

〔レイバーネット国際部・I〕
7月21日投稿した「その1」からかなり間があきましたが「その2」です。
「その8」くらいは続きそうな長さです…
原文はこちら。
https://aquariuseras.substack.com/p/fushikang-xiaofang
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しかし小芳は、仲裁申し立てのなかで自らの解雇の手続きが違法なものであったと主張し
ている。「中華人民共和国労働契約法」の第4条では「事業所の規則及び制度は、職工代
表者大会又は全従業員代表会議において討議され、提案及び意見を提出し、労働組合又は
従業員代表との平等な協議を経て決定されなければならない。使用者は、従業員の重大な
利益に直接影響を与える規則及び重要な決定について、公表し、又は従業員に通知しなけ
ればならない」と規定している。しかし小芳によると、フォックスコン側が証拠として提
出した「全従業員向け説明研修会出席簿」(就業規則の書かれた「従業員ハンドブック」
を使って受講する研修の出席簿)に記載された小芳の署名は偽造であり、小芳自身は「従
業員ハンドブック」を見たこともないと否定した。その後、裁判においてフォックスコン
は、「社内のイントラネットで同情報は公開されていた」と証言したが、小芳が就業規則
を知らされていた証明にはならなかった。
より基本的な手続き上の問題、すなわち「従業員ハンドブック」が民主的な手続きを経て
制定されたのかどうかについて、郝正新弁護士は次のように説明する。「裁判所は多くの
場合、形式的な審査のみを行い、実質的な審査は行いません。印鑑、記録、そして『文書
』さえあれば、これらの手続きが単なる形だけのものなのか、労働者が本当に参加してい
るのかどうかは問題にしません。」
郝正新によると「実際には、権利を守るために仲裁機関に訴える場合でも、労働組合や税
務当局に訴える場合でも、多くの人は『従業員ハンドブック』に定められた規定に従って
休暇を申請しない限り、欠勤とみなされます。この考え方の根底にあるのは、『従業員が
職場にいるのは勤務しているときだけ』というものです」。さらに彼女は「しかし、憲法
の原則によれば、従業員には包括的な発展の権利があります。企業は、これを付加的な福
利厚生や優遇措置として扱うのではなく、従業員に包括的な発展の権利と条件を提供すべ
きではないでしょうか」と語る。
◎パワハラへの対応
小芳の動画アカウントは初公判の前日に開設された。
彼女は、権利を守るために、ライブ中継や動画編集のセミナーに顔を出さざるを得なかっ
たと述べている。解雇後も、彼女は消極的に待つよりも、自ら法的手段に加え、積極的に
社会保障や積立金の回収、労働仲裁機関への申告、そしてインターネットへの記事投稿な
どを行った。
インターネットで権利を訴える取り組みにおける最初の難関は、インターネットプラット
フォームの審査である。2024年2月、小芳がWeibo(@大口吃面2018)に投稿した10件の記
事は短期間で削除され、残りは5件となった。小紅書〔中国国内のミニブログサービス〕
にアカウントを開設した初日には、麺類を模して作ったアバターまでもが問題ありと通報
されてしまった。小芳は事件について世間に訴える動画を撮影し、その中で「皆さん、私
と女性労働者に注目してください。女性労働者は声を上げ、自らの利益のために闘う必要
があります」と静かに訴えた。14分間の動画は現在10万回以上再生されている。しかし、
最初のライブ配信はわずか30分で通報され、配信は強制終了された。
小芳は自身のケースを訴えるだけでなく、工場の現場で働く人々の経験や工場の経営手法
についても語っている。小芳は今年6月6日の夜に「職制はどのように労働者に『パワハラ
』するのか」という動画を公開した。その日、仕事が終わるとすぐに友玲の健康診断に付
き添って地域の健康サービスセンターへ行った。その夜、二人は「職制はいかに労働者に
対して『パワハラ』をするのか」について語り合い、このとき語り合った二人の経験をま
とめた「パワハラ対処指南」が生まれました〔パワハラの原文は「穿小鞋」。直訳は「サ
イズの小さい靴を履かせる」〕。
「サイズの小さい靴を履かせる」とは、中国語で陰険な方法で他人にプレッシャーをかけ
たり、困らせたりすること。工場では、これは非常に明確なシグナルであり、管理者に「
狙われている」ということを示す。直接解雇が言い渡されることはないが、非公式にさま
ざまな組織的な抑圧に直面する可能性がある。隔離、異動、取り囲まれての叱責、夜勤に
回される、残業の取り消し〔手取りが減る〕、警告、「重大・軽微な過失チェックシート
」への署名、「C」評価、家族への通知、心理評価などだ。これらの手段は手続き上は合
法であり、実行は計画的であり、圧力をかけ、従業員に自発的に退職させることを目的と
している。強いプレッシャーのもと、労働者が「従業員規則」に誤って違反した場合、雇
用関係を「合理的」に解消することができる〔違法解雇にならない〕。これらの手法はい
ずれも、工場が金銭的賠償を回避できるものであり、不当解雇にはならない。これは、従
業員を退職させる最も低コストで、違法性を立証することが最も困難な方法といえる。
二人は、この行き詰まりを打開しようと話し合った。当時、工場側から「パワハラ」され
ていたからだ。5月、友玲が3ヶ月前に同僚から平手打ちされた事件を会社は「互いに殴り
合った」と断定し、友玲は「重罰処分通知」に同意する旨の署名を求められた。しかし友
玲は署名を拒否し、警察に通報した。その週末に友玲に新たな懲戒処分が通知された。そ
