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彼らの願いは『統一』と『低賃金』

[ワーカーズ]イシュー

キム・ハンジュ、パク・タソル、ユン・ジヨン記者 2018.05.28 11:06

わずか20年前まで、韓国の子供たちの共通した願いは「統一」だった。 誰かが「君の願いは何か」と聞けば、「私たちの願いは統一」という返事を呪文のように唱えた。 時々は学校で「互いに助けあって一家のように過ごして、 われわれはひとつの民族だ、檀君の子孫だ」という歌を歌った。 なぜ統一をしなければならないのかよくわからなかったが、 皆同じ檀君の子孫なのだからそうだろうと思った。

過去に「韓民族」という曖昧な統一スローガンが、今は「経済協力」という実用的スローガンに移っている。 スマート学生服が去る5月4日から約10日間、小、中、高校生5274人を対象として南北統一に関するアンケート調査を実施した結果、 回答者の73.1%が統一が肯定的な影響を与えると答えたという。 重要なことは「肯定的影響」を選択した回答者の中で最も多い割合の36%が 「北朝鮮内にある地下資源開発」のためだと明らかにした。 二番目に高い割合の21.9%は「観光資源による収益増加」を選んだ。 統一について否定的だと答えた人々のうち32.7%は 「貧民救済による税金や人員の消費」を主な理由に選択した。

このような傾向は、政府が「私たちの願いは統一」という根拠のない詰め込み式の教育から、 「経済的効果」という甘いスローガンへと宣伝広報の方向を変えたことが大きい。 朴槿恵(パク・クネ)前大統領が「統一は大当たり」という新造語を作り出し、 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「新経済地図」を広げた。 4月27日の板門店宣言以後には「南北経済協力」に対するバラ色の未来が広がり始めた。 開城工業団地の再稼働をはじめ、統一経済特区の造成、京義線と京元線を中心とする経済、産業および観光、物流開発ベルト造成など。 統一さえできれば、いやあえて統一できなくても、南北経済協力の拡大で果てし無く雇用が生まれ、経済が復活するという期待がみなぎった。 果たして「統一」に近づくほど、私たちの暮らしは良くなるだろうか。 南北経済協力が労働者に与える影響を見通した。

財界の願いは統一

文在寅政府の「朝鮮半島新経済地図」に対する企業の動きはかなり敏捷だ。 中小企業中央会は、板門店宣言の一か月ほど前の去る3月14日、 「中小企業中心の朝鮮半島新しい経済地図構想」討論会を開いた。 彼らは現在の韓国経済は持続発展が可能な新成長動力と発展空間を用意することが必要で、 南北経済協力の活性化と平和統一が解決法だと強調した。 国民大朝鮮半島未来研究院のホン・スンジク首席研究委員は、 国内の中小製造業界が高い人件費と賃貸料、物流費などで価格競争力が下がり、 経営条件が持続的に悪化しているとし、 「南北経済協力は中小企業にとって大きな魅力」だと強調した。 価格競争力を向上させて産業設備と技術の生命サイクルを延長できるということだ。 何よりも中小企業にとって北朝鮮が魅力的に感じられる最大の理由は、 人件費と比べて高い生産性だ。 南北関係の悪化による度重なる工団の閉鎖と、これによるリスク増加に耐えながらも、 開城工業団地に入居したいという企業主が多いのもこのためだ。 実際に開城工業団地が閉鎖されてから1年半が経過した昨年6月。 開城工業団地企業協会は、開城工業団地入居企業にアンケート調査をした。 その結果、開城工業団地が再開されれば再入居するという企業は何と94%に達した。 無条件に再入居するという割合は36%、再開条件および状況を見て再入居するという割合は58%で、 再入居しないという割合は6%に終わった。 再入居の理由は絶対多数の84.7%が「人件費に対して高い生産性、物流費などの高い競争力」をあげた。

