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「非国民」と呼ばれようとダニーは反戦

林田英明

 

 ダニー・ネフセタイさん(67/写真)の憂いは日々深まる。今もパレスチナ自治区ガザ地区で子どもたちが殺されている現実に耐えられない。在日イスラエル人として、同胞から「非国民」扱いされても発言をやめないのはなぜか。「抑止力」をまやかしと断じる彼の思いと反戦の行動は聞く者の心をとらえて離さない。

●初めは9条「非現実的」と

 ネフセタイさんは来日40年、埼玉県皆野町で妻の吉川かほるさん(65)と「木工房ナガリ家(や)」で注文家具をつくりながら、人権や平和をテーマに講演活動を続けている。

 「国のために死ぬのはすばらしい」という国家教育がイスラエルの本質だとネフセタイさんは説く。親族も第二次世界大戦中、ホロコースト(大量虐殺)で亡くしており、ユダヤ人の一人として国家創設と国防意識の重要性を就学前からたたきこまれた。多くの学校に実戦で使用された戦闘機や大砲が飾られ、全国の小中高に戦死した卒業生の顕彰碑が建つ。歴史の授業なら、どの戦争で領土を得たかやイスラエルの戦死者の数を暗記させられる。「だから戦死は最も栄誉ある死なんです」と真顔になる。国民皆兵のイスラエルは、男性に約3年間、女性に2年間の兵役義務があり、ネフセタイさんも高卒後、全国民あこがれの的の空軍パイロットを目指したものの終盤で落ちてしまう。それを「今から考えれば良かった」と安堵するのは、もしパイロットになっていれば、何の疑問もなく「敵」に爆弾を落とす任務に誇りを持ち続けたに違いないからだ。

 兵役を終え、日本を訪れて憲法9条を知った時、「軍隊がなくては国は守れない。全く非現実的だ」と感じたという。それから20年以上、イスラエルの攻撃で戦禍が繰り返されても「今回は仕方がなかった」と母国を支持してきた。かほるさんが何度も「ダニー、おかしいよ」と話し合う中でようやく狎脳瓩魏鬚れたのが2008年のガザ侵攻だった。パレスチナ側に1000人以上の死者を出し、死傷者の3分の1が子どもたちだった無差別攻撃に、もう「仕方なかった」との釈明は妻にできなかった。戦力に彼我の差があって悲惨な報復を受けることが分かっていても、ガザのイスラム組織ハマスはなぜ反撃をやめないのか。

●異論許さない社会に変容

 23年10月7日のハマスの残虐な奇襲をネフセタイさんは許さない。約1200人のイスラエル人が殺され、外国人を含む約240人が人質となった。野外音楽祭に参加していたおいはミカン畑に半日隠れ、辛うじて逃げおおせたが、知人の中には犠牲になる者も少なくなかった。その現実を見据えたうえで、こう踏み込んで言う。

「今回の行為はテロだが、ハマスはテロ組織ではなくレジスタンス組織。テロは暴力では止められない。武力には反対で肯定はしないが、やりたい気持ちは分かる」

 ネフセタイさんは、イスラエルと同様、パレスチナ人も自由と独立を得られなければ事態は沈静しないと考える。相手の立場に立つと、見えてくる風景が違ってくるのか。対等な共存なくして平和は訪れないと感じている。だが、イスラエル国内の怒りは沸点に達しており、異論を許さない社会に変容してしまった。「やりたい気持ちは分かる」は生理的にも受け入れられない刺激に満ちており、ネフセタイさんがSNS(ネット交流サービス)でその趣旨も含めてヘブライ語で発信するとイスラエルから「裏切り者」と罵倒の反応が寄せられる。

 自爆テロが席巻していた頃、妹は3人の高校生を時間差をつけてバス通学させていたのは万が一、テロにあっても犠牲を1人にとどめるためだったと聞かされてネフセタイさんの心も揺れるが、ハマスがテロを起こす原因を知るべきだとやりとりをして妹を憤慨させてしまう。

