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【解説】レイバーノーツ誌は全米自動車労組やチームスターズ労組の改革派に率いられたストライキの勝利に彩られた2023年を振り返り、労働組合にとって明るい展望を切り開いたと評価している。今年4月19日から21日に掛けてシカゴで開催されるレイバーノーツ大会で改革潮流のストライキ経験の総結集を呼び掛けている。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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明るい展望を切り開いた2023年ストライキの勝利

2023年12月15日 ジェニー・ブラウン(レイバーノーツ副編集長)


*2023年にストに立ち上がったロサンゼルス教員組合(左)、ニューブランズウィックの病院労働者を組織する全米鉄鋼労組(中)、アマゾン運転手のチームスターズ労組(右)

 2023年はストライキやストライキの脅しにより、全米の企業で多くの有利な労働協約を勝ち取ることができた。機械工、教員、バリスタ、看護師、ホテル従業員、自動車労働者など、50万人の米国人労働者がストライキに立ち上がり、その多くが改革派の指導部に率いられた組合によるものであった。

 2023年は組合役員選挙での辛勝から始まったが、結果的には巨大な変化をもたらした。2022年後半、全米自動車労組(UAW)では「譲歩なし、汚職なし、階層賃金なし」を綱領に掲げた、改革派のメンバーズ・ユナイテッドの候補者がほとんどの主要な役職を独占した。3月には、インディアナ州ココモの無名に近い電気技師で組合代表のショーン・フェインと、守旧派の現職との間でUAWの会長選挙の決選投票が行われた。14万人が投票した結果、数百票差でフェインが勝利した。

「これからの私たちの仕事は、組合員中心の組合に戻し、一般組合員の信頼を取り戻し、経営側に警告を発することだ。UAWにおける労使協調と企業支配に終止符を打つ」とフェイン会長は語った。

 それから9カ月後、UAWのスタンド・アップ・ストライキは自動車大手ビッグ3に対して大勝利を収め、未組織の自動車労働者は組合加入を熱望し、ストライキ労働者に対する世論の支持は数十年ぶりの高水準に達し、フェイン会長の名前は国民に知れ渡っている。

効果的だったストライキの脅し

 しかし、ビッグ3の自動車労働者15万人よりもっと大人数の労働者が、戦闘的な新指導部のおかげでストライキに勝利した。物流最大手のUPS社のチームスターズ労組員34万人は、全米のトラック車庫や倉庫に響き渡るストライキの脅しによって、過去最大の協約成果を獲得した。UPSの組合員たちは朝食ミーティングや訓練ピケで気勢を上げで一斉に出勤するのを、管理職たちは神経質に身構えて待ち受けていた。

 チームスターズ労組の新しいリーダーであるショーン・オブライエン会長とフレッド・ザッカーマン書記長は、交渉に関する詳細な報告を行い、徹底的に粘って交渉した。2022年の会長選挙で二人を支えた改革派のコーカス、民主化を目指すチームスターズTDUは、職場での組織化と訓練ピケの先頭を担い続けた。この交渉と職場闘争との両輪により、大幅な賃上げを実現し、運転手の二層賃金と週6日勤務の強制を廃止させることに成功した。

改革の深い根

 チームスターズとUAWの両組合における方向転換の根底には、長年にわたって企業との癒着ではなく闘争姿勢を主張してきた改革派コーカスにある。

 チームスターズでは、1989年に連邦政府が汚職を理由に組合を監督下に置くと脅したときに、その基礎が築かれた。TDUは、政府の支配に反対を主張した。その代わりに、組合内民主主義、つまり組合員による組合運営こそが腐敗をなくす力になると主張した。連邦政府との合意協定により、組合大会での間接選挙に代わって、組合三役の選挙を全組合員の一票投票による直接選挙に切り替えた。

 TDUが推薦する候補者は1991年の会長選挙に勝利し、1998年には敗れ、2022年に再び勝利した。その結果、組合は再活性化し、職場での活動は活発になり、今年UPSから大きな成果を引き出したストライキの脅しが実現できた。

 同じような過程が、時間軸を圧縮してUAWでも起こった。2019年、当時のゲーリー・ジョーンズ会長は解任され、後に組合資金横領の罪を認めた。彼とその前任者であるデニス・ウィリアムズは有罪判決を受け、他の12人の役員とともに刑務所に送られた。新たな改革派のコーカスであるユナイト・オール・ワーカーズ・フォー・デモクラシーUAWDはTDUのモデルにならい、汚職に対する解決策は組合員による組合運営であると連邦政府に主張した。

 驚くことではないが、UAW組合員は全組合員投票により、1人1票による直接選挙への移行を決定した。その結果、UAWDが支援するメンバーズ・ユナイテッドが会長職と執行委員会の過半数を獲得し、周囲を驚かせることになった。

倍増したストライキ

 ストしたのはチームスターズとUAWだけではなかった。コーネル大学の争議集計機関のジョニー・カラスによると、2023年には50万人がストライキを行ない、2022年のストライキ件数を倍増し、2021年のほぼ4倍増となった。2018年の赤い州での教員ストライキでも同数程度のストライキが行われたが、2023年は俳優、医療労働者、自動車労働者を筆頭に、民間部門のストライキが多かった。

