本文の先頭へ
LNJ Logo 韓国:激動2017、予想された風浪
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 20170407
Status: published
View


激動2017、予想された風浪

[ワーカーズ]経済から見る世の中

ソン・ミョングァン(チャムセサン研究所) 2017.04.03 00:44

経済危機勃発10年を振り返る

今年は2007年のサブプライム危機勃発から10年になる年だ。 この危機は米国の不動産バブル崩壊から始まり、2008年9月のリマンブラザーズ破産を契機とする前代未聞の世界的な金融恐慌に伝染した。 この危機に直面したほとんどの国は前例のない莫大な救済金融と共に各種の景気浮揚策を注ぎ込んだ。 特に「G20体制」という一種の危機管理機構による統一した態勢を作り、米国連邦準備制も(連準、Fed)を中心とする中央銀行の国際的な協調は、 各国の金融危機が外国為替危機に伝染することを遮断するのに大きく寄与した。 その後、ヨーロッパ財政危機のように数回、大小の危機はあったが、 全体として深刻な崩壊に達しないまま長期的な沈滞局面に流れた。 一方、株式、債権、不動産などほとんどの金融資産は原状回復水準を超えて危機前よりも上がり、 企業の収益も危機管理政策の恩恵により急激に改善された。 だが世の中が危機以前に戻ったと考える人は誰もいない。 いわゆる「ニュー・ノーマル」(低金利-低成長-低物価)と呼ばれる経済現象が新しい基準になって久しく、 深刻な所得格差、人種主義的対立、社会再生産土台の崩壊が各国で起きている。

このように二極化した状態で10年が過ぎた今、世界と朝鮮半島は新しい形態の危機を迎えている。 この危機はこの10年間受け継いできた危機管理体制そのものが危機に陥ったことを示している。 トランプの登場、ヨーロッパの分裂、東アジアの軍事対立の増大がこれを象徴している。 米国の失業率は5%未満に下がったものの、労働者の暮らしはあまり良くなっていない。 失業率の数値を埋めたのは不安定労働者層で、労働者の賃金は停滞している。 こうした階級と階層間の社会対立は、トランプのような奇人を大統領にするための養分になった。 すでにヨーロッパは数年前から統合ヨーロッパに対する大衆的信頼が転落し、 選挙のたびに極右政治勢力が突風を起こして分裂を促進している。 彼らは一時、左派が叫んだ「反世界化」のスローガンに民族的利益を掲げる自国民優先主義を結合させて大衆に食い込んでいる。 フランスの極右政治家ルペンが主張する「世界化主義者 vs 民族主義者」というスローガンが強力なフレームとして作動している。 トランプも同じだ。 このように、今回の10年危機の中心地だった米国とヨーロッパの政治的な社会対立は簡単に消えそうもない。

一方、こうした新しい危機は東アジアにおける軍事対立をさらに深めている。 すでに数年前から日本の再武装を許容した米国は、日本をテコにして中国を牽制し、東アジアでのヘゲモニーを維持しようとしている。 だが米国にとって、アジアで地域覇権を達成しようとする中国との摩擦はますます不可避になり、 南シナ海と東中国海で行われる領土紛争の対立の水位はますます高まっている。 ここに朝鮮半島THAAD配置をめぐり触発された米中対立は、2017年の朝鮮半島を新しい危機の様相に追い立てている。 そして米国トランプの「米国優先主義政策」は中国との対立を激化させ、こうした中で朝鮮半島が代理戦の戦場として広がっている。

このように2017年、世界に吹き付けている風浪はすでに予想されていた。 世界的な危機管理協調体制であったG20は今や各国の首脳が写真を撮るために集まる例年行事に転落して久しい。 その上、トランプの登場で今年のG20共同宣言文草案に「公正な貿易」を入れたが、 これは対米黒字国を狙ったもので米国主導の保護貿易主義が浮上することを暗示している。 危機管理機構として登場したG20体制が米国の経済的利益を反映する政治舞台に転落しているのだ。 このように矮小化したG20体制は数年前から続いてきた求心力の喪失を見せている。

2017年に予想された対立の爆発

では2017年の世界情勢の展望を調べよう。 まず、トランプ行政府がどんな状況に行くかを探る必要があるが、 トランプが打ち出したさまざまな経済公約は、少なくとも今年は作動不能状態に陥るものと見られる。 第一にトランプと米国の主流政治勢力間の泥仕合が日に深刻化しているためだ。 トランプ側の人がロシアと深くかかわっているという暴露は連日トランプ行政府を窮地に追い込んでいて、 これに対するトランプ陣営の反発は絶え間ない暴露戦につながっている。 この暴露戦の舞台には、数年前に世界を揺るがしたウィキリークスの新しい暴露が影響を与えてもいるが、 互いに結末を見る可能性なく極端に駆け上がっている。 こうした激しい対立は、トランプ行政府の一貫した政策推進と議会内交渉をさらに難しくしている。

二番目の理由は、トランプの経済公約自体にある。 減税と1兆ドルの対景気浮揚を同時に主張したトランプは、それ自体が矛盾的だ。 そのため景気浮揚の財源を大幅な財政赤字の拡大により動員したり、企業の投資に頼るしかない。 財政赤字の拡大は、政府の負債限度を上げる問題と連動し、税制改編とオバマケアの縮小とも関係があり、 議会権力との交渉が必要になる。 特に連邦政府負債限度の交渉時点とシークェスト(財政削減)遅延の終了時点が近付いている中で、 政治勢力間の泥仕合により、交渉は始めることもできない局面だ。

