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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『自公政権とは何か−「連立」にみる強さの正体』
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毎木曜掲載・第410回(2025/11/6)

連立が崩壊した今だからこそ価値を持つ1冊

『自公政権とは何か−「連立」にみる強さの正体』(中北浩爾・著、ちくま新書、本体1,000円、2019年5月)評者:黒鉄好

 日本社会を驚かせた公明党の連立離脱から1か月が経つ。本書は安倍政権末期に書かれたものだが、当時、今日のこの事態を予想できた日本人はいなかったのではないか。自公連立政権がこのまま半永久的に続くのではないかと思われていた当時のムードそのままに、本書は自公政権の「強さ」の秘密に迫っている。

 中北氏によれば、自公両党の選挙協力が始まった初期、公明党は自民党候補者の後援会名簿の提供を求め、多くの自民党候補が応じたという。政治家にとって「命の次に大切」だと言われる後援会の名簿を手に、公明党員、創価学会員の多くが自民党候補への投票を呼びかける一方、自民党候補には「比例は公明」との訴えを必ず行わせるという約束の下に連携を深めていった。

 自公の選挙協力が、自民党の議席数を増やす上でどの程度貢献しているのか。中北氏は、公明党支持者の6〜8割が小選挙区で自民党候補に投票していると想定し、その効果を「3分の1から約半数」と見積もっている。驚くべき効果である。高市早苗首相の「後見人」として振る舞い、自公連立崩壊の原因とされる麻生太郎議員のように、公明党の推薦を断っても小選挙区で独力で勝てる候補者が多くないというのは、政界通の一致した見方だ。

 高市政権で、自民党は維新の会との連立を選んだ。いわゆる保守層の中には、保守政党同士が連携することで議席増加の相乗効果が見込まれる今こそ解散総選挙をやるべきとの声もあるが、それほど事態は単純ではないことが本書からわかる。日本維新の会が自民党と「票の取引」をできるのは大阪だけだが、公明党は北海道から沖縄まで300小選挙区すべてで自民党候補に数万票を上乗せしてきた。仮に、公明党による上乗せ分が1小選挙区1万票だとすると、300小選挙区では300万票。2025年の参院選比例区における日本共産党の得票数(286万票)に匹敵する。公明党の底力は、この票数を300小選挙区で「満遍なく」出せるところにある。参政党は2025参院選比例区で742万票と公明党を上回る票を得たが、地域ごとの票の出方に偏りが大きいと、公明党ほどの効果は持たないのである。

 中北氏は、自公政権と民主党政権(民主・社民・国民新党連立)を比較し、連立を組む政党間における政策面での距離の近さと政権安定度は必ずしも一致しないと指摘する。基本政策が異なる政党同士が妥協可能な範囲で政権を共にするという「連立政権先進地域」欧州の実例を見れば当然すぎる指摘だが、野党が選挙協力しただけで「立憲共産党」などとバッシングされる日本では、連立政権の本質はまだまだ理解されているとはいえない。

 四半世紀にわたって「下駄の雪」として自民党を下支えしてきた公明党が、自公協力の26年間を総括すべきであることは論を待たない。その一方で、政界全体の急速な右傾化が進む中、連立のくびきから解き放たれた公明党は、右から左へポジション移動ができる希有な存在でもある。自民党の補完勢力になりたい政党は掃いて捨てるほどいるのだ。「(自公連立は)1回休み」などと別れた相手への未練を口にするのではなく、反自民票の新たな受け皿として、平和と脱原発の党として「原点回帰」してはどうか。自公協力の過去は消せないとしても、新たな党再建の道筋はそこから必ず見えてくると私は思う。


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