 世論調査では、労働組合の人気が1960年代以来の高い水準まで上昇した。ストライキの人気も高く、自動車労働者のストを支持したのは78%、俳優と脚本家のストを支持したのは76%だった。

 7,000人のニューヨーク看護師連盟(NYSNA)がストライキを行い、より安全な人員配置を強制する強い協約を勝ち取った勝利で2023年は幕を開けた。その結果、十分な看護師を配置しない場合、病院は大きな罰金を支払うことになった。その勝利に触発され、ニュージャージー州の全米鉄鋼労組(USW)の組合員である1700人の看護師が、ニューブランズウィックのロバート・ウッド・ジョンソン病院で8月からストライキを実施している。

 6月には、ウィチタにあるスピリット・エアロシステムズの機械工6,000人が、国際機械工組合が推し進めた妥結提案を拒否してストライキに突入した。機械工たちは週60時間労働と70時間労働に反対していた。ストライキの結果、週末の休みを取り戻した。

ハリウッド最大のストライキ

 今年最大のストライキは、全米映画俳優組合SAG-AFTRAの16万人の俳優によるもので、全米脚本家組合WGAの1万1千人の脚本家に続いて7月にストライキに突入した。有名な俳優たちがテレビニュースのピケ場面に登場するようになり、ハリウッドの映画業界は閉鎖に追い込まれた。俳優たちのストライキは4ヶ月間続いた。脚本家組合は、賃金引上げや人員配置、ストリーミング配信からの分配金増額などで勝利を収めた。

 10月には、SEIUを含む労働組合の連合が、西海岸の医療大手カイザー・パーマネンテに対してストライキを敢行し、21%の賃上げを勝ち取った。今後10年間で医療産業での時給を最低25ドルに引き上げるカリフォルニア州の新しい法律からの圧力をカイザー・パーマネンテは受けることになる。

 ロサンゼルスの公立学校では、SEIUローカル99に組織された教育関連職員がストライキを打ち、シカゴ教員組合もそれに続いた。この二つの組合で65,000人がストライキを行った。ロサンゼルスの教員組合は改革派が指導している。ポートランドの教員たちも同様に、新しい指導部によって11月に3週間のストライキを行った。

 ビッグ3では、UAWは経営側の虚をついて、戦略的にストを拡大し、最終的に5万人の自動車労働者がストに参加した。そのストライキは9月15日にビッグ3のフォード、ゼネラル・モーターズ(GM)、ステランティス(旧クライスラー)の一つずつの工場から始まった。その1週間後、UAWはGMとステランティスのディーラーに部品を支給する部品配給センターにもストを拡大した。これが各社の注意を引き、交渉の遅れていた企業ではストライキを拡大し、進んでいた企業ではストライキを控えた。その結果、UAWは二層賃金を廃止し、低賃金労働者の生活を変えるような大幅昇給を勝ち取った。同労組は過去30年間の譲歩をすべて埋め合わせたわけではないが、大きな前進を遂げた。

 今年の最多ストライキ賞は、間違いなくロサンゼルス州になるだろう。学校や俳優・脚本家に加えて、15,000人のホテルレストラン労組員UNITE HEREが62のホテルで計画的な短期波状ストライキを行っている。住宅価格高騰により、ホテル従業員は職場の近くに住居を確保できず、片道2時間かけて通勤したり、平日は車の中で生活したりしている。

技術変革からの防衛

 変化する技術に対する自己防衛は、繰り返されるテーマだった。UPSでは、新しい協約によって運転手に向けた監視カメラが廃止され、技術的な変更を検討し承認するための技術委員会が設置された。俳優や脚本家は、新しい協約によりAIによる作品の盗用を撃退した。

 自動車メーカーは、電気自動車(EV)への移行を利用して賃金を引き下げてきた。ストライキ以前は、汚れ仕事や危険作業に直面するバッテリー工場労働者の組合員は、二層賃金の低い賃金が適用されてきた。しかし新協約により、GMの合弁バッテリー工場ウルティウム・セルズの組合員たちは、最高時給が20ドルから32ドルに即座に引き上げられた。

 驚くべきことに、UAWはGMとステランティスに対して、まだ建設中または計画中の工場であっても、新しいバッテリー工場にも全国協約を適用させることに成功した。フォードでは、UAWはバッテリー工場をこれから組織化しなければならないが、組合認証選挙に介入しない中立化協定を勝ち取った。「EVの未来は底辺への競争に違いないと言われてきた。しかし、我々はそれを許さなかった。」とフェイン会長は語る。

 ラスベガスでは、ホテルの客室担当とカジノ・レストラン従業員で構成されるUNITE HERE参加の料理労組と、バーテンダーで構成される別組織が、エスカレートするデモ行進と座り込みでストライキの脅威を高めた。交渉期限ぎりぎりで、3大ホテルは毎日の客室清掃を含む主要な要求に合意した。これにより労働強化を阻止できた。というのは各ホテルは客室担当に宿泊終了時のみ客室清掃を行うよう命じ始めていたため、一人当たりの1日の客室清掃割り当ては同じでも、各部屋の清掃に多くの労力がかかっていたのだ。