そのため、トランプ政府は規制緩和による企業の投資活性化に期待している。 それで以前の金融危機の教訓により作られた金融改革法(ドット-フランク法)までなくそうとしている。 大型金融機関、特に投資銀行の投機的行為(自己資本取引)を規制するためのこの法は、 制定当時からウォール街の無数のロビーを受けて後退を繰り返した。 それで制定当時から中途半端な金融規制法だという酷評も聞かなければならなかった。 しかし、今はこれさえ古草履のように捨てられる運命に置かれることになったのだ。 議会の多数を占める共和党は、当初からこの法に反対していたし、 ウォール街のロビーに協調的な立場を取ってきた。 オバマ政権に対する「痕跡消し」と見せかけだけの成果を渇望するトランプのいらだちがこれと結合すれば、金融改革の時計の針は恐らく危機以前に戻るだろう。

だが金融改革法は米国だけに限られた問題ではなく、現グローバル危機管理体制と緊密にからむ。 この法を変えることは、国際協調体制のG20次元で合意された金融規制の原則を変えることであり、 その影響は米国に終わらず世界金融環境の大きな変化となって現れるほかはない。 それで米国の中央銀行格である連準のイエレン議長は、トランプの規制緩和の根拠について聴聞会で細かく反論した。 IMFのラガルド総裁も金融規制を戻す試みに対し、その危険性を警告しており、 ヨーロッパ連合も否定的な立場を取っている。 すでにトランプ式の保護貿易主義、反移民者政策、ブレクジットに対する立場の違いなどにより対立の溝が深まっている中で、 金融規制法を無力化する試みは危機管理体制の一軸を押し倒し、さらに大きな対立を生んでいる。

こうした中でヨーロッパに吹く極右政治の熱風は、今年予定されている各国の大型選挙でその去就が分かれるものと見られる。 彼らが打ち出す民族経済復興論理は左派のアジェンダを全て蚕食しており、 当選とは無関係に選挙を契機として大衆的な影響をさらに広げるだろう。 最近登場したブレクジット事態とトランプの登場が主流支配秩序の連合体制に甚大な打撃を与える局面だが、 これはすでに数年前からヨーロッパで始まっており、今年が分岐点になる展望だ。

一方、内部的に苦しい状況に置かれたトランプ行政府は、外部に突破口を見つけようとする誘惑をさらに受けるだろう。 特にトランプが保護貿易主義の再登場を予告しただけに、対米貿易黒字国に対する圧迫は人気管理という次元ではあっても、しばしば登場するだろう。 いわゆる恣意的な判断による為替レート操作国指定は、相手国との摩擦と対立を呼び起こすだろう。 特に対米黒字国の一つである中国との貿易対立がさらに深刻化すると、その影響は現在軍事的対立で緊張感が高まっている南シナ海と朝鮮半島にも影響を及ぼすほかはない。 米中間の戦略的な経済協力関係が一日で水泡になるようなことはないだろうが、 今秋の中国共産党党大会を前にして政治・外交的な成果を守るための習近平指導部の努力とトランプの強硬ドライブが衝突する可能性は相変らず残っている。 少なくとも今年一年間は互いに探索の動きが展開され、朝鮮半島をはじめとするあちこちで代理戦の様相が起きるだろう。 特に北朝鮮の核問題と大陸間弾道ミサイル問題に対応しなければならない米国が切ったカードである朝鮮半島のTHAAD配置の問題は、長い間、対立の輪として作動するだろう。

風浪の中に閉じ込められた韓国経済

こうした中、韓国が直面している危機は一つや二つではないことは誰もが知っている。 THAAD配置問題による中国との経済対立、米国の金利引き上げによる家計負債危機、造船業をはじめとする大規模基幹産業の長期沈滞等等、 対外依存度が高い韓国経済に垂れこめる影は非常に濃厚だ。 今すぐ何か大きな事件が起きるわけではないが、小雨に服がぬれるように、波風は長く続きそうだ。 その理由は、これらすべての問題が短期間に解決することができない問題だからだ。 特に、家計負債の問題は、その属性上、一気に大きく爆発するのではなく、 日本の事例のように長い時間をかけて漸増的に起きるだろうし、 その収拾は個人が各自耐えていく形で展開するだろう。 これによる社会的損失は長い間、回復しないまま続く可能性が高い。

こうした危機を担う主体は事実、国家(政府)しかない。 さらなる税金を企業にかける方式や、彼らに雇用創出を要求する程度では解決しない。 国家が直接金を使わなければならず、その金が大衆に渡るように政策を設計し、市場に介入しなければならない。 昨年、IMFが勧告したように、経常収支黒字国、外貨準備高世界6番目、政府負債割合(GDP対比)40%(非常に低い)水準の韓国の状況で、 この危機を打開する主体は事実上、国家しかない。 自分の生きる道に忙しい大企業に頭を下げても空しいことだ。 問題はどう金を使うかにある。 財源作りよりも重要なことは、まさに誰にどのように金を配分するのかを決めることだ。 5月の大統領選挙で執権する新政権が風浪の中に閉じ込められた韓国経済に最後の実弾をどのように撃つのか、 そしてその実弾が危機に瀕した貧しい民衆の空の財布をどれほど満たしてくれるか、 目をしっかり開いて見守らなければならない。 しかし果たして彼らがそのような決断を下す準備と能力を備えているのだろうか? 目をとじてだまされてやるほど寛大な気持ちは、 人々はもう毛頭ないことを執権者は肝に銘じなければなるまい。[ワーカーズ29号]

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2017-04-10 19:29:41 / Last modified on 2017-04-10 19:29:43 Copyright: Default

関連記事キーワード



世界のニュース | 韓国のニュース | 上の階層へ
このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について