本文の先頭へ
LNJ Logo アリの一言:「立憲デモクラシーの会」声明・6つの問題点
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 1713824827657sa...
Status: published
View


「立憲デモクラシーの会」声明・6つの問題点

2024年04月23日 | 日米安保・軍事同盟と政治・社会
   

 立憲デモクラシーの会(共同代表・山口二郎法政大教授、長谷部恭男早稲田大教授)が19日記者会見し、「自衛隊と米軍の「統合」に関する声明」(以下「声明」)を発表しました(写真は左から、中野晃一、長谷部恭男、山口二郎、千葉真の各氏)。

 同会は2014年、集団的自衛権行使容認の閣議決定に反対する学者らによって設立。樋口陽一、水島朝穂、最上敏樹、岡野八代、酒井啓子、浜矩子、高橋哲哉、池内了の各氏ら、日本のリベラルを代表する学者約60人が呼びかけ人に名を連ねています。

 「声明」は先の岸田首相訪米による日米共同声明が「作戦と能力のシームレスな統合を可能とするため、二国間でそれぞれの指揮統制の枠組みを向上させる」と明記したことについて、「少なくとも有事には実質的に米軍の指揮統制下に自衛隊が組み込まれることになる」点を中心に批判しています。

 その批判点は重要ですが、上記のような呼びかけ人によって設立された同会の性格・役割を考えれば、「声明」はきわめて不十分で問題が多いと言わざるをえません。

 第1に、軍事力抑止論の事実上の容認です。

「声明」は、「かりに抑止論を前提とするとしても…」としながら、論を進めるうちに「抑止論が…機能するためには」「日本としての抑止を高めることにならない」と述べるに至っています。これは歯止めのない軍拡を招く軍事力抑止論の容認であり、その土俵に立った議論です。

 第2に、「専守防衛」論の容認、すなわち自衛隊の容認・肯定です。

「声明」は、「責任ある政府は閣議決定等を通じて専守防衛に徹すると国会を通じて内外に表明してきた」と歴代自民党政権の「専守防衛」論を肯定し、さらには「日本国憲法に則った平和外交と専守防衛」とまで言っています。「専守防衛」論は自民党政権が憲法違反の自衛隊(日本軍)を保持するために使ってきたごまかしです。
 
 「専守防衛」論容認と表裏一体なのが自衛隊の容認・肯定です。「声明」は、「一体化が進められることで自衛隊の出動が米国や米国の軍事的判断次第になってしまう」と述べ、自衛隊は「国家としての「意思」」で動くべきだと主張しています。

 第3に、問題の起点を2014年とし、それまでの自民党政権を不問・美化していることです。

「声明」は「そもそも2014年の解釈改憲の閣議決定と2015年の安保法制で憲法違反の集団的自衛権の行使を容認して以来」と、2014年以降を問題にし、それ以前の自民党政権の安保(軍事)政策を不問にしています。自衛隊・「専守防衛」論の容認・肯定はその帰結です。

 記者会見した千葉真氏にいたっては、福田赳夫首相と小渕恵三首相の名を挙げて賛美しました。福田赳夫は有事立法の研究促進を指示し(1978年)、小渕恵三は「国旗・国歌法」を成立させた(1999年)張本人です。

 第4に、日米安保条約(軍事同盟)の肯定です。

 自衛隊の容認と表裏一体なのが、日米安保条約の肯定です。「声明」には安保条約に対する批判は一言もありません。それどころか長谷部氏は記者会見で、「これでは安保条約の事前協議が機能しない」と述べ、安保条約の機能化を主張しました。
「自衛隊と米軍の一体化」の根源は日米安保条約です。「声明」はその廃棄を主張しないどころか、積極的に擁護するものです。

 第5に、対案・展望が全く示されていないことです。

「声明」は、「それは日本の安全保障政策の体を成していない」の言葉で終わっているように、批判に終始し(その「批判」も上記のようにきわめて問題)、いま「安全保障」のために何が求められているのか、「立憲デモクラシー」の名によるなら憲法原則に基づく安全保障とは何なのか、という対案・展望がまったく示されていません。本来それを示すことこそ、同会の責務ではないでしょうか。
「声明」がそれを示し得ないのは、自衛隊・安保条約を容認・肯定していることの帰結と言えるでしょう。

 第6に、同会の他のメンバー(呼びかけ人)の責任です。

「声明」には上記のように多くの重大な問題がありますが、問わねばならないのは、記者会見した4人以外の呼びかけ人の責任です。他のメンバーは本当にこの「声明」でいいと考えているのでしょうか?「声明」文を読んだうえで賛同したのでしょうか?

