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【解説】レイバー・ノーツの2024年の最初の記事は労働組合役員の直接選挙による選出の重要性を主張するこの記事であった。労働組合内部の自主的組織コーカスが役員選挙を通じて組合指導部となり、組合を内部から改革していくのがレイバー・ノーツの40年に亘る戦略であった。その戦略が大きく花開いたチームスターズ労組と全米自動車労組の昨年の協約闘争の勝利に裏付けられており、説得力を持った記事である。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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組合役員の直接選挙が組合を強くする

2024年1月5日 クリス・ボーナー(組合活動家・研究者)


*2023年に組合員の直接選挙により選出された全米自動車労組のション・フェイン会長(真ん中の背の高い人)

 アメリカの労働運動は、昨年の全米自動車労組、チームスターズ労組、全米映画俳優組合、全米脚本家組合の協約改定闘争の勝利を祝福して当然である。65万人の組合員がこの勝利の恩恵を受けているのである。これらの協約改定闘争の重要な共通点は、この四つの組合の最高幹部がすべて組合員によって直接選出されていることである。他の多くの労働組合ではこの基本的な権利が否定されている。これらの歴史的な協約闘争から教訓を学ぼうとするときに重要なのは、組合員による一人一票の直接選挙という民主的な方法が労働運動の活性化にとって不可欠である、ということである。

 全米自動車労組(UAW)のビッグスリーとの協約闘争や、チームスターズ労組のUPSとの協約闘争では、確かに強固な民主的プロセスが大きな役割を果たした。UAWとチームスターズの両組合は、協約期限切れの前に、最高指導部の選挙で非常に競争的な選挙戦を繰り広げた。選挙戦を通じて組合員を論戦に直接参加させ、交渉戦略やスト給付の改善、非民主的な障害の撤廃などについて議論した。例えば、チームスターズの大会で代議員は、協約の批准投票で組合員の過半数が反対票を投じても執行部が協約を締結してしまうことを許していた規約条項を削除した。競争的選挙を実施したことにより活性化した最近のUAWとチームスターズの大会では、運動戦略に関する活発な討議が行われ、組合員は直面する協約改定闘争に積極的に関わることができた。

 しかし、米国の20大組合の規約を見てみると、「一組合員一票」による役員選挙はほとんどの組合員にとって否定された権利であることがわかる。上位20組合(組合員約1,330万人、全米組合員の83%を代表)のうち、直接選挙を実施しているのは6組合だけである。全組合員の20%、270万人だけが、最高役員を直接選挙する権利を有している。一方、組合員の80%、すなわち1,060万人の労働者には、そのような権利はない。


(上位20組合の役員選出方法。赤が間接選挙。緑が直接選挙。)

 チームスターズとUAW以外に直接選挙を実施している大組合は、全米鉄鋼労組、国際機械工労組、全米映画俳優組合、書簡配達人、全国郵便配達協会、アメリカ郵便労働者組合組だけである。作家ギルドや全米港湾倉庫労組のような小さな組合も直接選挙を実施している。

 北米レイバラーズ労組(LIUNA)はかつて司法省との同意協定の一環として直接選挙を実施していたが、同組合の執行委員会は2010年にこの慣行を廃止した。全国機械操作工労組と大工労組も直接選挙を行っていたが、1960年代に代議員による間接選挙に移行した。

 偶然かもしれないが、2023年(10月まで)のストライキの大半は、「1組合員1票」の直接選挙の方針を掲げる労働組合が主導している。労働省によると、今年は44万8000人の労働者がストライキを行い、その56%にあたる約25万人が直接選挙を行う組合に所属している。おそらく、より民主的な労働組合の方がより戦闘的なのだろう。

直接選挙対代議員による間接選挙制度

 直接選挙とは対照的に、ほとんどの組合は間接的に最高役員を選び、ローカル段階で組合員投票によって大会の代議員を選出する。そして、選出された代議員が最高役員を大会で指名・選出する。 形式的には民主的だが、代議員大会制度の欠陥は広く知られている。代議員制は労働者の参加や活発な民主的議論を促進するのではなく、組合の莫大な法的・財政的・政治的・組織的資源を投入して権力を維持し、改革への挑戦を抑圧することにより、現職を守る傾向がある。その結果、多くの労働組合は、組合員の統制や説明責任から隔離された半永久的な役員・スタッフ層によって事実上運営され、組織が弱体化し、腐敗の温床となっている。

