中国：フェミニスト・ファイブの弾圧から10年（その１）

〔レイバーネット国際部・Ｉ〕

2015年の国際女性デーの前日の3月7日、中国でアクティブに活動するフェミニストらが多
数拘束され、中心メンバーとみられた5人が37日間も拘束されるという事件がありました
（保釈後も大変だった）。

逮捕された5人にちなんで「フェミニスト・ファイブ」（女権五姉妹）事件と呼ばれまし
た。その5人のうちの一人、李麦子さんがそれから10年を振り返る文章をウェブメディア
「低音～時代の声なき声をVoice the voiceless」に寄せています。

ちょっと遅くなりますが、何回かに分けて紹介させてください。次回の「その２」では、
弾圧された筆者がこの10年のあいだに「社畜」として働いてきたエピソードが登場します。

原文と写真はリンク先の原文をご覧ください。

「低音～時代の声なき声をVoice the voiceless」より
https://diyin.org/article/2025/03/li-maizi-after-feminist-five-arrest-2015/

この事件や中国のフェミニズムについては『フェミニスト・ファイブ：中国フェミニズム
のはじまり』（レタ・ホング・フィンチャー著、宮﨑真紀訳、左右社、2024年12月）がお
勧めです。

＝＝＝＝（以下、訳文）＝＝＝＝＝＝＝

◆李麦子：「フェミニスト・ファイブ」から10年の私の道のり（その１）
2025年3月7日

【編集者注】2015年の国際女性デーの前夜、王曼、韋婷婷、鄭楚然、李婷婷（李麦子）、
武嶸嶸の5人の中国フェミニストのアクティビストが「騒動挑発罪」容疑で警察に逮捕さ
れた。彼女たちは3月8日の国際女性デーにあわせてバス内での痴漢行為に反対するキャン
ペーンを開始する予定だった。彼女たちは後に「フェミニスト・ファイブ」と呼ばれるこ
とになった。

この逮捕は国際社会から広範囲にわたる批判と非難を招いた。当時の米国務長官ヒラリー
・クリントンは4月7日、ソーシャルメディアに「中国は女性活動家の逮捕をやめなければ
ならない。これは許されないことだ」と書いた。1カ月後、中国政府はフェミニスト・フ
ァイブを釈放した。

当時の人々は自由を取り戻したことに歓喜し、市民活動が活発化すると期待していた。し
かしこれが中国の市民社会に深刻な打撃を与える前兆だったとは予想していなかった。

「フェミニスト・ファイブ」事件の10周年に、「低音」は李麦子が書いた過去10年間の彼
女の運命の変化を述べた記事を掲載する。

写真：保釈後まもなくの李麦子（本人提供）

＝＝＝＝（以下、本文）＝＝＝＝

映画『好東西』〔英語タイトル：Her Story〕が公開される数日前に映画館に行って映画
を観た。エンディングを見たとき、思わず涙した。外国に住む多くの活動家にとって、中
国の国内で進歩が見られることは喜ばしいことだと思う。しかし、私にとってこれらのこ
とは次第に重要ではなくなってきている。私の肉体は中国を離れており、オンラインの世
界でも国内との連絡を遮断されているからだ。

小紅書〔Instagramに似た中国国内最大のソーシャル・コマース・プラットフォームの一
つ〕にアクセスして、フェミニストコミュニティが計画した『好東西』のグループ上映が
通報により中止されたことを知ったとき、歴史は何度も繰り返されているように感じた。
プロテスターは既存の活動空間を維持しようと絶えず努力しているが、一方でフェミニズ
ム運動の初めに第一線で格闘したアクティビストの中には社会的に抹殺された者もいる。

大兎〔フェミニスト・ファイブの一人〕のウィーチャットとウェイボー〔「微信」と「微
博」。ともに中国国内最大のチャットアプリとミニブログアプリ〕のアカウントがブロッ
クされ、続いて呂頻（フェミニズムアクティビスト）、女権之声（フェミニズムを提唱す
るウェブアカウント）、肖美麗（フェミニズムアクティビスト）のアカウントも削除され
た。私のウェイボーのアカウントはもう何年もまえに削除され、ウェイボーでの情報発信
は放棄している。というのもSina Weibo〔新浪微博〕のCEOが自ら介入し、私と梁小門（
フェミニスト・アクティビスト）がジェンダー的対立や憎悪を煽っている証拠とするスク
ショを公開し、私たちのアカウントを削除したからだ。

