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LNJ Logo 米占領下の沖縄に生きる若者たちの怒りと抵抗〜映画『宝島』
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堀切さとみ

 圧巻の190分だった。心が震えてどうしようもない。250億円の制作費の大半を電通が出したという。電通の中にも抵抗することの価値を知る人がいるのだろうか。

 敗戦から高度経済成長へと浮かれていた本土と違い、米軍統治下に置かれたままの沖縄はうめいていた。なぜ沖縄だけがアメリカによって奪われ続けなくてはならないのか。「本土復帰」を願う島民も多かったが、復帰した瞬間に愕然とする。米軍基地はそのまま、沖縄に居座り続けることになったのだから。

 米軍基地に忍び込んで、食料など物資を奪い、地元住民たちに配る「戦果アギヤー」。ウチナンチュなら誰もが知っているのだろうか? 荒っぽくても心優しき彼らのことを、大っぴらに誇ってもいいはずなのに、この映画を観るまで私は全く知らなかった。

 沖縄戦のことがメディアで知られるようになったのは、1990年代に入ってからだったと思う。集団自決、我が子に手をかけた親。語るには重すぎた。やがて少女暴行事件の当事者が声をあげ、それに太田県知事が呼応し、七万人が集まった県民集会で当時高校生だった仲村清子さんがスピーチした。
 初めて沖縄に行ったのは1996年だ。糸満市のホテルを抜け出し、場末のスナックで、地位協定は酷いと思いませんかと吹っ掛けた。何を今さらという感じで、ママさんは素っ気なかった。マスコミが報じる明るさとは違う世界は、至る所に転がっていた。

 四人の戦果アギヤーの若者たちを軸に、映画は進む。戦災孤児でもある彼らを演じた、役者たちの表現力も素晴らしかった。米軍の飛行機が小学校に墜落した時の、広瀬すずの慟哭。ガマに入って卒倒する刑事の妻夫木聡。PTSDが知られるようになった今だからこそ、リアリティーを持って迫ってきた。

 「どうしてそんなにアメリカを嫌うんだ。抑止力としての軍隊は必要だろ?」という人たちもいる。戦前戦中より、沖縄は豊かになったと。
 でも、アギヤーの青年は叫ぶ。戦後民主主義?そんなの本土だけじゃないか。平和のためなら何をされてもいいのかと。

 三上智恵監督のドキュメンタリーなど、沖縄の今を伝える素晴らしい映画はたくさんある。その根っこにある怒りの正体を、この映画はつきつけてくれた。アメリカと本土。二つの「強国」を相手に、沖縄の人たちの感情はマグマのように沸騰していた。
 暴力的なシーンは多いが、戦後のウチナーの若者たちは、人間として生きるための精いっぱいの選択をしていたのだ。
 本土に暮らす私は、そのことを受け止めた。


Created by staff01. Last modified on 2025-10-19 13:17:09 Copyright: Default

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