 代議員制間接選挙制度の下では、組合で新しい指導部が台頭するきっかけは、一般的に、競争的選挙で挑戦者が勝利することではなく、組合役員の引退や死亡である。組合大会は、組合員を組織化や協約キャンペーンに参加させる絶好の機会であるにもかかわらず、一党独裁国家の与党が開くしゃんしゃん大会のようになることが多い。実質的な争点がほとんど議論されず、主導権争いもないのだから、労働記者たちがほとんどの組合大会をわざわざ取材しないのも無理はない。

 組合員数が長期的に減少し、労働運動の戦略的方向性について喫緊の議論が行われているにもかかわらず、下表が示すように、大労組のトップリーダーのうち、直近の大会で挑戦者に直面した者はほとんどいなかった。直接選挙のない14組合のうち、トップの座に挑戦者がいたのは5組合だけだった。対照的に、直接選挙を実施している6つの大労組のうち、4つの組合で競争的選挙が争われた。


(上位20組合の組合員数、役員の直接選挙、直近の選挙での対立候補の有無。)

 レイバー・ノーツや組合民主主義協会(AUD)のような団体が主導する組合改革運動は、40年以上にわたってこの間接選挙制度に異議を唱え、労働運動を再建するために幅広い民主的改革を主張してきた。マイク・パーカーとマーサ・グリュエルがその名著『民主主義は力なり』で論じているように、「一部の組合は大会での役員選出制度によっても民主的に運営されており、その他の組合でも可能性はある。しかし、米国のほとんどの主要組合にとって、役員選挙を直接選挙に変更することにより、組合員により運営される労働組合を再建する機会が生まれる。」

 直接選挙反対派は、競争的選挙や直接民主主義は不必要な対立を助長し、内紛を煽り、協約改定や組織化闘争ではるかに強力な企業に対抗する労働組合の能力を弱める可能性があると主張する。

 しかし、UAWの最近の歴史はそれとは異なる。自動車ビッグスリーのストライキは、ここ数十年で最も影響力のあるストライキの1つとして多くの人々に称賛されているが、それは高度に民主的なプロセスの直接的な結果でもある。2021年以降、UAWは役員直接選挙制度に変更するための全組合員投票、大会代議員の選出、役員選出のための2回の全組合員投票(決選投票を含む)、ビッグスリーでのスト権投票、そして直近では協約の批准投票の実施など、全組合員投票を度々実施してきた。これらの票決の多くは紛糾し、接戦となったが、最終的な結果は組合員の参加と組合の活性化につながった。

 労働組合のあり方の欠陥によりもたらされた影響の一つは、「金融組合主義」の永続化である。この「金融組合主義」では、組合指導部は、大規模な組織化や戦闘的なストライキ活動のために資源を使用するのではなく、金融資産の継続的蓄積に重点を置いている。労働省のデータによると、2010年以降、組織労働者は50万人近く組合員を失ったが、労働者の純資産(資産から負債を差し引いたもの)は140億ドルから2022年には330億ドルへと127%も増加している。真の民主的統制から隔離された組合指導者層が、金融組合主義を可能にしている。


(全米の組合員数と組合の純資産:2010-2022年。赤線は組合員数、緑線が純資産)

 しかし、UAWが示しているように、組合が指導部の直接選挙に移行すると、ストや 組織拡大のために金融資産を使用する傾向が強まる。例えば、UAWの莫大なスト資金をウォール街のヘッジファンドや未公開株に投資し続けるのではなく、直接選挙で選ばれた役員はこれらの資産を戦闘的で成功したストの資金に充て、組合はおそらくスト手当で1億ドル近くを失った。また、協約闘争の勝利を受けて、UAWは13社で15万人の未組織の自動車労働者を組織化するという野心的なキャンペーン目標を発表した。

 役員の直接選挙がないため、民主的改革を推し進める組合内のコーカス、すなわち「組合民主化をめざすチームスターズTDU」やUAWの「民主主義のための全労働者団結UAWD」のような組合内部野党の任務もはるかに困難になっている。

