〔レイバーネット国際部・I〕
興味深い記事があったので訳しています。長いので最初の
部分のみ。ゼロコロナ政策に抗議した2022年暮れの「白紙運動」のきっかけの一つになっ
た中国のiPhone工場の紛争にも触れています。最近の具体的な紛争ケースの紹介は未訳。
すいません!スト多発、といっても攻勢的なものではなく防衛的な感じですね。「8時間
以上働かせろ!」の声が上がるメーデー直前の「特色ある社会主義」の状況に、エンゲル
スも草葉の陰から泣いてるでしょう…。
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ポスト・コロナの中国の製造現場で多発するストライキ
経済衰退期の労働者が直面する困難
陳春(労働者研究)
原文
https://theinitium.com/article/20240314-opinion-china-workers-strike-2023
2024年3月14日掲載
2023年、中国のローエンド製造業[低価格・低技術製品]における一連の新たなストライ
キが発生した。2022年に中国政府が実施した厳格なゼロ・コロナ政策により、ローエンド
製造業は海外からの受注の激減とゼロ・コロナ政策による生産の中断という二重の圧力に
さらされた。2023年のゼロ・コロナ政策の解除によっても製造業の受注が回復することは
なく、工場閉鎖や製造拠点を内陸あるいは東南アジアに移転する工場が相次いだ。閉鎖・
移転した工場は、コロナ期間中やゼロ・コロナ解除後において減収に苦しんでいた。資本
移転の過程で、経営側は賃金不払いや社会保険料の不払いなどでコストを労働者に転嫁し
たため、労働者の権利が侵害される事態となり、ストライキが相次いだ。
中国労工通訊(China Labor Bulletin)の統計によると 、2023年の労働者の集団抗議行
動は1794件で、そのうち製造業労働者の行動は438件(24.41%)であり、割合、数ともに
2016年の水準に達した。製造業労働者の行動のうち254件が広東省でのもので、製造業部
門の集団抗議行動の57.99%を占め、過去10年間で最も高い割合となった。珠江デルタ[
広州から香港にかけての一帯]は再び製造業における集団抗議行動の「台風の目」となっ
た。
20世紀末の市場経済改革後、中国は安価な労働力に依拠することでグローバル市場競争で
急速に台頭し、ローエンド加工産業における「世界の工場」となった。過去40年間は「中
国の奇跡」を実現するとともに、とりわけ2000年から2016年にかけては製造業部門におけ
る抗議の波が押し寄せ、中国の労働法制に関しては改善が進み、工会(官製労組)の役割
を一時的に好転させることも促した。2008年の経済危機以降、労働コストの上昇と政府の
産業構造の転換政策により、労働集約的な製造業部門は徐々に移転するとともにサービス
業に従事する労働者が急増した。2016年以降、製造業のストライキは激減すると同時に、
労働者の集団抗議行動が珠江デルタや長江デルタから内陸部の省・市へと広がる傾向も見
られる 。
2023年におけるストライキの地域分布は、この全体的な傾向とは正反対であり、今回の一
連のストライキの特徴を示している。CLBの中国労働者集団行動マッピングによると 、
2023年に製造業部門で閉鎖、移転、合併、買収をきっかけとする抗議行動は合計186件発
生、製造業部門のストライキ総数の42.5%を占めた。そのうち、広東省で起きたストライ
キは126件で67.7%、江蘇省、上海市、浙江省を含む長江デルタ地域で起きたストライキ
は44件で23.7%を占めた。その他の内陸の省・市で行われたストライキはごく少数であっ
た。
製造業の労働者が工場の閉鎖や移転に対して集団で抗議したのは今回が初めてではない。
中国の沿海都市部からのローエンド製造業の移転政策は2000年代後半に始まり、2008年の
経済危機を契機に、政府は産業移転とアップグレードを大々的に奨励・促進した。さらに
[改革開放による]経済構造の転換後の数十年にわたる労働者の抗議運動は、賃金や福利
厚生の改善だけでなく人件費の上昇にもつながり、ローエンド製造部門の雇用主はより安
価な労働力を求めて移転を進めた。例えば2010年、フォックスコンは生産コスト削減のた
めに中国本土への移転を加速させた 。2000年代後半から始まった工場移転・閉鎖の波は
、特に2012年から2016年にかけて、一連の集団的労働者抗議へとつながった。この一連の
抗議行動の参加者のほとんどは、長年働いてきた中堅の労働者であり、その要求は社会保
険加入や解雇補償が中心で、以前の抗議行動(賃上げや工会の運営に関する要求)とはま