 他のメンバーの中には、自衛隊を違憲の軍隊とし、日米安保条約の廃棄を主張する真っ当な学者もいます。その人たちは、本当にこの「声明」に賛同しているのでしょうか。「立憲フォーラムの会」は事実上、山口二郎氏と中野晃一氏の主導になっているのではないでしょうか。

<資料1>
       自衛隊と米軍の「統合」に関する声明
                         2024年 4月 19日
                       立憲デモクラシーの会

 2024年 4月 10日岸田文雄首相はバイデン米国大統領と会談、両首脳が共同声明を発出し、この中で「作戦と能力のシームレスな統合を可能とするため、二国間でそれぞれの指揮統制の枠組みを向上させる」と明記したことで、有事ばかりか平時から自衛隊と米軍の作戦と軍事力の統合が、装備の共同開発・生産とセットになって、いよいよ本格的に推し進められることになる。林芳正内閣官房長官は記者会見で「自衛隊の統合作戦司令部が米軍の指揮統制下に入ることはない」と強弁するが、軍隊組織の運用の「シームレスな統合」と言った時に、両国がそれぞれ独立した指揮統制系統を並行させるというのは意味をなさず、少なくとも有事には実質的に米軍の指揮統制下に自衛隊が組み込まれることになる。

 そもそも 2014年の解釈改憲の閣議決定と 2015年の安保法制で憲法違反の集団的自衛権の行使を容認して以来、安倍、菅、岸田内閣と続く自公連立政権は、国民の生命、自由、および幸福追求の権利を守るためと言いながら、まるで憲法も国会も存在しないかのようにふるまい、主権者である国民を蚊帳の外に置いて、安全保障政策の歴史的転換を進めてきている。2022年 12月 16日に閣議決定され公表された「安保三文書」は、日本と東アジアの将来に禍根を残しかねない負の産物であった。集団的自衛権の行使を認めたことで、日本が攻撃を受けずとも米国などの他国の戦争に、地域の限定もなく巻き込まれるリスクが高まったわだが、その上、自衛隊と米軍の作戦と軍事力の指揮統制機能の一体化が進めば、単に憲法や国会が無視されるにとどまらず、米国の判断で始めた戦争に米軍が参戦する際に、作戦の遂行や部隊運用面ですでに一体化された自衛隊には、これを追認して出動するほかなくなり、主権国家としての安全保障政策上の主体的な判断の余地が全くなくなる可能性さえ予期される。すなわち、責任ある政府は閣議決定等を通じて専守防衛に徹すると国会を通じて内外に表明してきたものの、集団的自衛権行使の要件とされる「存立危機事態」の認定主体が、国会はおろか日本政府でさえなく、米軍の作戦上の判断が事実上主導する形でなされることになりかねない。

 すでに自衛隊と米軍の一体化は始まっており、配備の進む中距離ミサイルの運用において日米の指揮統制の調整が不可欠となっていたとの議論もあるが、米国は米国の安全保障上の利益のために軍事的な判断を行うのであり、かりに抑止論を前提とするとしても、これが常に日本の安全保障のためになる保証はない。例えば、盛んに喧伝される台湾海峡有事のシミュレーションは、米中両国がそれぞれの本土を「聖域化」し、相互にはミサイルを撃ち合わない前提で想定されている。したがって、米軍の始める日本の安全保障にも国益にも適わない戦争のために、日本が戦場にされ民間人が殺されたり、自衛隊が殺し殺されたりする可能性も否めない。

 さらに、抑止力が戦争を未然に防ぐための抑止として機能するためには、軍事的な「能力」だけでなく、武力行使のレッドラインがどこに引かれているのか、国家としての「意思」が相手国に伝わる必要がある。それがなければ、ただの軍事的挑発となるが、自衛隊と米軍の指揮統制機能の一体化が進められることで自衛隊の出動が米国や米軍の軍事的判断次第となってしまうと、いくら日本が中距離ミサイルの配備などの安全保障上のリスクや財政負担を増大させたところで、トランプ前大統領の返り咲きも懸念される米国のその時の「意思」次第となり、日本としての抑止を高めることにならない。