 この点は今年の全米食品・商業労組大会で鮮明に示された。最大規模のUFCWローカルが率いる「民主主義を目指すエッセンシャル労働者」改革コーカスは、全うな決議を数多く提案した。例えば、ストライキ権確立に多数決のみを必要とすること(現在は3分の2要件)、初日からストライキ手当を支給すること、本部の役員とスタッフの給与に25万ドルまでの上限を設けること、組合予算の少なくとも20%を新規労働者の組織化に充てることなど、であつた。

 しかし、これらの基本的改革は大会で圧倒的に否決され、決議を支持したローカルはほんの一握りだった。UFCWの一般組合員が直接選挙を実施していれば、これらの決議はおそらく広範な支持を得ただろう(UAWやチームスターの組合員が大会で同様の措置を支持したように)。「民主主義を目指すエッセンシャル労働者」は、2028年のUFCW大会に向け、直接選挙への再挑戦を進めているが、労働運動は今こそこれらの改革を必要としている。

右からの改革か左からの改革か?

 過去40年間、「1組合員1票」による役員選挙を自主的に採用した大規模組合はない。チームスターズとUAWの改革派コーカスは長年にわたって直接選挙を推進してきたが、司法省が両組合を刑事告訴し、代議員による間接選挙制度によって助長された汚職と犯罪の横行に対する救済措置として民主的改革を課すまで、直接選挙は実現しなかった。

 チームスターズの場合、司法省による広範な恐喝訴訟の提起(およびTDUによるロビー活動)の後、直接選挙を実施するためにジョージ・W・ブッシュ政権と和解に達した。UAWはドナルド・トランプ政権の司法省が広範な刑事告訴した後に和解し、直接選挙に関する全組合員投票を実施した(UAW組合員の64%が賛成票を投じた)。

 皮肉なことに、反組合的な共和党政権がUAWとチームスターズの民主的改革の重要な要素だった。しかし、労働改革の歴史は奇妙な仲間で満ちている。

 例えば、1959年、議会は労使情報報告・公開法LMRDAを可決した。この法律は、新たな組織化を阻止しようとする企業グループによる組合への攻撃と広く見なされており、二次的ボイコットの制限を強化し、組合承認のためのピケを制限し、共産主義者の組合役員就任を禁止した。しかしこの法律は同時に、組合員の権利章典、組合役員の無記名投票選挙、組合員が労働協約を見る権利、組合の年次財務報告の公開など、重要な改革も規定していた。

 トランプ政権の労働省でさえ、労働組合に対し、組織化と団体交渉に費やした費用の合計(ほとんどの組合では組合員が入手するのは非常に困難なデータ)、ストライキ資金の規模、組合役員が異なる労働組織から複数の給与を受け取っているかどうか(「二重取り」)の開示を義務付けるなど、有意義な改革を提案した。さらに労働省は、現在多くの公務員組合がLMRDAの適用外となっているため、公務員組合に財務報告書の提出を義務付けることを提案した。これらの改革は労働組合により広く反対され、バイデン政権発足後に棚上げされた。

 残念なことに、労働組合が直接選挙や透明性の向上といった民主的な取り組みに対する長い抵抗を続ければ、これらの改革は1989年のジョージ・H・W・ブッシュ政権によるチームスターズ信託管理や、二次的ボイコットといった重要な労働権の後退と一体になった1959年のLMRDA改革のように、敵対的な政治勢力によって押し付けられるかもしれない。労働運動に携わる誰もが、国家が自由で自律的な労働運動を統制するようなシナリオを望むはずがない。しかし、自由には民主的な自己改革を行う責任が伴う。

 このような民主的改革は、UAWやチームスターズの協約闘争が示すように、大きな闘いにおいて組合員を動員し、 オープンな議論を通じて労働運動の戦略に関する意思統一を発展させることによって、労働運動の力を強化する。「一組合員一票」による役員選挙は労働指導者やスタッフの半永久的な層の権力を脅かすが、時にはその権力を自発的に委譲することが、最善の指導性の発揮となる。

 民主的な組合改革の動きに反対するよりもむしろ、役員直接選挙に関する全組合員投票を実施することによって、組合員に決定を委ねるべき時が来ている。代議員による間接選挙制度は民主的である場合もあるが、腐敗と受動性の温床となることがあまりにも多い。かりにこの制度を守る価値があるなら、せめて全組合員の投票にかけるべきである。結局のところ、25年前にレイバー・ノーツが指摘したように、「組合民主主義とは、一般組合員の力であり、労働運動の力を回復するために不可欠な要素である」。


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