ったく異なっており、「生存のための抗議行動」と呼ばれている 。
2023年にはいり、コロナの影響によって沿海部のローエンド製造業の製造拠点の移転と高
度化が再び加速し、ストライキの新たな波が起こった。この意味において、2023年のスト
ライキの波は2012年から2016年の集団抗議行動の継続であるとも言えるが、具体的には政
治経済の環境変化により、経営側の戦略、労働者の行動、政府の対応のいずれにおいても
、いくつかの新たな特徴を示している。
一、コロナによる一連の工場移転と倒産
ローエンド製造業の移転とアップグレードは、グローバル資本の「底辺へ向かう競争」と
国家主導の政策に後押しされ、過去20年にわたり続けられてきた。2016年、国務院は広東
省北東部と北西部、および内陸の省・市に産業移転ゾーンを設置し、珠江デルタ地域の産
業移転をさらに促進する指導指針 を発表した。 CCIDコンサルティング(賽迪顧問)が発
表した「深圳製造業移転パノラマレポート」 によると、2010年から2020年の間に、深圳
では合計22,308社の製造業企業が移転する予定だという。
Covid-19が製造業に与えた影響は、このプロセスをさらに加速させた。コロナ蔓延の結果
、生産は中断され、注文は減少、グローバル・サプライチェーンの最下位に位置する生産
者は多大な損失を被り、それは最終的に労働者に転嫁された。アパレル産業を例にとると
、国際労働機関(ILO)の調査報告書で、2020年にはコロナの影響により、世界的にアパ
レル需要が激減し、アパレルブランドは大量の注文をキャンセルしたり、注文を削減した
りした。すでに生産に入っていた注文について、製造メーカーは値下げを要求されたり、
代金の支払いを拒否されたケースもあり、川下の生産者は巨額の損失を被った。2020年5
月、中国を含む30カ国179社のアパレル・サプライヤーを対象とした調査によると 、64%
のアパレル工場で受注キャンセルを経験し、35%の工場で20%以上の値下げを求められた
。川下の生産者が被った損失は最終的に労働者に転嫁され、多数の工場が解雇や閉鎖、賃
下げ、賃金の支払い不履行、社会保険料の不払いなどが発生した。2020年第1四半期には
、中国で約46万社が倒産したという報道もある 。中国では2021年にはコロナの感染はあ
る程度抑制に成功し、生産秩序の回復につながったものの、2022年のゼロ・コロナ政策は
製造メーカーに多大な生産[中断の]圧力をかけた。
2023年にはゼロ・コロナ政策は解除されたが、製造業は短期間では回復をみせず、全般的
に縮小傾向が続いた。中国の製造業購買担当者景気指数(PMI) をみると、2023年第1四
半期は上昇したが、その後はほとんどの月が基準値(50%)を下回り、製造業が縮小圏に
あることを示している 。人力資源和社會保障部[日本の厚生労働省に相当]の情報セン
ターの分析では、「海外市場の需要縮小が依然として比較的顕著であり、製造業の景気回
復の勢いは弱い」と指摘された 。2022年は輸出入額が大幅に減少し、2023年1月から12月
までの輸出入総額は前年同期比5.0%減、輸出額は4.6%減、輸入額は5.5%減となり、輸
出入額は依然として減少圏にある。
中国の2大輸出製品である電子機器と繊維・アパレル製品は、2023年は前年度比でそれぞ
れ5.3%と7.9%減少した。嶺鵬産業創新研究所 は、フレキシブルワークのプラットフォ
ーム・アプリ「週薪薪」のデータに基づき、製造業の状況を監視するLIMP指数(Leading
Index of Manufacturing Prosperity)を構築した。そのデータによると、2022年3月以降
のLIMP指数は「楽観的でない」と「非常に楽観的でない」のあいだにあり、2023年8月以
降は若干上向いたものの、2024年1月には「楽観的でない」の範囲に後退した 。
コロナ感染の拡大はグローバル・サプライチェーンの構造的再編成プロセスを加速させい
る。短期的にはサプライチェーンの構造的変化はないだろうが、この加速プロセスは、ポ
スト・コロナの中国沿海都市部のローエンド製造業の閉鎖・移転を劇化させてもいる。
CLBの労働者行動マッピングのデータによると、2023年の閉鎖・移転に対する一連の抗議
で、電子製造業では146件のストライキが発生し、製造業の33%を占め、ストライキ件数
が最も多い部門となっている。中国は世界最大の電子製品の輸出国であり、短期間で他の
国が追いつくことは難しいが、貿易データの推移は近年の傾向も示している。国連の商品
貿易のデータベースであるUN Comtrade(United Nations Commodity Trade Statistics
