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韓国版量的緩和、韓国銀行は誰のためにお金をばらまくのか

[ワーカーズ6号]経済から見る世の中

ソン・ミョングァン チャムセサン研究所 2016.05.02 15:29

「韓国版量的緩和」論争

公認事態に始まり、土下座政治で終わった今回の総選挙は、政策面では最悪の選挙と評価される。 しかし政策が失踪した今回の総選挙で一つ注意深く見るべき問題があった。 まさに量的緩和だ。 他の政策を脇に置いて、なぜ突然量的緩和が議論を呼ぶようになったのか? 大部分の人々は量的緩和政策をただ米国をはじめとする基軸通貨国にしか取れない政策だと理解している。 そのため韓国が量的緩和をするというので、その実現の可能性と副作用をめぐり、諸説乱舞する論争が起きた。 当時、セヌリ党が提起した「韓国版量的緩和」について共に民主党の金鍾仁(キム・ジョンイン)代表が「金持ちに金をばらまくもの」と批判し、量的緩和が一時注目をあびた。 これに対してセヌリ党の康奉均(カン・ボンギュン)選対委員長はラジオに出演して 「2008年の世界金融危機の後、米国、日本、ヨーロッパ連合(EU)はみんな量的緩和をした」とし 「金代表は、世界経済がどう変わるのかを知らない貴族」だと言って舌戦を展開した。

4年前、互いに異なる陣営で経済政策を主導した人々が、今では互いを詰問する姿を見れば全く皮肉だ。 では量的緩和政策は、保守と進歩の対立構図で見る問題ではなさそうだ。 しかしも真剣な論争に発展せず、選挙の中での陣営の論理に埋もれ、批判のための材料だけに使われて終わってしまった。 しかも、この政策と一番密接な公共機関である韓国銀行と企画財政部は、とても渋い反応だった。 与党との事前の政策協調が全くなかったという。

だが内需と輸出景気が急減し、大規模な企業構造調整を控えている状況で、 制約的な水準の「韓国版量的緩和」はもう一度議論してもいい。 「韓国版量的緩和」はすでに施行されているからだ。 今回の論争を契機として、量的緩和政策とは何か、これをめぐり、どのような対立があるのかを見る必要がある。 そして、それが今後の情勢変化とどのような関連性があるのかを確かめなければならない。

2008年の金融危機と量的緩和、中央銀行の全面的市場介入

「量的緩和」は何を量的に緩和するというのだろうか? これを知るためには、現代の資本主義社会でどのように金が作られているのかを理解する必要がある。 中央銀行が貨幣を発行するためには、それに相応する資産がなければならない。 普通は2種類あって、最初は国家が税金として取る租税で、二番目は国債、金、外国為替(ドル)をはじめとする金融資産だ。 たとえば100億程度の貨幣を中央銀行が発行すれば、この発券力はそれに相応する100億程度の中央銀行の資産から出てくると規定したのだ。 一種の約束体系だ。量的緩和とはまさにこれ、中央銀行資産の量を緩和、つまり増やすということを意味する。 すると中央銀行は増えた資産に相応する程度の貨幣を発行する。 貨幣ができる過程には、こうした規則が隠されている。 しばしば中央銀行の独立性と呼ばれる規律は、こうした貨幣発行の規則の下で作られた概念だ。

しかし、こうした規則は2008年の金融危機を経てかなりの部分が崩れた。 金融危機の震源地だった米国の中央銀行が金融システムを救うために派生金融商品をはじめとする不良債権などを大挙買いとったのだ。 当然、途方もない金が金融市場に流れ、これが不振の金融機関を救った。 致命的な銀行の危機を克服するための緊急措置だったと評価することができる。 しかし量的緩和はこれに終わらず、2次、3次と拡大し続けた。 そうして量的緩和の性格が変わった。 米国の1次量的緩和が金融システムを救うための極端な措置だとすれば、 2次、3次の量的緩和は景気浮揚のための常時的な通貨政策になったのだ。

