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パリの窓から : 第五共和政の機能不全と全面封鎖 | ||||||
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第五共和政の機能不全と全面封鎖*9月10日の「全面封鎖」に繰り出した若者たち フランスでは2024年の総選挙で左翼連合、新人民戦線NFPがマクロン大統領の与党陣営と極右陣営を抑えて首位になった。しかし、左翼政府の組閣を大統領が拒み続けたため、保守とマクロン陣営の連立内閣が1年間で3回失墜するという、第五共和政で未曾有の政体危機に陥っている。マクロンは第一期の2017年からネオリベ政策を猛烈に進めて財政赤字が増え続けたため、政府はそれを理由に主に公共サービス(医療、教育など)の支出を削る緊縮政策を強化した。庶民がますます生活難に苦しむ一方、大富豪の資産や大企業の利益は大幅に増えたことが認識されるようになった中、2025年の夏、「9月10日に全面封鎖せよ」という呼びかけがSNSで広まった。 バイルー内閣の失墜と「全面封鎖」運動の勃発*「軍隊ではなくて高校に予算を出せ」と要求する高校生たち 7月初めにバイルー政府は、環境団体、科学者、医師などをはじめ多くの市民が大反対したデュプロン法案を通すために、まず元老院で可決させて国民議会の討議を避ける手口を使い、無理やりに採択した。ネオニコチノイド殺虫剤の再許可、巨大貯水池や高速道路建設の優先化など、環境政策を大幅に後退させるこの法案は、国会サイトで学生が始めた反対署名が短期間で200万人以上を集めたほど、市民の空前の猛反対を引き起こした。ところが、マクロンは直ちにこの法律を発布した。続いてバイルー首相は、現在よりさらに緊縮を強める2026年の予算法案の内容を発表した。財政赤字を理由に、祝日の二日削除、社会保険の自己負担金の引き上げなど、四四〇億ユーロの節約を一般市民のみに課す内容だ。 労組と左翼政党は抗議したが、ヴァカンスシーズンにデモなど社会運動は行なえない。すると、SNS上で「9月10日に全面封鎖せよ」という呼びかけが現われ、たちまち広まった。市民団体や「服従しないフランス(LFI)」など左翼政党も予算案に反対するこの動きを支持し、8月後半からは封鎖を準備しようと、市民による自発的な集会が各地で開かれるようになった。8月末には労組間の話し合いが持たれ、9月18日に予算案反対の統一行動(デモ、スト)を行なうことが決められた。そうした動きを見て、「黄色いベスト」運動のような大規模な社会運動を恐れたのか、バイルーは予算案についての信任投票をすると告知した。 2022年のマクロン再選以来の首相(バイルーは4人目)は、国会で与党陣営が過半数に至らないため、組閣後に慣習的に行われてきた首相の信任投票を行なわず、全ての予算案といくつかの法案は、討議を省いたり打ち切ったりできる反民主的な方法(憲法49条3項の行使)で強行採択されてきた。その度に新人民戦線NFPは不信任決議を提出したが、国民連合RN(極右)は投票せず、またバイルー政府になってからは社会党も交渉で譲歩を取り付けると称して信任を拒まず(しかしほとんど何も獲得できず)、マクロン政権の安泰を許した。 しかし9月8日の投票では議員の3分の1の信任しか得られず、バイルー内閣は失墜した。「全面封鎖」運動の事前の効果と言えるが、マクロンはすかさず翌日、それまで軍大臣だったルコルニュを首相に任命した。マクロン政権の第一期から常に政府官僚を務めてきた側近で、共和党出身の保守政治家の任命は、マクロンに政策を変える意思がないことを表している。 9月10日、ルコルニュの任命をマクロンの侮蔑的な挑発だと感じた大勢の市民が行動を起こした。ロータリー、高速道路、バスの車庫などの封鎖、デモ、集会などに全国で50万人が参加したのに対して、辞任前のルタイヨー内務大臣は8万人もの治安部隊を出動させ、暴力的な弾圧を行なった。市民たちの要求は第一に、超富裕層のみ優遇して庶民の生活を悪化させた(生活難、公共サービスの劣化、雇用難)マクロンの政治に抗議し、不平等な税制を是正せよというものだ。若者たちの要求はさらに、イスラエルへの軍・経済協力の停止、環境政策の実施、反レイシズムとフェミニズム・LGBTなど多岐にわたり、市民の声をもっと反映できる民主主義を求める声も強い(マクロンの罷免・辞任、より民主的な第六共和国憲法への移行)。これら全面的な政治路線の変革を求める市民たちと、自分たちの権力を保持しようと「安定」を求める政治家や主要メディアとの剥離は甚だしい。 貧富の差の増大と市民の怒り*垂れ幕「私たちの命に関わることで節約するな」医療スタッフの怒りは大きい 9月18日の統一行動は「全面封鎖」第二幕と名付けられた。