組合大歓迎

 組合のオーガナイザーは、労働者はストライキを怖がるので、話題にしない方が良い、と言われてきた。しかし、今では逆で、力強いストライキは素晴らしい勧誘の話題なのだ。

 スタンド・アップ・ストライキ以来、未組織の自動車工場で働く何百人もの労働者が、UAWに組織化を求めて連絡している。テネシー州チャタヌーガのフォルクスワーゲン工場では、労働者が1週間で1,000枚の組合承認カードに署名した。

 あらゆる産業で労働者が組織化を切望している。全米電機労ラジオ機械工労組(UE)は、大学院生労働者の組合認証選挙に次々と勝利し、14,000人の組合員を増やした。ノースウェスタン大学、ジョンズ・ホプキンス大学、シカゴ大学では90%以上の得票率で勝利した。ミネソタ大学では、2005年と2012年に組合結成を否決した部署で97%の票を獲得した。12月には国立衛生研究所の研究員5,000人がUAWに97.8%の賛成票を投じた。

 全米鉄鋼労組は5月、ジョージア州メーコン近郊で 1400 人の労働者がバスを製造しているブルーバード・バスで組合認証を勝ち取ったが、これは南部の製造業では貴重な勝利である。また、メーコンにあるクムホ・タイヤでは、タイヤ製造に携わる 300 人の全米鉄鋼労働組合員が、組合承認を求める3年間のキャンペーンと2年間の協約締結闘争を経て、最初の労働協約に調印した。クムホ・タイヤは、この40年間で初めて労働組合を結成したタイヤ会社である。

 シンシナティ-ノーザンケンタッキー空港のDHLエクスプレスの労働者 1,000人が、1年に及ぶ闘いの末、チームスターズ労組ローカル100に加入し、12月7日にストライキを開始した。シンシナティは同社にとって北米最大のハブ空港である。

 スターバックス・チェーンを組織化するスターバックス・ワーカーズ・ユナイテッドは組合認証選挙で着実に勝利を続け、2年間で360店舗を組織化した。スターバックス社はキャンペーン期間中、組合支持者を解雇したり、組合店舗でのクレジットカードによるチップを止めるなど、違法な戦術を用いた。裁判所はスターバックスの数百件の不当労働行為を有罪とし、解雇された数十人の労働者を復職させ、組合店舗への処罰をやめるよう命じた。それでも同社は交渉を引き延ばし、まだ1店舗も協約を結んでいない。

 スーパー大手のトレーダー・ジョーズの労働者は、独立労組のトレーダー・ジョーズ・ユナイテッドに加盟し、マサチューセッツ州、ケンタッキー州、ミネソタ州、カリフォルニア州の店舗で組合認証を勝ち取った。同社は交渉を遅らせており、現在、最初に組合結成を果たしたマサチューセッツ州ハドレー店の組合の組合認証を取り消そうとしている。 アマゾンは、2022年にアマゾン労働組合への加入に投票したスタテン島の配送センターで働く7,000人の労働者に対し、違法な弾圧、上告、遅延を併用し、組合員との交渉を始めることすら拒否している。

 一方、チームスターに加入したカリフォルニア州パームデールのアマゾン配送運転手たちは、名目上の雇用主であるBTS社との委託契約をアマゾンが違法に解除して以来、不当労働行為に対するストライキを6カ月間続けている。

 このような組織化攻勢は労働法を守らせる圧力を生み、民主党が支配する全国労働関係局NLRBは組合に有利な判決を下すようになってきている。セメックス社事件の判決によれば、雇用主がひどい不当労働行為を犯した場合、組合認証選挙をやり直さなければならないほどであれば、雇用主は自動的に組合を承認しなければならない。再選挙が数年の遅れを生んだクムホ・タイヤ事件でもこの判決があれば、役立っただろう。

 バイデン大統領に任命されたNLRB事務総長であるジェニファー・アブルッツォは、明らかに労働組合法を文言どおりに施行しようとしている。スターバックスを組織化しようとして解雇された労働者たちは職場復帰できるようになっている。

重要な好循環

 2023年の基本的な傾向は、組合改革運動がより大胆な協約要求につながり、それが協約キャンペーンやストライキの勝利につながり、労働者に更なる組織化への希望を与えているということだ。

 好例に触発され、ますます多くの組合で改革精神に火がつきつつある。120万人の組合員を擁する全米食品・商業労働者組合(UFCW)には、同組合最大のローカル組織を中心に、すでに大きな改革派の集まりがある。鉄道機械工労組の改革派は、全国の鉄道機械工を代表する7,500人の組合員を擁する第19地区支部で、ついに競争的な選挙に勝利しそうだ。アメリカ劇場映画従業員連合労組(IATSE)では、新たな改革派のコーカスCREWが誕生した。また、自動車産業における新たな組織化の可能性は、この国を変えるかもしれない。

 2024年を迎えるにあたり、全体として展望は明るい。


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