全国経済人連合会(全経連)はすでに2015年に北朝鮮開発マスタープランも用意した状態だ。 北朝鮮労働力の再教育を含む人的資源の開発と活用、北朝鮮資源を活用した産業開発、 北朝鮮の鉱物資源開発、労働集約産業の進出などの計画だ。 全経連は板門店宣言直後の去る5月8日、「朝鮮半島新しい経済ビジョンと経済界の役割」を主題にセミナーを開き、北朝鮮市場進出方案を模索した。 セミナーでサムジョンKPMG対北朝鮮ビジネス支援センターは、 北朝鮮のインフラ、建設産業進出戦略を模索した。 短期的には南北協力事業候補地域などの鉄道と道路、インフラを全額無償援助で開発した後、 駅勢圏の開発事業権を確保するという計画だ。 長期的には民間資本と建設会社が参加して、北朝鮮の内陸インフラを建設し、 施設間の連係を進めるということだ。 全経連はここで南北経済統合がなされれば、 2020年から2024年までの生産誘発額は42兆3000億ウォン、 付加価値誘発額は10兆8000億ウォンにのぼると見通した。 雇用は12万8000が創出されると展望した。

[出処:キム・ヨンウク]

企業は「天国」、労働者は「低賃金」

南北経済協力による経済成長と雇用創出の宣伝はあふれるが、 「良い雇用」についての話は見つけるのが難しい。 その上、北朝鮮の低賃金労働を固着化させ、韓国雇用を下降平準化させる意図までうかがわれる。 去る5月10日、京畿道知事立候補を宣言したパルン未来党の金栄煥(キム・ヨンファン)候補は、 京畿道に「北朝鮮工団」を造成するという公約を掲げた。 開城工業団地労働者に支払う300ドル内外の賃金を1000ドルまで上げても、 海外で移転した韓国工場が戻るリシェアリング(reshoring)が発生するという。 韓国の最低賃金の70%に満たない月給の「最低賃金違反特別経済区域」を作ろうということだ。

実際に南北経済特別区域の開城工業団地は企業には天国のような所だ。 安い人件費と低い土地分譲価格、安い物流費用、無関税および税制恩恵などの提供が受けられるからだ。 開城工業団地には124の企業が入居している。 これらのほとんどは大企業に物を納品する下請企業で、 事実上開城工業団地は大企業の下請基地の性格が濃い。 2015年の開城工業団地労働者の月平均賃金は141.4ドル。 韓国ウォンでは15万3千ウォン(日本円で1万5千〜1万6千円)程度だ。 2006年に60.3ドル(6万5千ウォン)で始まり、毎年約5%ずつ賃金が上がった。 開城工業地区支援財団によれば、130ドル〜140ドルの賃金の労働者が25%で最も多く、8.3%は120〜130ドル未満だった。 賃金水準は中国やベトナムよりも低い。 ベトナムの月平均賃金は193ドル、中国は659ドルだ。 もちろん、開城工業団地にも最低賃金がある。 2006年の月最低賃金は50ドルで、2015年には74ドルまで上がった。 開城工業地区法によれば、月最低賃金は前年度の5%を超えて上げられないと規定している。 また最低賃金引き上げは開城工業地区管理機関が中央工業地区指導機関と合意して決定することになっている。 開城工業団地内で、南側と北側が最低賃金値上げで戦ったりもする。 去る2015年、北朝鮮は労働者最低賃金を5・18%上げることを韓国政府に通知し、 政府は「一方的な賃金決定は受け入れられない」と対抗したことがある。 結局、北側が既存の5%引上げに合意して議論は終結した。

韓国政府と企業は開城工業団地入居の草創期から、 労働者の解雇、採用、作業指示などの人員管理に関する権限を要求してきた。 2006年、韓国労働研究院は「開城工業団地の人員管理実態と労働法制分析」の報告書で 「採用や解雇にあたり企業の自律性が相当部分制限されているので、 現実的な救済が必要だ」とし 「北朝鮮の勤労者に対する指揮、命令権を企業の固有権限であり、至急回復させる必要がある」と強調した。 「労組がない」低賃金の人員を期待する視線もある。 イ・ジョンソク前統一部長官は4月26日、JTBCの番組〈説戦〉に出演し、 北朝鮮は優秀な産業労働力を持っているとし、 「韓国企業の立場から見れば『労組がない大韓民国の労働力』が北朝鮮の労働力」という妄言を残した。[ワーカーズ43号]