全国で一〇〇万人(CGT労働総同盟発表)がデモや封鎖を行ない、二〇二三年の年金改革反対運動を思わせる大規模な動員になった。10日と同様に、過剰で不当な弾圧にもかかわらず、高校生、大学生など若者、特に若い女性が多く、労組の通常のデモとは異なるダイナミズムをもたらした。 政府とメディアは、財政赤字が巨額だから緊縮政策が必要だと強調し続けるが、左派の経済学者とLFIなどは、財政赤字の増大はとりわけマクロン政権以降、政府が富裕層の免税、大企業への援助金と社会保険分担金の免除などを行なって財政収入が激減したためで、支出が増えたからではないと説明する。支出の削減ではなく歳入を増やすことが先決であり、その方法を提示している。たとえば、国会ですでに2度可決されたが政府に拒まれたズュックマン課税、富裕連帯税の導入やフラット・タックスの廃止によって、富裕層の優遇にまず終止符を打つのだ。フランスの若手経済学者のガブリエル・ズュックマンは、富裕層の中でも0.1%以下の超億万長者はホールディングを作って資産の課税を免れ、一般市民よりずっと課税率が低いことを証明した。課税の不平等を少し是正するために、フランスに関していえば、資産1億ユーロ以上の約1800人の大富豪に資産の2%を課税して歳入を増やすことを提案している。 実際、フランス社会ではここ20年来、貧富の差の拡大と公共サービスの劣化、つまり福祉国家の衰弱が顕著になった。2003〜2023年に超富裕層500人の財産は9,4倍(マクロン政権8年間で2倍以上)に増えた一方で、貧困層は人口の16%に近い1000万人に達している。低所得層の購買力の低下は景気後退と税収の減少をよんでいるから、富裕層と大企業への課税と同時に、ケインズ主義の社会・環境政策を行なうべきだと、NFPや服従しないフランスLFIの政策プログラムには掲げられている。公共医療と教育の再建は緊急の課題だ。公共病院の病床の削減のせいで、2000年にはWHOが世界一と評価したフランスで、救えたはずの1500人もの人が年間、緊急科の廊下で死亡しており、乳児死亡率も大幅に上昇した。また、大規模な住居耐熱化や、必要な製造業の再建も急を要する。 マクロン政権の政治に対する市民の怒りは募っているが、2023年の年金改革反対運動が示したように巨大デモを何度繰り返しても、選挙で与党と極右を敗退させても、空前の数の市民が署名しても、市民の抗議はことごとく無視されてきた。左派以外の民衆も多く参加した異例の「黄色いベスト」運動は、治安部隊による徹底的な弾圧(片目や片手を失うなど重傷を負わされた人々が続出)と、ロータリーでの集会や活動が潰されたことで、発展できなかった。工場労働者の数が激減して労働形態が変わった現在、ゼネストを組織するのは難しい。ロジスティックス部門と接待業、個人事業主、プレカリアートが急増した中で、労組と一般市民、学生、市民団体、政党が協力しあう、多様でしなやかな運動をつくる創造性が求められている。 パレスチナ連帯と社会運動の結合*イタリアほどの規模には至らないがフランスのジェノサイド抗議デモも増えた。イタリア語で「全面封鎖しよう」と書いた垂れ幕も。 そんな中でめざましいのが、イタリアの労組と民衆の運動だ。パレスチナ人のジェノサイドに抗議するためにジェノヴァの港湾労働者は7月、イスラエルに輸出する武器の輸送を阻止した(その前にギリシアの港湾労働者も、その船への積み込みを阻止した)。ジェノヴァの港湾労働者は、地元の人道援助団体と労組と共に、ガザへ向かう市民の人道援助船団を支援する運動を起こした。イスラエルによるガザへの人道援助物資の封鎖を解くために出航した「自由の船」連合(6月に出発したマドリーン号には、グレタ・トゥーンベリやフランスの欧州議会議員リマ・ハサンやが乗り込み、イスラエルに逮捕された。前回コラム100参照)など、人道援助船団は世界各地からの市民が参加する大きな動きとなり、地中海のいくつかの港から約50隻、500人近くの市民を乗せてガザに向かうことになった(グローバル・スムード船団)。 ジェノヴァの港湾労働者の団体CALPは8月末、グローバル・スムード船団がもし攻撃されたら、ヨーロッパ全域の港を封鎖すると告げた。スムード船団の出発後、国連総会でパレスチナ国家を認めない自国政府に反発したイタリアの労組と民衆は9月22日、イタリア全国でゼネストと封鎖と大きなデモを行なった。そこでは「全面封鎖しよう」というフランスと同じスローガンが叫ばれた。そして10月1日と2日、スムード船団44隻が全てイスラエルに捕獲されて乗組員全員が逮捕されたため、10月3日、イタリアでは大規模なゼネストとデモがあちこちの主要都市で行なわれた。