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烙印を押された人々の災害

[レインボー]

パク・チョンジュ(性的権利と再生産正義のためのセンターシェアSHARE) 2020.04.06 09:36

災害の前の烙印

一日にも何度も携帯電話に警報ウィンドウが起動する。 コロナ19拡散を防ぐ「社会的距離」やマスク着用、手洗いなどの生活実践に参加してくれという呼び掛けとともに、 何人目の確診者が出てきた、ウェブに確診者動線を公開したという公示が飛び込む。 私が暮らす地域の区庁はもちろん近隣区庁、ときには数十キロ離れた市庁から送られたのもある。 初めは携帯電話がない人はどこでどのように情報を探すのかを考えたが、 受信が繰り返されながら、考えを変えた。 メッセージには、あるアパートで確診者と暮らす彼の息子が確診判定を受けたといった詳細な情報が表われていた。 そして一足遅れて動線情報を開けると、性別、年齢、勤務地や居住地、 そして接触者がいない所を含む時間別訪問地全体が公開されていた。 身近な人なら、簡単に正体がわかるほどだ。

感染対応のために確診者が立ち寄った場所、時間の公開を越え、 確診者の個人情報をここまで公開することに対する効果は明らかだった。 それらが「非常な時局」にあちこちを出歩き、「迷惑」をかけた人を非難するために使われることは明らかだという意だ。 実際に、こうした形の非難や嘲弄だけでなく、私生活公開に対する批判も起きた。 すると国家人権委員会は3月9日、 「政府と地方自治体が確診患者の移動経路を知らせる過程で、 私生活の情報が必要以上に過度に露出する事例が発生していることに憂慮を示す」という委員長声明を出した。 数日後には保健当局が確診者の個人情報保護を念頭に置いた新しい動線公開ガイドラインを全国地方自治体に配布した。 (私が暮らしている所の区庁はその後に出した確診者のお知らせにも家族(内接触者)構成と勤め先などを明示していた。)

経験したことがないウイルスは、経験したことがない速度で広がり、 経験したことがない対策が試みられていた。 その混乱と不安が入り乱れる中で、疾病と共に烙印が広がった。 最初の発見地が中国だという理由だけで、 すべての中国人や中国系韓国人が警戒の対象になった。 大規模集団感染が起きた大邱慶北の特別災害地域宣言で 新天地教会信者を(教団の公務妨害疑惑を捜査するのとは別に)支援対象から除外しろという主張も出てきた。 マスクが十分に供給されないので、誰がもマスクを持てない状況に置かれているのに、 素顔で歩く人にいきなり敵意を表わしたりもする。 在宅勤務でも距離をおくことでも、予防規則遵守を遵守できない労働環境に置かれていて、 ウイルスに露出している人々をまるで社会悪であるかのように描写されたりもする。

烙印を押された彼らの災害

これまで韓国社会はより良い世の中を作るための共同の実践の代わりに、 誰かに烙印を押すことで自分の場所を確保することを選んできた。 そうした社会で伝染を防止し、感染者を治療することに参加するのではなく、 「コロナ人間」のようなものを探そうとする姿は目新しくない。 新種ウイルスの威力は相変らず一種の未知数だが、 公然と烙印を押されることの恐ろしさは誰もがすでによく知っている。 自嘲混じりに言えば、そのためにむしろ効果的な伝染防止策になるのかもしれない。 お互いのために社会的距離を維持しようという呼び掛けよりも、 はるかに早く強力な方式で社会的活動を遮断する方法なのかもしれないという意だ。

この烙印が社会的活動を遮断するということ、言い変えれば 共同体の作動を破壊するということは、単純な誇張ではない。 すでに烙印を押された人々、烙印を止める何の防壁も持てない人々の人生を考えればこれは明らかだ。 動線公開がそのままカミングアウトになるので、 ゲイバー、レズビアンバーなどに出入りできなくなる性少数者がいる。 その他の食堂とは全く同じだったり、なはだしくはもっと安全なところだったとしても、 はるかに強力な非難が加えられることを予想するのは難しくない。 性売買従事者なら、社会的烙印と司法的処罰を同時に受ける危険に直面するので、 生計を放棄したり、もしもの場合には適切な治療を放棄しなければならない状況に置かれてしまうだろう。

専用空間ではないとしても、どこにでも行ける所があるのなら、 日常がまるごと崩れるだけではないだろう。 だが未登録移住民はどうか。 人種差別と摘発の危険などで頼れるのはお互いだけの彼らにとって、 安全な出会いの空間を失うということはそれ自体が安全な生活の可能性を失いかねない。 外国語の案内が十分に提供されず、情報から排除され、 住民登録証や健康保険証のような書類がなく、 公的マスク購買からも排除される。 主流社会から遮断されてなんとか作ってきた移住民共同体までが一気に解体される危機に処するようになる。 初めから物理的空間を持ったことがないので失うものもない。 ただ、まるごと隔離される施設生活障害者の事情も大きく違わない。

距離をおけない場所

他人との出会いを自制して、対面接触が必要な場合にもマスクを着用して2mの間隔を維持すること。 伝染予防のためこの「社会的距離」は私をはじめ多くの人たちには 生活必需品を購入する場合程度を除けばそれほど難しくない問題だ。 だが主流メディアから暮らしに必要な情報を得られない ――マスクで口を覆った状態ではコミュニケーションが難しい、 活動支援なしでは玄関の向こうの宅配ボックスを開けない、 ぎっしりと座った職場に出て行かなければ生計を維持できない―― 多くの人々には、この距離は社会との距離、人生との距離になってしまう。

彼らがやむをえず「侵犯」しなければならないこの「安全距離」が、 烙印と非難の口実になるのなら、彼らは人生を放棄するほかはない。 あるいは彼らの人生を放棄できない誰かがもうひとつの何かを甘受して、 食事とマスクと話しかけをするしかない。 少なくともまだこの侵犯は、全て焦った個人に任せられている。 こうして互いの人生を守る人々が、 幸いウイルスから自らを守れるとしても、 他の何かを傷つけないとは決して断言できない。

距離をおけるということは、自分の空間を持てるということでもある。 烙印の距離の最後に身動きできない点をようやく一つ持てた人たちには持てない空間だ。 社会的距離をおくことがただ国家の安全、あるいは特定の誰かの安全ではなく、 互いの安全のためのものだとすれば、 距離をおけという言葉より、それぞれの暮らしが可能な空間を用意することが先だ。 この空間は、烙印が占有した距離を返してもらうことだけで分けあえるものだ。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2020-04-08 20:23:57 / Last modified on 2020-04-17 04:21:44 Copyright: Default

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