2次、3次の量的緩和期間中、米国の中央銀行は市中金利を低下させるために、 これに影響する10年以上の長期国債を買いとった。 一方、これにより米国政府は国債発行の利子費用を顕著に下げられるようになり、 間接的に財政補助を受けることもした。 公共機関の債権買入も同じだ。それだけではない。 金融危機の直撃弾を受けた住宅市場を浮揚させるために米国中央銀行は MBS(Mortgage Backed Securities、住宅抵当証券)も大量に買いとった。 これで実質金利が0%まで下がる効果をあげた。 米国の住宅市場は2013年以後、また上昇の勢いに反転した。 こうした中央銀行の量的緩和を米国だけでなく、ヨーロッパ、日本、英国などの主要先進国のすべての中央銀行がしている。 その上、日本の銀行は会社債と株式までも買い取っている。

これで中央銀行は市中銀行の銀行としての「最終ボス」という伝統的な役割だけに留まらず、 各種の金融商品に対する「最初の購買者」の役割まで引き受けるようになったのだ。 その上、現在はゼロ金利政策を越えて、マイナス金利政策まで披露して熱い議論を呼んでいる。 このように、2008年の金融危機以後に行われた世界の中央銀行の資産買入と超低金利政策は日常化した。 これは中央銀行という国家機構の全面的な市場介入が日常化したものと評価することができる。 毎月、米国をはじめ日本、ヨーロッパ、中国の中央銀行長の記者会見と会議録の発表に全世界のマスコミが注目するようになったのも、こうした背景のためだ。

すでに施行されている韓国版量的緩和

では韓国はどうだろうか? 現在、韓国銀行は輸出入銀行の株式の13.2%を保有する2大株主だ。 すなわち韓国銀行の発券力で輸出入銀行の資金を出している。 産業銀行の場合、政府が100%の株式を保有しているが、前に説明した貨幣発行の規則によれば、 広義の政府といえる韓国銀行の発券力により産業銀行資金を支えているわけだ。 セヌリ党が総選挙で主張した韓国版量的緩和の核心も事実、韓国銀行の発券力で産業銀行の企業構造調整の資金を支援しようということだ。 青瓦台の関係者も「企業構造調整を活性化するために、産業銀行などに対して選択的に流動性を供給する必要がある」とし 「韓国型量的緩和の趣旨には共感する」と話した。 これに対して韓国銀行労組は「政治が通貨政策を勝手に決めるのは、 中央銀行の独立性の重大な毀損であり、 これは可能ではなく、してもならない」と強く反発している局面だ。

ところでこの争点の核心は、中央銀行の独立性ではない。 すでに韓国版量的緩和と呼べるような措置は数年前から始まっている。 普通、中央銀行は市中銀行をはじめとする大型の金融機関とだけ取り引きする。 それで韓国銀行は市中銀行という橋を使って、民間に資金を供給する。 韓国銀行と市中銀行の間の資金取り引きに使われる金利がまさに私たちが知っている基準金利だ。 しかし現在、韓国銀行は中小企業を支援するために20兆ウォン規模の「金融仲介支援融資」制度を金利0.5〜1%で運営している。 韓国銀行が市中銀行に1.5%の基準金利よりもはるかに低い金利で別途の資金を供給しているのだ。 それだけ市中銀行は中小企業の融資金利を下げられる。 結果としてこの資金の恩恵を受ける中小企業は、市中金利よりはるかに低い金利で資金の支援を受けられる。 結局、途中で橋の役割を果たす市中銀行を除いて見れば、0.5%の金利で発行した中小企業の会社債を韓国銀行が買ったのと同じに見える。

これだけではない。 すでに韓国銀行は2014年から、住宅金融公社が発行するMBSを買入対象に入れている。 これは安心転換融資のような住宅融資プログラムを支援するためだ。 その方法は、韓国銀行が住宅金融公社に4000億ウォンを追加で出資し、住宅金融公社がMBSを発行する余力を作り、追加発行されたMBSを韓国銀行が買いとることだ。 これにより、韓国銀行は発券力に基づき住宅金融公社に政策金融を支援できるようになる。 これについて一方では「韓国銀行の家計負債対策構造」と呼んだ。

