本文の先頭へ
LNJ Logo 木下昌明の映画の部屋・67回
Home 検索
 


●映画「沈黙を破る」(土井敏邦監督・シグロ作品)

私たちは壁のどちら側にいる 日本人が撮った「パレスチナ」

 小説家の村上春樹氏が、ガザ難民を大量に殺したイスラエルに赴き、エルサレム賞の 授賞式で「壁と卵」の話をして拍手と歓声に包まれたという。日本の報道でもガザ攻撃 を批判したと称賛されていた。が、筆者は狐につままれた気分になった。たぶん会場の 大方は自分も卵と思ったのだろう。卵は壊れやすく壁で囲むことも正当化できるからだ 。

 これに対して壁には「ドリル」だ、という映画が現れた。同じ日本人で、長年イスラエルとパレスチナを往き来しつつ撮った土井敏邦監督の「沈黙を破る」がそれだ。

「沈黙を破る」とは、イスラエルの元将兵たちがパレスチナ占領地で行った自らの加害 を告白するために作られたNGOの名称である。この活動は、占領の実態に目をつむる国民に向けて写真展を開いたことから始まった。

映画は、その若い元将兵たちの体験談を、パレスチナ難民の惨状を追うなかにサンドイッチのように挟みこみながら展開する。加害と被害の間にある壁にドリルで風穴を開けようとする監督の意志がそこに貫かれている。

 冒頭、女性による最初の自爆攻撃が起きたエルサレムの路上シーンでは、市民らの恐 怖と憎しみにひきつった顔、顔が映される。次に500メートル四方に2万5000人 が詰めこまれた難民キャンプに20台の戦車が侵攻してくる。けたたましい銃撃音に人々 は街角にへばりつく。路上は血の海。それを襲われる側から撮る。本当に「卵の側に立 つ」とはこういうことだ。映像に体が震えてくる。「アラブ人をガス室へ」の壁文字も ある。

 イスラエルの国民はしきりに「セキュリティーを」と叫んでいるが、その内面は死滅しつつあり、社会は奥深いところで死んでいるー元将校はそう語る。NGOを立ち上げた一人は、娘を自爆攻撃で失っていながらも「話し合うことでしか解決の道はない」と苦渋の言葉を吐く。映画は語りつくせない多くの問題を突きつけてくる。(木下昌明/「サンデー毎日」09年5月10・17日号)

*映画「沈黙を破る」は5月2日から東京・ポレポレ東中野でロードショー、順次全国公開 (c)「沈黙を破る」


Created bystaff01. Created on 2009-04-30 10:24:50 / Last modified on 2009-04-30 10:29:18 Copyright: Default


レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について