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LNJ Logo 映画時評『PERFECT DAYS』/味わい深い余韻
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●映画時評『PERFECT DAYS』

味わい深い余韻

志真秀弘

 ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』をみた。味わい深い、余韻を楽しませてくれるようないい映画だった。

 同じヴェンダース監督の『ヴエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999公開)を以前見たことがあるが、楽しい作品だった。キューバの音楽クラブを尋ねて歩く、ロードムービー仕立てのドキュメンタリで、解放されたキューバ社会と人々の自由な様子が、サルサに乗せて画面から流れ出るようだった。

 今回の『PERFECT DAYS』は現在の東京に暮らす人たちを描く。
 主人公は東京・押上のアパートに住んで、渋谷区の公共トイレ清掃の仕事に通う平山(役所広司)。その日常がドキュメンタリ手法で描かれていく。起きて、歯を磨き、植物に水をやり、空を見上げ、缶コーヒーを飲み、掃除道具を積んだ軽自動車を運転して、職場に向かう。映画のこの語りはリズミカルで心地よい。そのリズムは主人公の解放感を表してもいる。苦役であるはずのトイレ掃除が、解放感をもたらす。監督の労働観は「欺瞞的だ」との厳しい批判も聞こえる。そこはこの映画に対する評価の分かれ目かもしれない。

 が、私は苦役でもある労働が生活にもたらすリズム=それが解放感につながるという逆説の真実性を画面にみたい。繰り返し作業のもたらす心理的安定だけではなく、大きくは賃労働の二重性にそれは由来すると思う。と、書くと理屈っぽくなってこの映画の良さが消えてしまいそうだ。『ヴエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の音楽も素晴らしかったが、この映画では主人公が好きな70年代のロックがカーステレオから流れる。しかもカセットテープの音源から。生活の中にある音楽の良さが描かれている。

 もう一つ。21世紀はじめの資本主義T O K Y Oの過酷さが、登場人物中の二人の少女を通して伝わってくる。どうやって生きていったらいいのだろう。切なさとやるせなさが一挙一動から滲み出てくる。一人は貧しく一人は金持ち。しかし共通して孤立して行き先がない。社会に友情が満ちていた『ヴエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の世界の再現はもはや不可能なのか。そんなことまで思わせてくれた映画でした。まだ上映中です。お勧めします。


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