Database)によると、中国の電子機器輸出の伸び率は過去5年間で停滞または低下する一
方、インドとベトナムの電子機器輸出総額は急速に伸びている。2022年のベトナムの電子
機器輸出額は2017年の2倍、インドは7倍以上になる。
第一財経研究院 が発表した報告書「デジャビュ:グローバル産業チェーンの東南アジア
へのシフトに関する分析」によると 、コロナ感染の蔓延により、中国の産業チェーンの
一部が東南アジア諸国、特にベトナムにシフトする傾向が加速している。2022年第3四半
期のGDP成長率は前年同期比13.6%増と、2011年以来の高成長となった。2022年上半期の
輸出は前年同期比17.3%増、輸入は同15.5%増であった。
全体的な傾向に加えて、新型コロナ感染の拡大は、唯一中国にサプライチェーンが過度に
依存する欠点を露呈した。コロナの収束後、一部のブランド企業はサプライチェーンの分
散化を積極的に加速させ、中国メーカーへの発注比率を減らしたことで、一連の工場の閉
鎖や移転が急増した。例えばアップルの場合、2022年の厳格なゼロ・コロナ政策の下での
「バブル生産」 によって労働者の生命をないがしろにし、最後には世界最大のiPhone生
産拠点である鄭州フォックスコン工場から労働者が大量に流出することになった。その後
、新たに雇用された労働者が給与の契約や労働条件をめぐって工場と衝突し、大規模な抗
議行動を起こした。この抗議行動は最終的にiPhoneの生産能力に影響を及ぼし、iPhoneの
納期を遅らせた。フォックスコンは即座に、サプライチェーンの柔軟性を高めるため、生
産拠点を地理的に分散し、中国への生産依存度を下げる方針を示した 。2023年、フォッ
クスコンはベトナムに3億米ドル、インドに27億米ドルを投資し、生産を拡大した 。それ
に呼応するように、フォックスコンの中国工場では、受注削減と生産ラインの縮小による
大規模なレイオフが行われている。一部の工場では、異動や残業カットで労働者を自己都
合の退職に追い込み、補償金の支払いを拒否している。 CLBのデータによると、2023年、
フォックスコンの上海、深圳、周口、重慶の各工場で、この「偽装自己都合退職」に反対
する労働者が集団抗議行動を起こし、補償金を要求している。労働者が公開した映像では
深圳工場の数百人の労働者が工場に集まり、「N+1」[追加補償金の意味]と叫びながら
フォックスコンに補償を要求している。
コロナ感染の終息後の工場閉鎖・移転の波は、より高い利潤を追求するグローバル資本の
空間移動であるだけでなく、国家の政策の結果でもあることは注目に値する。 前述のよ
うに、2008年以降、政府は沿海都市部における産業の高度化と産業移転を精力的に推進し
てきたが、この政策傾向は、過去3年間のうち、特にコロナが収束したのちに顕著である
。2021年、広東省政府は「広東省製造業高品質発展第14次5ヵ年計画」と「広東省製造業
デジタル化実施計画(2021-2025年)」を発表し、製造業におけるミドル・ハイエンド製
品の供給比率を高め、高品質の製品とサービスの需要に応えるために製造業を精力的に発
展させることを求めた。
筆者の統計によると、2023年、広東省政府は10件の重要な文書と計画を発表し、ローエン
ド製造業の移転促進を展開し、製造業のアップグレードやDX(デジタルトランスフォーメ
ーション)を加速している。同時に、特に広東省西部や北部などの珠江デルタ以外の地域
の市政府も「産業の秩序ある移転を行う」ための文書や政策を発表した。省・市政府は、
産業高度化を促進するため、財政支援、土地政策支援、免税政策を提供してきた。広東省
政府は今後4年間、製造業の高度化に1,000億元(140億米ドル)以上を投じ、毎年9,000社
以上の企業へ支援が行われることになるだろうと報告されている。同時にこの政策は、広
東省の珠江デルタ以外の地区および他の内陸部の省が、珠江デルタ地域からのローエンド
製造業の移転を受け入れることを奨励している。例えば、深圳市はすでに同省の河源や汕
尾などの省内の内陸部に12の工業団地を設立し、深圳市からの製造業の移転を受け入れて
いる 。
(以下、見出しのみ)
二、移転と倒産に揺れる労働者たち:「週休二日、一日8時間労働」への不満
三、労働者らの紛争行為とそれに伴う困難
まとめ
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staff01.
Last modified on 2024-04-24 21:54:30
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