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LNJ Logo 報告と感想:韓国ドキュメンタリー映画『私のろうそく』上映会
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韓国民主主義の底力〜キャンドル市民革命を描いた『私のろうそく』初公開

松原 明

 

 それにしても空からの映像が壮観だ。朴槿恵(パククネ)退陣を求める100万人以上の人々が、光化門広場を埋めている。2016〜17年に人口の3分の1にあたる約1700万人が参加して韓国全土で行われたキャンドル市民革命は、朴槿恵大統領を退陣に追い込み、新たな民主政権を実現した。一人の逮捕者も犠牲者も出さずに行われた「非暴力市民革命」。そのドキュメンタリー映画『私のろうそく』が5月11日、東京・なかのZERO小ホールで初上映された。

 朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領は絶大な人気を誇ったが、娘のパククネ大統領は無能だったことが映画でよくわかる。全ての演説草稿を書き、大統領を操っていたのが友人の崔順実(チェ・スンシル)だった。2016年秋にTV局(JTBC)が暴露した崔順実スキャンダルが、市民の怒りに火を付けた。2016年10月29日、最初のデモは3万人だったが、2週間後に100万に膨らみ、6回目の集会参加者は地方を含め232万人に達した。韓国憲政史上で最大規模の集会になった。酷寒の中、毎週末に主要都市の通りを埋め尽くすロウソクの波は、翌年の歴史的な大統領弾劾・罷免につながった。

 80分のドキュメンタリー映画『私のろうそく』(共同監督 キム・ウィソン、チュ・ジヌ)は、そのプロセスを余すところなく伝えている。デモに参加した市民や与野党の政治家、ジャーナリストなど、多彩な人々へのインタビューを通じて、キャンドルデモの本質を解き明かしていく。映画はコロナ前に作られたが、コロナの影響があり公開は2年遅れて2022年になった。釜山国際映画祭で観客賞を受賞、韓国では約4万人が鑑賞した。そして今回、日本で初めて上映されることになった。

 映画の始めでは当時の韓国の政治状況が描かれているが、ハンナラ党・セヌリ党・共に民主党・正義党などなじみのない固有名詞が多く、私にはすぐにピンとこなかった。しかしキャンドルデモが始まるあたりから、俄然、引きつけられ画面に釘付けになった。上映後には、170人の観客から大きな拍手が起きた。

 そしてトークイベント。壇上に上がったのは、プロデューサーのチョ・ウンソンさん(右)、日本上映実行委員会代表の金整司(キムジョンサ)さん(左)、そして字幕を付けたレイバーネット国際部の安田幸弘さん(中央)だった。

 キムジョンサさんは観客が一番聞きたいことを聞いた。「日本の政治はひどいが大きな運動が起きない。なぜこんな凄いことが韓国ではできたのか?」と。チョ・ウンソンさんはこう答えた。「韓国人は長い歴史のなかで正義のためには立ち上がるという伝統がある。こういう諺があります。<腹が減ることは我慢できるが、腹が痛いことは我慢できない>。腹が痛いというのは、悔しいことや不正は我慢できないという意味です。それから子どもに対して恥ずかしくない生き方をしたい、という思いも強い。今回の運動の背景としては、たんにスキャンダル事件への批判ではなく、セウォル号事件がとても大きかった。約300人の高校生が理不尽に殺されていたのに、パククネ政権は何もしなかったからです」。

 私もひとつ質問をした。「今回のきっかけはTV局のスクープから始まっていますが、韓国メディアのリベラルな姿勢が大きかったのですか?」。答えは意外だった。「韓国のマスコミも日本と同じでリベラル系は弱いです。リベラル系は15%で保守系が85%を占めています。JTBCのニュース番組のアンカーは孫石熙(ソンソッキ)という人ですが、この人は国民から人気がありとても信頼されていました。かれが絶好のタイミングでスクープを出し、それに他社が追随して盛り上がっていったのです」。なるほど。良心派のジャーナリストが頑張ったのだ。

 『私のろうそく』は、民衆が政権を変えることは可能だ、という希望と勇気をもらえるドキュメンタリーである。現在は韓国も保守の大統領になっているが、「なにかあればまた運動を起こす」とチョ・ウンソンさんは胸を張って語っていた。韓国民主主義の底力を伝えるこの映画を広げ、少しでも日本の運動に活を入れたいものだ。

●『私のろうそく』自主上映の問合せ:kmoviesc@gmail.com 080-3483-9998(キム)

↓5.11上映会のチラシ


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