こには「作業帽の着用義務違反」と書かれていた。退勤前にDingTalk〔アリババが開発し
たメッセージ・コミュニケーションアプリで業務管理にも使われている〕のメッセージが
届き、「来週月曜日は夜勤」と通知がきた。7年近く前に友玲が夜勤中に高血圧で倒れて
以来、会社はずっと彼女を夜勤シフトから外してきた。彼女は「夜勤は推奨されない」ま
たは「夜勤は避けるべき」と書かれた医師の診断書が至急必要になった。小芳が地域の健
康センターに駆けつけたのは夜9時を回っていた。一晩中何も食べていなかった友玲は、
胸部治療センターの救急室で弱々しく横たわり、酸素吸入とボトルの圧力で呼吸していた
。血圧は170を超えていた。小芳は、かつて自分が労働組合にかけこんで権利を主張した
日々を思い出した。あの時も胸が痛くなり、「生気のない」状態で、1日にやっと饅頭〔
マントウ:中国式蒸しパン〕一つしか食べられなかったのだ。厳しい運命は同じような境
遇の人の上に降りかかる。
小芳は友玲を「お姉さん」と呼んでいた。友玲は河南省の田舎出身で、工場で勤務して25
年になる。小芳より15歳年上。長身で、北方の人らしい丸くて広い顎をしている。二人は
かつてフォックスコンの従業員で、何年も前に民間劇団の活動で知り合った。友玲は過去
にも権利のためにたたかってきた。 2018年、「パワハラ」に直面した友玲は、労働組合
を通した権利擁護の取り組み、社員食堂での不当な扱いを訴える活動、フォックスコンを
解雇されたときに自作のチラシをまいて法定以上の解雇補償金をかちとったことなどだ。
工場を解雇された後、会社が法定住宅積立金を過少にしか積み立ててこなかった問題を取
り上げ、30人余りのフォックスコンの元同僚らといっしょに過少部分の支払いをかちとっ
た。これは他の会社の工場にも波紋を呼び、労働者たちも彼女に倣って取り組みをはじめ
た。小芳が困難に直面した時、最初に助けを求めたのも友玲だった。この1年の間、二人
は権利のために闘う中で、より一層親密になった。
病室のテーブルの上に、小さな貝殻の入った袋が乱雑に置かれていた。それは小芳が工場
を辞め、比較的安定した仕事――ベビーシッターの仕事――に就いて初めて給料を受け取
った夜に買ったものだった。一つは自分、もう一つは友玲へのプレゼントだ。友玲の袋は
〔縁起の良い〕赤色で、小芳は彼女の勝利を祈った。しかし、心の奥底では、友玲がすぐ
に工場に「遺棄」されるのではないかと不安だった。「いつも同じ手順、同じ方法なのよ
」と小芳は苦笑した。
友玲は今年42歳になり、あと8年で労働者としての定年を迎える〔中国では女性は50歳(
管理職55歳)、男性60歳(管理職65歳)が定年だったが24年9月に法改正され、25年から
15年かけて段階的に女性55歳(管理職58歳)、男性63歳に引き上げる〕。なので、以前ほ
ど過激な行動はせず、何とかバランスを取り、仕事を維持したいと願っている。工場で募
集があれば応じ、需要がなくなればそれに従う。小芳もこのような時期を経験したことが
ある。しかし、今の小芳はこう考えている。「時代は変わり、昔のやり方はもう通用しな
い」。「今日では、法的手段を用いても権利を守れないケースが多々ある」。小芳自身が
その一例だ。小芳の観察によると、近年、フォーチュン500企業〔アメリカの経済誌『フ
ォーチュン(Fortune)』が毎年発表する、全米または全世界の企業の売上高トップ500社
〕を相手に仲裁や訴訟で勝利した労働者の数は減少傾向にある。世論では「権利擁護」と
いう言葉を口にするだけで、様々な方面からの厳しい批判や警戒を受ける。労働者が無償
の法的支援を申請するための条件はますます厳しくなっている。例えば深圳では、6ヶ月
間の一人当たり可処分所得が3205元未満、または一人当たり総資産が2万元未満という条
件がある。
夜の10時を回り、友玲は念願の診断書を受け取った。外に出ようとした時、スマホから
DingTalkで診断書を送ることに集中していたため、あわや猛スピードで走ってきた電気自
動車に轢かれそうになり、小芳が友玲をかばった形になった。友玲は轢かれそうになった
ことにも気が付かず、携帯電話の光で顔を青白く照らされながら、何人かの職制に電話を
かけたが、誰もつながらなかった。青白く照らされた友玲の顔の笑みは冷たくなった。「
医者に診察にいくように」という会社の指示によって、週末に入っていた休日出勤がキャ
ンセルされたからだ〔手取りが減る〕。
翌朝6月7日、友玲は工場を訪れ、「従業員ケアセンター」の管理職に診断書を渡し、さら
にキャンセルされた休日出勤を元に戻すよう要請した。すると管理職は友玲が職場の秩序
を乱したと叱責し、さらに警察まで呼んだ。警察は管轄外だとしながらも、友玲に対して
上司の指示に従って週末は休日出勤せずに休暇を取るよう促した。DingTalkからは友玲の
夜勤勤務が無事にキャンセルできたという通知がきた。
「残業キャンセル」は、工場の機械化された労働に耐え、おカネのために働く労働者にと
って、最も対抗が難しい攻撃だ。
その夜、星が散りばめられた夜空の青い背景の前に座っていたのは友玲だった。彼女はこ
う言った。「皆さん、こんにちは。明日はこの中継で、この25年間の仕事と人生について
お話ししたいと思います…」
(つづく)
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Last modified on 2025-09-11 12:20:47
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