ローマ30万人、イタリア全土で100万人から200万人というものすごい規模である。労組と市民、とりわけ若い世代が連携し、協力しあって、記録的に巨大な連帯運動が生まれたと分析されている。口火となったのは、ジェノサイドを黙って見てはいられないという感情だった。 一夜で失墜後に再び組閣されたルコルニュ内閣の茶番劇*「超富裕層のための大統領マクロンはもうたくさん、やめろ」 ガザに向かったグローバル・スムード船団には世界45か国400人以上の市民が参加し、フランス人も40人近く、欧州議会議員は再びリマ・ハサンとエマ・フロー、国会議員4人が乗り込んでいた。彼らがまだイスラエルの刑務所に勾留されていた10月5日の夜、ルコルニュ首相は組閣(大臣十数名だけ)を公表した。大多数がバイルー内閣と同じメンバーで、財政赤字を隠していたル・メール元経済大臣やサルコジ時代の大臣の名前があり、「断絶」など全く期待できない顔ぶれだ。人々が呆れる暇もなく、翌日6日の朝、ルコルニュ首相は辞任を提出し、彼の内閣は第五共和政で最も短い生命を閉じた。ところが、一度受理したマクロンは同日、ルコルニュに2日間で組閣を再び試みるよう要請した。 2日後の10月8日、ルコルニュは組閣できずに、マクロンが48時間後に新たな首相を任命すると発表した。LFIは昨年の8月からすでに、マクロンが選挙結果を認めずに同じ政策を続けようとする限り、国会も政体も機能不全になるから、大統領の辞任あるいは罷免を主張してきた。その後、マクロンへの不満は市民の間に広がり、9月末の世論調査によると73%がマクロンの辞任を求め、彼に対する信頼は14%に下がった。保守オリゾン党のフィリップ元首相なども、マクロンの辞任を求める発言をした。第五共和政では大統領に権力が集中しすぎるため、その圧倒的な権力を握る者を大多数が拒むなら、政体はまともに機能できない。 ところが、メディアではマクロン政権が続くことを前提に、次の政府の首相は誰になるか、どの会派が政府に協力できるかなどがコメントされ、社会党、共産党、緑の党は「左翼」の首相と政府の可能性を期待する発言を続けた。これまでマクロンと政府がいかに国会を無視してきたかを見れば、マクロンが左翼政府を認めるなどありえないことがわかるだろうに、おそらく国会の解散や大統領選を望まず、現状を維持したいのだろう。しかし、それはNFPに投票した有権者を裏切り、生活の劣化や差別に苦しむ人々を意に介さない態度である。 10月10日金曜の朝、LFIの創始者ジャン=リュック・メランションは記者会見を開き、この茶番劇と混乱に終止符をうって政治的に明快な展望を切り開くには、選挙によって国民に意思を問う必要がある、つまり早期の大統領選が必要だと述べた。権力の集中を防げる別の民主的な制度(第六共和国)をつくるためには、現在の憲法が許す唯一の合法的手段は、大統領の辞任か罷免による新たな選挙しかないからだ。 一方、マクロンは同日の10月10日にルコルニュを再び首相に任命し(!)、10月12日日曜の夜、組閣が発表された。以前と同じメンバーを多数含み、目立った改善など見られない予算案を提出するつもりのルコルニュ第二内閣に対して翌日13日、LFIと一部の緑の党、共産党の議員は不信任決議を提出した。社会党は年金改革の撤廃ではなく「一時停止」など、少しでも政府が譲歩するなら不信任を見送るとしているが、医療費の削減、社会保険の自己負担の増額、年金のインフレに合わせた引き上げ凍結など、庶民をさらに痛めつける内容を認めるのは、新人民戦線のプログラムを踏みにじる行為だと言える。 この内閣も遅かれ早かれ、不信任決議によって失墜する可能性が高い。混乱はしばらく続くかもしれないし、マクロンが自分から辞任するとは考えられないので、再び国会を解散して総選挙が行なわれるかもしれない。そうした間にも将来の展望が見えないせいで、経済的にダメージを受ける人々は多いだろうし、公共サービスの劣化や生活難は続く。選挙で与党が国会の過半数を失った2022年以来、とりわけ2024年夏の選挙結果の否認以降、大統領権力の濫用によって政体の機能不全と混乱を招いたマクロンの責任は重い。その責任(辞任)を遂行せずに権力の座に居座り続けるのを許す第五共和政の反民主的な欠陥は、明確に示された。ところが、より民主的な制度を作り直す必要性はほとんど言及されず、自分の利害だけのために行動する政治家たちの茶番劇に加担するメディアの体たらくも、第五共和政の退廃を露呈している。 2025.10.13 飛幡祐規(たかはたゆうき) 参照: Created by staff01. Last modified on 2025-10-14 11:28:01 Copyright: Default | ||||||