きっかけは2021年、成都の火鍋レストランで、フェミニストの仲間である肖美麗と大兎が
隣のテーブルに座っていた男の喫煙を注意したところ、罵倒され、火鍋の油をかけられた
事件だった。その後、警察は男性に1000元の和解金と謝罪することを求めた。事態は良い
方向に進んでいるように見えた。だれもが成都市は喫煙禁止を推奨するだろうと思ってい
たが、事態は急激に悪化した。スタンドアップコメディアンの楊笠が被害者の肖美麗のコ
メントを自分のアカウントに転載したところ、２人が世論を扇動したとみなされ、彼女ら
のコメントはそのアカウントとともに新浪微博のプラットフォームから削除された。肖美
麗を支持したため、私と「フェミニスト・ファイブ」の一人の韋婷婷、フェミニズム活動
の組織者である梁小門に対する罵倒や批判が一週間続いたのちに、すべてのアカウントが
削除されてしまった。

私がインターネットでの暴力にさらされていた時、毎朝、罵倒コメントの集中砲火のなか
で目を覚ましていたことを思いだす。私のパートナーはこれらの罵倒コメントに憤慨して
、罵倒コメントに私が反論することに加勢するために、フェミニズムに関する本を何冊も
読んで理論武装した。このようにして暗く混沌とした一週間が過ぎ、私のパートナーはあ
ちこちにぶつかりながらもフェミニストに変貌した。

◆四年間の社畜生活

帰国して市民生活にもどるまでの2017年から2018年にかけて、私はイギリスで人権を学ん
だ。そして現地でVaChinaというフェミニストグループを立ち上げた。この団体は現在も
他のメンバーによって運営されている。 2018年11月、私は英国での学業を終え、決意を
固めて北京に戻った。当時の私の考えは単純だった。中国で盛り上がる#MeToo運動を目の
当たりにし、歴史の証人になることもできず、単なる一傍観者になることは嫌だった。

写真：イギリス留学中の李麦子（本人提供）

中国に帰国して最初に直面した問題は「自分に何ができるの？」ということだった。2018
年末の時点では、フェミニズムやLGBTの活動家向けの仕事はほとんどなくなっていた。私
は2つのNGOのスタッフに応募したが、どちらも不採用。その後、私は呂頻に相談し、一般
企業での就職を勧められた。私もそれしかないと思った。一人のアクティビストとして、
自分の生活と仕事が比較的有意義なものであることを望み、教育産業に目を向けた。友人
の紹介もあり留学支援の企業に無事入社し、コンサルティングの仕事に就いた。この仕事
は営業業務が中心で、自分にとっては新たな挑戦に満ちた仕事だった。

営利企業に入社したことで、私は同質空間からの離脱を余儀なくされた。

大学時代は自分でサークルをつくりそこで活動していた。大学を卒業してからは、北京益
仁中心に参加し、フェミニズムとLGBTのアドボカシー活動に従事した。常に強力な仲間た
ちのコミュニティサポート体制に恵まれてきた。それは、私が大学でカミングアウトする
のを支え、自分に自信を持たせてくれた。卒業から3年後には、若い女性たちと一緒にフ
ェミニズムに関するアドボカシーアクションを行った。「男子トイレを占拠せよ」や「傷
ついた花嫁」などのパフォーマンス・アートを通じて、私はメディアの寵児となった。

もちろんこれらは2015年の「フェミニスト・ファイブ」弾圧事件によって突然終わりを迎
えた。軌を一にして、国内メディアからの取材もなくなった。最初はまだ『新京報』の記
者から「あなたのことを報道できなくなって」という連絡も来ていたが、次第に連絡は減
っていった。その頃はまだ、ある出版社から出版に関する連絡もあった。おそらくこれら
の物語が新奇に映り、出版する価値があると考えたのだろうが、結局はうやむやになって
しまった。私は国内でこれ以上の展望は望めないことを理解した。

（つづく）