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LNJ Logo JR東日本による組合つぶしと闘った四名の労働者/「脱退パワハラ訴訟」控訴審判決をうけて
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リポート 堀切さとみ

 「組合ハラスメントは不当だ」。JR東日本の労働者四名が2019年末に提訴した損害賠償請求裁判は、昨年8月の一審判決で、会社の不当労働行為を認めさせる画期的な判決を勝ち取った。しかしそれから八カ月、現状は変わらない。それどころか、組合員であることを理由とした不当な配置転換(ジョブローテーション)など、あからさまな組合員差別は強まるばかりだ。
 一審判決に甘んじることなく、会社の組織的な脱退勧奨を認めさせようと四人は控訴。その控訴審判決が、4月24日東京地裁で言い渡された。


*JTSUホームページより

 雨の中、大勢の仲間たちが集まったにもかかわらず、法廷で告げられたのは「控訴棄却、一審判決維持」だった。悔しい判決であることは間違いない。しかし、その後の報告集会は熱気と活気に溢れ、敗北感を感じさせないものだった。300名の組合員や支援者たちが四人の奮闘を讃え、「あったことをなかったことにさせない」「健全な会社を取り戻そう」と声をあげるのを見ながら、筆者の中に熱いものがこみ上げてきた。


*衆議院議員会館

 『脱退パワハラ訴訟』とよばれるこの裁判の発端は、2018年春闘だった。スト権を発動したJR東労組に対し、会社側は「労使共同宣言は地に落ちた」「抜いてはいけない刀を抜いたのだから、会社として考えを変えないといけないと強く思っている」と発言。脱退セミナー、社長による職場巡回、懇親会で上司が組合員を取り囲んで脱退を迫るなど、あらゆる手段で組合員を追い詰めた結果、5万人いた当時の組合員を、わずかな期間で半減させた。
 この脱退強要は、仲間とのつながりを断絶させ、精神を病む労働者を生み出し、分割民営化の国労潰しを髣髴とさせるものだ。

 「このままでは組合が消滅してしまう」。その思いで立ち上がったのが、当時まだ30代だった四名の労働者だった。しかしJR東労組は、労働委員会に不当労働行為の救済申請を出そうとした四人に対し、取り下げるように指令した。そもそも組合への攻撃なのだから、受けて立ってしかるべきなのに、立ち上がった仲間に背を向けた。
 「本来なら労組として闘うべきだった。そうしていれば四人だけでなく、何千人規模の事件になっていただろう」と、報告集会で弁護団の市橋耕太弁護士は力を込めた。

 個人として闘うことにならざるを得なかったが、この裁判が一つのきっかけになり、新しい組合(日本輸送サービス労働組合=JTSU)が2020年に発足した。彼らは今この組合で頑張っている。
 四人の発言を紹介したい。

石井祥大さん
 脱退セミナーから6年たつ。個人として立ち上がったが、多くの人が支えてくれた。立ち上がった当初、組合から『お前、随分思い切ったことやったな』と言われた。自分でも『好きで入って働いている会社を訴えるなんて』と思ったが、鉄道が好きで入ったからこそ会社を良くしたかった。
 「おかしいことはおかしい」というのが組合ですよね。闘ったという足跡を残したい。より良い会社を取り戻したい。

高橋弘樹さん
 一審判決以降もJTSUから脱退する仲間は多い。組合に入っていたら自分が昇進したいとか転勤したいという希望を叶えることはできないというのがまかり通ってしまっているのだろう。
 組合員に対して見せしめ的に行なわれているジョブローテーション。これによって事故が多発し、技術の継承がなされないのは許せない。
 ビックモーターやジャニーズの性加害事件など、企業の不正に対する告発が大きな社会問題になっている。でも脱退パワハラはクローズアップされない。マスコミも観て見ぬふりだ。そんな中で、声を出して訴えた。それが最大の成果だと思う。

宮沢和真さん
 あったことをなかったことにしない。その言葉通り、中身は勝利したと思う。多くの仲間が命がけで証拠を集めてくれた。そのおかげで訴訟を起こすことができ、不当労働行為があったことは認められた。三万人以上を企業が脱退させる、こんなことは歴史上なかったことだ。それをきちんと残した。

放出弘喜さん(四人の中で唯一、損害賠償請求が認められた)
 控訴棄却とはいえ、勝利している裁判であることに変わりはない。その理由はたくさんある。一円でも勝ち取ることができたのは、この会社で不法行為が行なわれていた証しだ。
 世間の人たちは「大きな企業でそんなことがあるはずがない」「組合が勝手に騒いでいるだけ」と思うだろう。でも裁判が判決を出したことで、実際にあったということを知らしめることができた。そして何よりもこの裁判によって、本来の組合、仲間を見捨てない組合を作ることが出来たのは、大きな喜びだ。

 四人の発言は時に笑いを誘い、会場を沸かせた。
 「同じ釜の飯を食う」という言葉がある。個人加入の組合がクローズアップされている昨今だが、報告集会でみたものは、同じ職場で働いている労働者ならではの連帯感だった。戦後最大の労組つぶしの歴史を乗り越え、巨大な企業に立ち向かうという熱意がみなぎっていた。
 公共交通としてのJR東日本は、社会、地域、乗客に優しいものであってほしい。労働者はそのために日々頑張っているのだ。古びた言葉かもしれないけれど、団結の力をこれからも見せてほしいと思う。


Created by staff01. Last modified on 2024-04-27 15:17:48 Copyright: Default

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