本文の先頭へ
アリの一言:拉致被害者家族会の学校講演は行うべきではない
Home 検索

 

 

 15日のNHKニュースによれば、拉致被害者家族会(以下、家族会)代表の横田拓也氏は同日、東京都内の中学校で「拉致問題」について講演しました。

 また、同じくNHKニュースによれば、拉致被害者の蓮池薫氏も同日、新潟県内の高校で講演しました。

 

 横田氏は生徒らに「取り戻せていないのは腹立たしく悔しい」「ぜひわがことに置きかえて考えてほしい」と訴えたといいます(写真)。

 

 家族会の学校講演はこれまでも行われてきているのかもしれませんが、私は初めて知りました。重大な懸念を抱かずにはいられません。家族会による学校講演は行うべきではありません。その理由は以下の通りです。

 

 第1に、朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)、在日韓国・朝鮮人への差別・偏見を助長する危険性があるからです。

 

 拉致問題が複雑な政治問題であることは言うまでもありません。加害者の共和国の罪・責任が問われるのは当然ですが、同時に、問題が長引いている背景には、自民党政権が拉致問題を政治利用してきていることがあります。

 

「いままで拉致問題は、これでもかというほど政治的に利用されてきた。その典型例は、実は安倍(晋三)首相によるものなのである。まず、北朝鮮を悪として偏狭なナショナリズムを盛り上げた。そして右翼的な思考を持つ人々から支持を得てきた」(蓮池透・元家族会事務局長著『拉致被害者たちを見殺しにした冷血な面々』講談社2015年)

 

 家族会による学校講演でこうした政治的背景が語られることはないでしょう。拉致は許せないことを情感に訴える話になるのは必至です。それによって生徒らの記憶に残るのは「卑劣な北朝鮮」という共和国への憎悪ではないでしょうか。

 

 しかも重大なのは、その共和国への憎悪が、共和国政府とは無関係な在日韓国・朝鮮人に対する憎悪・差別に容易に拡散する危険性があることです。同じ学校や地域に民族名で生活している在日韓国・朝鮮人がいれば、また朝鮮学校があれば最悪のケースが危惧されます。

 

 第2に、共和国による拉致事件を語る(学ぶ)場合は、同時に日本が行った歴史的な拉致事件、すなわち、強制連行(「徴用工」)や日本軍「慰安婦」(戦時性奴隷)にも言及し学ばなければなりませんが、拉致家族の講演にそれを望むのは到底無理です。

 

 拉致が重大な人権侵害で許されないことは言うまでもありませんが、日本もそれをやってきた、しかも国家ぐるみで大々的にやったことは歴史的事実です。さらに日本政府は今に至るもその拉致について法的・政治的責任を認めて謝罪することすら行っていません。

 

 共和国の拉致に対する批判・糾弾は、日本が犯した拉致の事実認定・謝罪・反省と同時に行われなければなりません。

 

 後者を捨象(隠ぺい)して前者だけ声高に主張すること(その典型が安倍晋三元首相)は、侵略戦争・植民地支配の加害責任を棚上げして戦争被害だけを訴えることと同根であり、問題の根本的解決に逆行するものと言わねばなりません。

 

 


Created by sasaki. Last modified on 2025-10-17 06:59:31 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について