亡くなり、元気だった彼の妻もまた……。それにしても人はどうしてあっけなく消えていくのか。

映画は後半、被災した岩手県宮古市や宮城県石巻市を訪ね、そこでよりどころのなくなった人々のための「居場所」作りに励む人たちがいることを伝えている。

(木下昌明/『サンデー毎日』2012年4月22日号)

*東京・ポレポレ東中野にてロードショー、ほか全国順次公開◎大宮映像製作所

〔付 記〕 前作『ただいま それぞれの居場所』のわたしの批評は<木下昌明の映画の部屋>の第92回にあります。――そのうちわたしもまた、「あの自転車にのっていたひと、最近みかけなくなったわね」と、人々の意識をかすめる日がくるかも……。


Created bystaff01. Created on 2012-04-21 11:27:46 / Last modified on 2012-04-21 11:29:47 Copyright: Default

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