 日本国民の生命、自由、および幸福追求権を守るための安全保障政策であるならば、日本国憲法に則った平和外交と専守防衛で相手国に対する安心供与を行い、国民を代表する国会での熟議を経て国家としての「意思」を形成し、伝達しなくてはならないのは当然である。安全保障政策の大転換と言いながら、その現実が、米軍次第というのであれば、それは日本の安全保障政策の体を成していない。

<資料2>
       立憲デモクラシーの会 よびかけ人  (同会サイトより)
▶共同代表
長谷部恭男 早稲田大学・憲法学
山口二郎 法政大学・政治学
 故 奥平康弘 東京大学・憲法学(元共同代表)
▶憲法学(法学)関係
愛敬浩二 早稲田大学・憲法学
青井未帆 学習院大学・憲法学
阿部浩己 明治学院大学・国際法学
蟻川恒正 日本大学・憲法学
石川健治 東京大学・憲法学
稲正樹 元国際基督教大学・憲法学
君島東彦 立命館大学・憲法学
木村草太 東京都立大学・憲法学
小林節 慶應義塾大学名誉教授・憲法学
阪口正二郎 早稲田大学・憲法学
高見勝利 上智大学名誉教授・憲法学
高山佳奈子 京都大学・刑事法学
谷口真由美 大阪芸術大学・国際人権法
中島徹 早稲田大学・憲法学
樋口陽一 東京大学名誉教授・憲法学
水島朝穂 早稲田大学・憲法学
最上敏樹 早稲田大学名誉教授・国際法学
▶政治学関係
石田淳 東京大学・政治学
石田憲  千葉大学・政治学
伊勢崎賢治 東京外国語大学・平和構築
宇野重規 東京大学・政治学
遠藤乾  東京大学・国際政治学
遠藤誠治 成蹊大学・国際政治学
大竹弘二 南山大学・政治学
岡野八代 同志社大学・政治学
小原隆治 早稲田大学・政治学
五野井郁夫 高千穂大学・政治学
齋藤純一 早稲田大学・政治学
酒井啓子 千葉大学・国際政治学
白井聡  京都精華大学・政治学
杉田敦  法政大学・政治学
千葉眞  国際基督教大学名誉教授・政治学
中北浩爾 一橋大学・政治学
中野晃一 上智大学・政治学
西崎文子 東京大学名誉教授・政治学
前田哲男 軍事評論家
三浦まり 上智大学・政治学
柳澤協二 国際地政学研究所
 故 坂本義和 東京大学名誉教授・政治学
▶経済学関係
大沢真理 東京大学名誉教授・社会保障論
金子勝   慶應義塾大学名誉教授・経済学
高橋伸彰 立命館大学名誉教授・経済学
中山智香子 東京外国語大学・社会思想
浜矩子  同志社大学・経済学
水野和夫 法政大学・経済学
諸富徹  京都大学・経済学
▶社会学関係
市野川容孝 東京大学・社会学
上野千鶴子 東京大学名誉教授 ・社会学
大澤真幸 元京都大学教授・社会学
▶人文学関係
臼杵陽 日本女子大学・中東地域研究
内田樹 神戸女学院大学名誉教授・哲学
加藤陽子 東京大学・歴史学
桂敬一 元東京大学教授・社会情報学
國分功一郎 東京大学 ・哲学
小森陽一 東京大学名誉教授 ・日本文学
佐藤学 東京大学名誉教授・教育学
島薗進 東京大学名誉教授・宗教学
高橋哲哉 東京大学名誉教授・哲学
林香里東京大学 ・マス・コミュニケーション
三島憲一 大阪大学名誉教授・ドイツ思想
山室信一 京都大学名誉教授・歴史学
鷲田清一 大阪大学名誉教授・哲学
 故 色川大吉 歴史学
▶自然科学関係
池内了 名古屋大学名誉教授・宇宙物理学
 故 益川敏英 京都大学名誉教授・理論物理学
▶経済界
丹羽宇一郎 元中国大使

Created by sasaki. Last modified on 2024-04-23 07:27:08 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について