大阪関西万博：十三〜夢洲航路の運営業者決まらず

かわすみかずみ

国土交通省や大阪市が万博の来場者輸送と地域活性化を見込んで策定した「淀川河川敷十三エリア魅力向上事業」が進んでいない。事業者や河川事務所などへの聞き取りから、事業全体が停滞していることが分かった。特に十三〜万博会場を結ぶ航路は運営業者の撤退が相次いでいる。夢洲航路について取材した。

今年1月に行われた「第7回淀川河川敷十三エリア魅力向上協議会」を傍聴した。この日は事業者からの提案を聞き、検討する日だった。大阪公立大学教授や阪急グループの職員、大阪府市の担当課が参加し、事業の検討を行なった。傍聴者は事前に注意事項のメモを渡され、発言は一切できないことを告げられた。

十三と夢洲を結ぶ航路の課題として、①鉄道の鉄橋を越えられない、②川から海に出る際に海船に乗り換える必要がある、というものがあった。①については、小型船なら可能だが輸送人数に限界があることや、海に出ると波に耐えられないこと、採算が取れないことがネックとなった。夢洲航路は当時、万博会場まで船で来場者を運ぶことを目的に、万博開幕時に開業することを目指していた。

当初はOneOsakaリバークルーズという会社がこの事業に参加していた。同社に電話で聞いたところ、今年3月に申請を取り下げたという。この業者は今年2月に試験走行を行なった。万博会場の西側の桟橋に接岸しようとしたが、波が強く接岸が難しい。川船だったこともあり、船体を少しこすってしまった。天候基準を厳しくしないと無理だと感じたため撤退したと、このときの船長は語っている。

食い違う計画の進捗状況

大阪港湾局に万博会場の船着き場について聞いた。万博会場には東側と西側に船着き場がある。東側は大阪市が所有する船着き場で、万博協会に貸したものだった。賃貸料は「国の事業なので」免除されているという。西側は万博協会が作ったものだった。国土交通省の淀川河川事務所は、夢洲航路について、「9月20日までに3回試験走行を行い、万博に行くかUSJにするか決める」と答えている。現在はインディクルーズという会社が運営候補者だという。担当者は、4月から探してやっと見つかったと吐露した。

インディクルーズに電話した。同社では昨年9月から申請を行なっていたと社長の垣本勇一氏はいう。川、海両用の小型船舶を2隻造船し、試験走行を行なったが、接岸はできたものの、揺れが激しく乗客を安全に乗下船させる事は困難だと判断した。舞洲から夢洲を通る大型貨物船がたてる波の影響などが原因だった。

今年2月、垣本氏は万博協会に要請を行なっている。①万博期間中、舞洲〜夢洲間の貨物船の速度を落としてほしい、② 台船を並べて臨時的な防波堤を作ってほしい、というものだった。しかし、万博協会はどちらもできないと答えたと、垣本氏はいう。自力で用意した2隻の小型船は一億円余りかかった。垣本氏の見立てでは、小型船で万博会場に来場者を輸送することはできないと感じた。万博協会が最初から「小型船での接岸はできない」と伝えてくれていればと協会側に言うと、「小型船を用意したそちらの責任」と一蹴されたそうだ。

経済同友会とユニバーサルクルーズの不可解なつながり

ユニバーサルクルーズは、現在夢洲とユニバーサルスタジオ、堺旧港などを結んで就航している。中型船で46人乗り、80人乗りなど中型船での輸送を行う。同社の社長·原田篤氏は昨年12月20日、関西経済同友会でレクチャーしていた。関西経済同友会にこのときのレクチャーの内容を尋ねると、「広域観光推進委員会の視察だと思うが、委員会限りのものなので、公開できない」と答えた。

ユニバーサルクルーズは、いわゆるラグジュアリークルーズを中心に展開する企業だ。ホームページをみると、沿革がなく、電話番号も載っていなかった。2019年8月に設立されたことだけが分かった。大阪市などの船舶会社が所属し、水上の安全対策などに尽力してきた大阪水上安全協会に確認すると、1年半前に水上安全協会に加入した新しい業者だと言った。だとすると、関西経済同友会はなぜ、新参の業者を視察する必要があったのか?

昨年12月12日、吉村洋文大阪府知事は関西経済同友会で講演を行っている。同友会によれば、講演のタイトルは「IR開業後のベイエリア〜いよいよ本体工事着工、夢洲2期プランも策定へ〜」というもので、「IRで結びの水都を実現」、「交通アクセスなども大幅向上」、「今後も公民連携で活性化を」、と副題がついていた。吉村知事はこの講演のすぐ後、駐日アメリカ大使と会っている。

夢洲航路の運航業者はすでに決まっていた？

十三夢洲航路について、垣本氏は淀川河川事務所の担当者から運航の相談を受けた当初、 OneOsakaリバークルーズ社と組んで行うつもりだったと言っている。十三から北港を OneOsakaが、北港から夢洲までをインディクルーズが航行する計画だった。だが、不思議なことに今年1月の協議会で配られた資料には、北港ルートは示されていなかった。資料のなかに書かれていたルートはUSJを通るルートで東側の船着き場に接岸するものだった。

万博協会、大阪府市のずさんな計画や金券体質が招いたものは、万博に協力しようと必死に働いた人々の不信感ではなかったか? この問題は氷山の一角に過ぎない。至るところで噴出する可能性がある。