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大阪・関西万博:マルタ館の工事を担当したAさんの思い

かわすみかずみ

万博工事費未払い問題の被害者たちは、長い時間苦痛を強いられている。誰も手を挙げなかった、工期が間に合わない万博工事を命がけで終わらせた事業者たちは、自らの事業を継続することも困難な状況だ。被害者が今、何を思い、どのような暮らしをしているのかを聞いた。

マルタ館(写真)の工事を担当したAさんは、20人の従業員を抱える事業主だ。父親が経営する建設会社に中学卒業後に入社。父親と2人で働いてきた。20歳を迎えた頃、建設業界は仕事が減り、一時期Aさんは建設業から離れた。25歳頃に起きた東日本大震災がAさんの運命を変えた。震災で建設需要が多くなり、関西から東北に多くの建設業者が向かった。Aさんは東北で建設の仕事に参加した。多くの人が震災で犠牲になった現場を見た。「僕たちはこういう犠牲のうえに仕事をさせてもらっているんだ」と思い、建設という仕事の重さを感じた。

Aさんの会社では「人を想う心で創る」をモットーとしている。それは、建設の仕事で社会貢献していくというAさんの思いからだ。

万博工事の被害者の多くは、ネットや仕事関係で誹謗中傷を受けている。Aさんもその1人だ。ネットの書き込みなどで「海外企業との取引に手を出した自分が悪いだろう」とか「契約を把握していなかったのは自分の責任ではないか」と書かれた。

一部の取引先は、「Aのところは未払いで被害があってそのうち潰れる」、と手を引いた。20人いた従業員のうち7人が辞めていった。従業員は、会社の負担を減らすために自ら他社に移ったという。他の被害業者でも帝国データバンクに未払いの情報が載ってしまい、仕事がしにくくなったところもあった。

Aさんは、一番最後に着工したマルタ館の工事を担当した。今年1月頃から工事に入り、暖房もなく、強風が吹き抜ける夢洲で24時間寝る間もなく働いた。コンビニのカチカチのおにぎりを職人たちと頬張りながら仕事をしたことを覚えているという。あのとき、あちこちのパビリオンで、同じように昼夜働かされた労働者が沢山いた。「開幕したらみんなで行こな!」「家族に見せたるねん!」と声を掛け合い、励まし合いながら工事を乗り切った。工事が終わったら、きっと誇りに思えるときが来ると信じていた。

元請けのGLイベンツ社を提訴したAさんは、先日第1回口頭弁論を終えた。GL社は「Aさんの会社は工事を完了せず、GLから人員を出して完了させた」と主張しているという。しかしAさんは、工事を完了させたという証拠もあり、GL側が人員を補充したことについて把握していない。Aさんの弁護士によれば、GL社は裁判を引き延ばして逃げ切ろうとしているようだと聞く。いたずらに時間ばかりが過ぎ、苦しい時間が引き延ばされる。

国や大阪府市、万博協会は、「紛争解決窓口」や金融公庫を紹介するだけだ。金融公庫は資金のない企業に金を貸さないことは、被害者自身がよく知っている。これまで被害者自ら金融公庫に出向いて融資を頼んだという話を数多く聞いているが、皆一様に、「貸してもらえなかったんです」と言っている。紛争解決窓口での解決には時間がかかり、その間に倒産する可能性が高い。

問題の根本原因は何か?

Aさんは万博工事の話をブローカーから聞いたと話す。これまでブローカーからの仕事は一切受けず、近寄らないようにしてきたというほど、堅実で真面目な仕事ぶりだった。

Aさんは今回の万博で多数のブローカーがいたことを知っていた。Aさんは紹介してきたブローカーから、着手金800万円を請求されたという。Aさんの下請けにも同じブローカーが800万を請求していたこともあとでわかった。大阪万博でブローカーが多数入ってきた背景には、メガイベントであることに加え、国、万博協会、大阪府市のずさんな管理体制があるとAさんは語る。建設業許可もないのに工事に参加できるほど管理がずさんである上に、外国人労働者は火気厳禁の場所でくわえタバコで工事をしていたと、Aさんは証言する。本来なら万博協会が見回って注意すべきだが、誰ひとり見に来なかった。

報道が伝えなかったもの

被害者たちは早い段階から加害企業であるGLイベンツや中日建設の実名報道を求めてきた。しかし、大手メディアはなかなか実名を出さなかった。そのことに対する被害者の失望は大きい。

特にGLイベンツについての報道について、メディアは慎重だった。 今年7月、被害者らがGLイベンツ大阪支社に行った際、報道陣の質問に答えたある被害業者は、「俺等はGLの名前を出して報道してくれと言っているのに、あんたらはどこも出さないじゃないか!」と言った。筆者も報道の端くれにいる身として、胸が痛んだことを覚えている。

愛知県知事の会見で、記者から「(万博で未払いを起こしている)GL社との契約をアジア大会でこのまま継続するのか?」という問いかけがあった。大村知事は「事実確認する」といい、GL社に連絡。GL社は「未払いはない」と言ったため、契約は継続された。今年6月には愛知県と大阪府が包括連携協定を結び、イベントなどで協力していく考えを示した。大阪府の吉村知事がなぜGLイベンツ社の労働基準法違反に触れられないのか? そこにある闇が、GL社問題を水面下に押し込めている。

万博工事の問題をこのまま終わらせてはいけない

Aさんは、万博工事の問題をこのまま終わらせてはいけないという。Aさんのように命がけで工事を行い、未払いで泣き寝入りした、多くの職人や事業者がいることも大きな理由だ。しかし、それ以上に、Aさんは自分が誇りを持って働いた仕事をこんなかたちで終わらせたくないという思いが大きいのだという。Aさんにとって、万博はまだ始まっていない。テレビで万博の特集をみると辛くなって目を背けてしまう。最近は万博の特集などが映るとチャンネルを変えてしまう自分がいる。万博の工事が終わってから、一度も笑ったことがないと、Aさんは言う。心から笑えたことがないと。一日も早く、心から笑えるようになりたいとAさんは思っている。

本当は、自分はもっと称えられてもいいのではないか?無理だと言われたパビリオン建設を死に物狂いで間に合わせたことがなぜ賞賛されないのか? 吉村知事が「民民の問題」という度に、二度と聞きたくないと思ってしまう。今、パビリオンに詰めかける来場者は、未払いがあったパビリオンのことなど知らない。

Aさんは支払いや従業員への給与に充てるため、自分の車を売り、生活を切り詰めている。自らの役員報酬をカット。電気代を浮かすために、外の涼しい場所で過ごす。万博工事の工程管理や、工事中の安全管理すらせず、電車が止まって会場に足止めされた来場者へのアナウンスもない万博協会の役員は、毎月100万円以上の報酬をもらっている。これが社会の実態だと言うのなら、世の中とは何と不公平なものだろう。


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