財閥に流れる防衛分担金

北朝鮮市場は「超有望」だという韓国政府。 だがまさに駐韓米軍駐屯費用として垂れ流される血税の前では対応できない。 南北経済協力であれ、駐韓米軍であれ、金を持っていく側は企業だ。 駐韓米軍防衛分担金として漏れていった国民の血税は米国に、そして企業に流れて行く。 その中でも独歩的に金を稼ぐのはSKグループだ。 政府が2017年に米国に払った防衛費分担金は9507億ウォンで、1兆ウォンに迫る。 平和統一市民団体は、無償で提供される土地でも、税の減免、カチューシャ運営などの間接費用まで入れると一年間で駐韓米軍に3兆かかると計算する。 駐韓米軍にかかる費用はまた財閥企業に流れる。 防衛費分担金の相当数が軍事建設(施設改善)事業に使われるが、 2016年には4220億ウォンが使われた。 韓国業者が契約を発注し施工するが、主に大型のゼネコンが契約を取り、再下請に出す形だ。

SK建設は2008年、米極東工兵団(FED)が発注した平沢駐韓米軍基地敷地造成と基盤工事を受注した。 京畿道平沢市彭城邑トドゥ里と大秋里一円に232万5792m2規模の土地を整備する工事であった。 当時の契約工事の金額は約4641億ウォン。 ほとんどの工事のように、工事の過程で費用は膨らみ、2017年3月には設計変更された工事金額は約7590億ウォンだった。 SK建設は2010年には事業費537億ウォンの平沢旅団兵営施設工事を受注した。 SK建設はこの事業を受注するにあたり 「今後も国防部関連プロジェクトに対する競争優位を占められる契機を用意した」と説明した。 一方SKグループの他の系列会社、SKエネルギーは駐韓米軍対象石油、環境事業でも相当な収益を上げている。 SKエネルギーは2017年に米軍を相手に352億ウォン分の石油を売った。 2016年には240億ウォン、2015年には196億ウォン、2014年には305億ウォン、2013年514億ウォンで、最近5年間で2700億ウォン近い売上を記録した。

2008年には国内最大規模の坡州地域の7つの返還米軍基地環境汚染浄化事業を受注することもした。 この事業は総601億ウォン程度の予算が策定されていた。 SKエネルギー関係者はあるメディアを通じ 「今後平沢米軍基地が完工すれば、竜山地区など主要米軍基地が平沢に移転され、 既存の基地が返還されて、規模が大きい浄化事業が予定されている」と今後展開する事業に期待を示した。

昨年ソウル市が主催した「竜山米軍基地の完全な返還と浄化のための環境フォーラム」で、 緑色連合のユン・サンフン事務局長は 「龍山基地面積の18分の1に過ぎない東豆川キャンプキャッスルの返還地も、 国防部が196億ウォンの浄化事業発注公告を出した」とし 「龍山基地汚染浄化費用は1兆ウォンを十分に越える」と展望した。 東豆川のキャンプキャッスル返還地の場合、現代エンジニアリングが施工を引き受けた。

精油企業にも駐韓米軍は欠かせない主要顧客だ。 2015年Sオイルは約2億2千万ドル、SKエネルギー4600万ドル、現代オイルバンクは約2800万ドル、GSカルテックスは約1300万ドル分を駐韓米軍に納品した。 一方、駐韓米軍が必要とする費用が韓国経済に役に立つと話すのは「詐欺」という指摘もある。 平和統一研究所のパク・キハク所長は彼の著書〈トランプ時代、防衛費分担金正しく知る〉で 「最も多い防衛費分担金が投資される軍事建設はテント、軍人宿舎、教会、食堂、ヘリポートなど、 特別な技術を必要としない単純建設事業であり、産業生産施設ではない」と指摘した。 一方、政府は国内の中小企業が装備整備を引き受けるという論理で防衛分担金を正当化する。 しかし平和統一研究所のユ・ヨンジェ研究委員は 「最近ではそれさえ米国のロッキードマーティンの子会社が名ばかり社長を立てて 関連事業を受注している」とし 「政府の論理は看板だけが韓国業者という形」と批判した。

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2018-07-16 10:15:05 / Last modified on 2018-07-16 10:15:06 Copyright: Default

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