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ぽっかりと空いた非正規労働者の胸

[インタビュー]韓国住宅金融公社債権取り立て契約職イ・ジェソク氏

オ・ドヨプ(作家)/ 2008年06月26日17時33分

イ・ジェソク氏はいつもと同じように白いワイシャツを着て会社に出勤した。 金融機関だけで13年働いているベテランだ。

▲韓国住宅金融公社で契約職で働いてきたイ・ジェソク氏

6月3日だった。経済を生かすという新政府の樹立からちょうど百日目の日だっ た。いつものとおり、イ・ジェソク氏はコンピュータを立ち上げ、会社のコン ピュータ・ネットワークに接続した。『契約人材運用』副社長名の文書が上がっ てきている。イ・ジェソク氏の顔が明るくなった。

去年の6月『公共部門非正規職総合対策』が作られた。非正規職職員を正規職や 無期契約職に転換せよという指針だ。

イ・ジェソク氏は韓国住宅金融公社で3年間非正規職として働いている。この指 令に従えば、イ・ジェソク氏は今年の7月には正規職か無期契約職にならなけれ ばならない。11か月ずつ契約を延長する不安な人生を終わらせられる。

韓国住宅金融公社光州支社で働いていたイ・ジェソク氏は、3月に益山センター に異動するよう提案された。ずっと光州で働いてきたイ・ジェソク氏は対立した。

小学校に入学したばかりの息子を転校をさせるのも負担だった。妻の職場が光 州で、離れて暮せる状態でもなかった。妻にもう職場をやめろとも言えなかっ た。共稼ぎでも暮らしはギリギリな状態ではないか。その上、11か月ごとに契 約を延長しなければならないイ・ジェソク氏の境遇に、妻の収入は無視できな かった。

チーム長は心配せずに益山に転勤するよういった。7月になれば『公共部門非正 規職総合対策』によりこれ以上契約延長という不安に苦しむことがないといっ た。本社でも契約職職員を無期契約職に転換するという指針を何度も明らかに していたところだ。

▲イ・ジェソク氏は韓国住宅金融公社で3年間非正規職で仕事をしている。

イ・ジェソク氏は決心をした。家を売って益山に移った。妻に職場を止めろと いった。今年の7月から無期契約職になれば、安定した職場で働けるので、家の 経済は心配しないとはっきり言った。学校に入ったばかりの息子も転校させた。

益山に転出し、会社と3か月の短期契約をした。無期契約転換を前にして6月末 に合わせ、契約期間を設定したのだ。会社はこれまでの11か月の契約の代わり に7月の無期契約職政策施行に合わせ、2か月から6か月の間の短期契約を結んで いた。イ・ジェソク氏だけでなく、ほとんどが2年以上働いていた契約職員たち のほとんどが7月を待ちわびていた。

6月3日、会社のコンピュータ・ネットワークに上がってきた『契約人材運営』 という文書の題名を見て、当然無期契約職に変更するという指針だとイ・ジェ ソク氏は考えた。いや信じていた。

マウスで文書をクリックした。ところがどういうことか。韓国住宅金融公社の 債権取り立てを担当する契約職人材をすべて契約終了して、新しい人材で補充 するというではないか。

突然空が真っ暗になった。目の前が何も見えなかった。妻は職場を止め、家も 益山に移ったのに、今どこへ行けというのか。どう暮らせという話なのか。そ れも他の仕事場を調べる余裕も与えずに出て行けと言うのだ。あきれた。

その日の夜に退勤したイ・ジェソク氏はとても妻に今月末で契約解約されて、 失業者になるとは言えなかった。

「あなた、職場に通わないで暮らすのにももう慣れたわ。」

妻がテンジャンチゲを食卓に上げながら話をした。小学生の息子と五才になる 娘が食卓に駆け付けて、さじを持った。

「お父さん怒ってるの」。

娘が何の話もせずご飯を食べるだけのお父さんに尋ねた。

娘の声にイ・ジェソク氏はぽろぽろと涙を流してしまった。イ・ジェソク氏は 娘に何も言えない恥ずかしいお父さんになってしまった。使い捨ての非正規職。

▲6月25日韓国住宅金融公社債権取り立てをする非正規職労働者がソウル本社前に集まった。彼らは赤い土台に白い穴が描かれたゼッケンをつけている。

7月には非正規職法が施行されてから一年になる。イーランド・ニューコア労働 者たちが非正規職法で追い出されてからも一年になる。非正規労働者を街頭に 追い出す『非正規職法』が拡大施行される7月を控えて、昨年よりさらに多くの 非正規労働者が通りに追い出されている。声もなく中小規模事業場まで非正規 職法の犠牲になっている。

イ・ジェソク氏は多くの非正規職労働者の1人に過ぎない。イ・ジェソク氏の涙 は非正規職労働者が働く事業場あちこちで梅雨のようにあふれているだろう。

まさかと思った『非正規職保護法』も『非正規職涙法』になった。

本当に非正規職を保護するために作ったとすれば、公共機関が率先して模範を 見せるべきだ。ところが経済大統領になって100日がたち、模範どころか公共機 関が率先して法を悪用をしようとしている。

「新政府の樹立で公共部門改革、公共部門統廃合を言うでしょう。この刃が本 当に保護すべき非正規職を解雇する形で進んでいます。構造調整が必要なとこ ろで改革が起きず、最も弱く保護されるべき非正規職を犠牲にするとは話にな りません。それも公共部門が先頭に立って法を悪用するのですからくやしい。」

韓国住宅金融公社で債権取り立ての仕事をする契約職職員は50人だ。このうち、 6月末に追い出される人は16人だ。あとは契約満了日になれば自動解約になり、 11月には50人全員が通りに追い出される。

債権取り立て業務が消えるのではない。契約職員が消えるわけでもない。無期 契約職の転換対象が追い出される代りに、6か月以内の短期契約職社員で新しく 補充するということだ。

李明博政権になって公共部門改革を騒ぎ、韓国住宅金融公社は無期契約職や正 規職転換を前にして非正規職を追い出している。その場に短期契約職を新規採 用し、李明博政権の政策に呼応するようにしているのだ。

韓国住宅金融公社非正規職労働者は誰も解約という個別通知を受けなかった。 6月3日、コンピュータ・ネットワークに書き込まれた2枚の文書が全て。そこに は対象者の名前もない。基準もない。無条件にみんな出て行けという言葉しか ない。それも他の仕事場をあたる最低の余裕も与えず、通りに出て行けという のだから非正規職労働者たちは頭にきている。

携帯電話のメール一つで解雇したということは聞いたが、会社のコンピュータ・ ネットワークの文書一つで解雇だなんてひどい。

なぜ出て行かなければならないのか。嘆願書も書いてみたが会社は黙々無返答 だ。どんな釈明もない。弁解一言もない。

6月25日韓国住宅金融公社債権取り立ての仕事をする非正規職労働者がソウルの 本社前に集まった。彼らは赤い土台に白い穴が描かれたゼッケンをつけている。 ぽっかりと空いた非正規労働者の胸を見せている。

イ・ジェソクの胸をのぞいて見れば本当にぽっかりとあいている。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳)に従います。


Created byStaff. Created on 2008-07-03 22:17:54 / Last modified on 2008-07-03 22:17:55 Copyright: Default

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