 シンクタンクのイスラエル民主主義研究所が昨年12月に発表した世論調査によれば、「軍事計画を立てる際に、どの程度ガザの人たちの苦しみを考慮するべきか」の問いにユダヤ系の約8割が「考えるべきではない」と回答しているように、ハマスの奇襲から月日がたっても憤怒に変化はない。人質解放を求めるデモがあっても、彼らはガザ攻撃に反対しているわけではない。*写真右=妻の吉川かほるさんと

●武力は終わりなき復讐へ

 人は残虐な場面に直面すれば、正常なブレーキは働かなくなる。それは国や時代が違っても同じ。終わりなき復讐をネフセタイさんは恐れ、戦争になる前に止めなければと考える。小学校での講演でパイロット訓練生時代の写真を見せながら「カッコイイと思う人は?」と問いかけると、男子児童は次々と手を挙げる。そこでネフセタイさんが戦闘機の二つの役目を教える。一つは、人を殺すこと。もう一つは、物を破壊すること。がれきと化した街の写真を見れば、再度の「カッコイイと思う人は?」の問いに手を挙げる児童はいない。軍隊は〜碓二元論¬仁疉従I靂浪魴茵宗修裡嚇世農り立つと言い、そのために上意下達の差別構造が必然の組織となる。イスラエル人は本来、開放的で人当たりがいい人たちだとネフセタイさんは思う。しかしイスラエルという国家が建国以来、武力で自分を守ろうとし、迫害されてきた歴史を免罪符に「周囲は敵に囲まれている」との被害者意識が抜けないまま、逆に迫害する側に回っている誤りに気づいていないと嘆く。選民意識は次のような発言が公然とされることからもうかがわれる。

「神様が一番上。次がユダヤ人。ほかは皆動物で、パレスチナ人も動物」

 だから、ガザでどんなに死傷者が出ようと心は痛まない。ネタニヤフ首相の「ハマスを壊滅させ、人質を全員取り戻す」との声明を国民が支持する限り、戦争は終わらない。ネフセタイさんは、ハマスを壊滅させることは不可能であり、たとえ壊滅できたとしても新たな抵抗組織が生まれるだけだとため息をつく。

●日本の軍事力信奉に懸念

 常に最新兵器をそろえ、イスラエル政府は「これで安心だ」と国民に宣伝しながら戦争を繰り返してきた。「平和のためには抑止力が必要」というのがイスラエルの平和教育である。13年に、イスラエルの空港を降り立って街や人の空気がこわばった様子をこう発信した。

「イスラエルが、かつてナチス・ドイツのように、いずれ破滅する道を歩き始めたきざしではないか」

 ガザ攻撃を繰り返すたびにイスラエル人の大半がパレスチナ人の苦しみに鈍感になっていると感じるネフセタイさんは「PTSD(心的外傷後ストレス障害)や自殺者の増加が社会を内側からむしばむ。このままでは人間性を失い、国が正常に成り立たなくなる」と母国への危惧を隠さない。

 「武器に頼るとキリがない」とネフセタイさんは、治安に時間とコストをかけるのではなく、軍隊を持たないことこそが本当に国を守るのだと今では信じる。国家主義者から「厳しい世界の現実を知らない倏焼發花畑瓠廚箸笋罎気譴襪海箸發靴个靴个澄それでも、「戦争は人間の本能ではない。原発同様、一部の人間しか利益を得ないのが戦争だ。それでは真の平和をつくれない」と訴え続ける。そして「イスラエルの後を追っていないか」と、ネフセタイさんの目には日本が防衛の名の下に軍事力を信奉しだしたように映り、懸念を抱く。

 右傾化が止まらないイスラエルに「見切りをつけて」、妻と共にあくせくしない秩父での暮らしが気に入ったネフセタイさんの国籍はイスラエルのまま。それは、日本が二重国籍を認めていないからだ。犯罪者でもない限り、イスラエルもネフセタイさんの入国を拒めず、数年ごとに帰国しては祖国の空気を肌で感じてくる。在日イスラエル人として日本の良い点と物足りない点にも気づく。だから、両国がより良い社会を形成するための直言をこれからも続けていくつもりだ。今年の講演の数は、新型コロナウイルス禍前を上回り、100回を超えそうな勢いである。


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