これで見ると、量的緩和をめぐる核心的な争点を中央銀行の独立性の毀損と見るのは非常に狭い見解だ。 本来、中央銀行の歴史において、この独立性の意味は「政府からの独立」ではなく「政府内での独立」だった。 したがって経済状況によって中央銀行の発券力を動員する政策はいつでも取る事ができ、取り入れることもできる措置だ。

問題は、そうして動員した発券力をどこに、そしてどのように使うのかだ。 核心はまさにここだ。 このような発券力を利用する韓国版量的緩和のアイディアは、すでに昨年の夏に問題になった。 対外経済研究院のイ・イリョン院長が「内需振興のために『量的緩和』が必要」だと主張したのだ。 彼は「基準金利調整政策は限界に突き当たったので、中小企業と家計の借金を帳消しにして、国内消費と投資を刺激しよう」と指摘し、 買入対象債権として中小企業融資(約10兆1000億ウォン)と銀行圏家計ローン(約3兆1000億ウォン)、第2金融圏の不良債権(約14兆1000億ウォン)、日差ローンなどの庶民融資債権(約12兆4000億ウォン)と、現在は正常な債権だが不良債権に転換する可能性が高い債権(約19兆3000億ウォン)など、総額60兆5000億ウォン規模に言及した。 こうした主張が現実になったのではないが、すでに韓国銀行は中小企業に対する融資プログラム資金支援と住宅市場を浮揚させるためのMBSを買い入れている現実を見ると、 全く議論されたことがない事案ではない。 セヌリ党の康奉均(カン・ボンギュン)選対委員長の提案は熟していなかったが、単なる選挙用ではなく、 部分的に表出されていた量的緩和論争を積極的に表わそうとしたものと見られる。

中央銀行は誰のために金融を緩和すべきなのか

私たちが賢明に応酬する方法は、金持ちのための「金融の緩和」ではなく、庶民のための「金融の緩和」をするために、韓国銀行がどのような役割を果たすべきかを指摘することだ。 市中銀行から金を借りられず、第2金融圏の高金利融資に依存する庶民を韓国銀行がどのようにして助けられるのかを話さなければならない。 いつまで芸能人を使ったTVの中の融資情報に庶民の生計を依託しなければならないというのか? 中小企業に対する融資は生産的で、高金利に収奪されている300万の限界債務者に対する支援は非生産的だという主張は、経済的に間違っている。 20〜30%の高金利の中では、どんな優良企業でもすぐに限界状況に追い込まれるほかはないためだ。

核心的な争点は、中央銀行の発券力を誰が独占し、誰のためにこの発券力を使うのかだ。 前に言及したように、中央銀行が発行した貨幣は中央銀行が買いとった資産に基づいている。 そしてその資産はその貨幣共同体の構成員の経済力と生産力を基礎としている。 したがって今、私たちが見ている中央銀行のものすごい発券力は、実は私たちすべてが将来作り出す社会経済的な豊かさに頼っている。

貨幣主権はその共同体のすべての構成員から出てくる。 しかし現実は、貨幣への接近権は顕著に不公平で、階級別にも差別的だ。 金融危機が起きれば大型銀行と大企業を救済するための「大きすぎてつぶせない(too big to fail)」という論理がまるで避けられないものであるかのように広く知られているが、 300万の限界債務者につけられた「モラルハザード」というレッテルを剥がすのは並大抵ではなく難しい。 貨幣の配分の規則をどちらか一方が掌握しているためだ。 数年間続く世界的な量的緩和にもかかわらず、不平等がさらに深化している現状況は、 貨幣権力がいかに不公平に傾いているかを示す。 今やわれわれは、お金をどう配分するのが正しいのか、その規則を新しく作るべき段階に達した。 私たちが量的緩和論争から得るべき教訓はまさにこれだ。

では、その新しい規則にはどのようなものがあるのだろうか?(続く)

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2016-05-07 13:40:47 / Last modified on 2016-05-07 13:40:50 Copyright: Default

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