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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『増補版 戦争は教室から始まる 元軍国少女北村小夜が語る』
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毎木曜掲載・第296回(2023/4/27)

障害児者を排除している社会は、いつか戦争への道に進んでいく

『増補版 戦争は教室から始まる 元軍国少女北村小夜が語る』 (「日の丸・君が代」強制に反対する神奈川の会編、現代書館、1980円)評者:志水博子

 安倍政権以来の、“何でもかんでも国会無視の「閣議決定」”に、情けなくも結構慣らされてしまったとはいえ、昨年12月の安保三文書の改定には、度肝を抜かれたという人が多いのではないだろうか。なにしろ、“新たな戦略”とやらでは、言葉巧みに「反撃能力」という語を用い、これまで憲法上は、どう解釈しようと許されなかった「敵基地攻撃能力」を持つ必要があると明記したのだから。

 そして、安全保障になど決してならない、それどころか私たち市民の生活を脅かす“新たな戦略”のために、防衛費は今後5年間でおよそ43兆円にするという。いったいこの国で暮らす私たちの生活はこの先どうなるのだろうか。不安が胸をよぎる。

 そんな時、政府が進める度外れた防衛力の抜本的強化に、危機感を抱いた女性たちが、「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」を結成し、「#軍拡より生活 !〜未来の子どもたちのために平和を!」を掲げ、オンライン署名運動を始めた。大阪でもそれに連帯し、記者会見が開かれた。実は、私もそこに参加した。「女性や子どもの生活困窮策を考えないで軍備で守ろうとしてもこの国が消滅してしまうだけだ」という声を聴き、ますます危機感が募った。

 そこで、改めて手に取ったのが、北村小夜さんの講演録である。北村小夜さんをご存知だろうか。1925年生まれ、本年98歳。本書のタイトルにあるように、「旗(日の丸)と歌(君が代」に唆されて軍国少女に育ち、親より教師より熱心に戦争をした」体験を今も語り続けておられる。戦後教員となった小夜さんが鋭く今の教育の欺瞞を見抜くのは、かつて受けた教育により「無知のゆえ侵略者の役割を果たした」という自覚から来ているのかもしれない。

 本書は、2008年に刊行された『戦争は教室から始まる 元軍国少女北村小夜が語る』の増補版である。‘06年に「改正」教育基本法が成立し、平和を目指したはずの戦後教育は国家のための教育へと大きく舵を切った。翌年には、全国学力テストが復活し、競争序列化が進み、管理統制が強化された。最初の本は、その危機感から編纂されたことがわかる。それから12年が経ち、時代はさらに深刻な状況となり、再び増補版として発刊されたのが本書である。

 もともとの本は、6回にわたる連続学習会「戦争は教室から始まるー学校の戦前戦後、断絶と連続」の講演とそれぞれの感想が掲載されている。本書は、それにプラスして、「道徳の教科化―徹底した徳目主義」と「パラリンピックは障害者差別を助長する」が書きおろされている。

 すべてを紹介したいところだが、ここでは、第三回「障害児教育―能力主義を支えてきた特殊教育、支え続ける特別支援教育」と、その感想「共に生き合う社会は戦争への道に進まない」を紹介したい。

 というのは、これを読み、昨年以来、インクルーシブ教育を巡って大阪で大きな問題となっている文科省通知「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」(2022.4.27)の意図するところが見えてくる思いがしたからだ。

 試案だった学習指導要領が官報に告示された‘58年、学習内容が基準化されるに伴い「おちこぼれ」が目立つようになる。すると「能力・適正にあった教育」が強調され、特殊学級の増設が進んでいく。そして‘61年から全国学力テストが始まる。つまり学校やクラスの平均点を上げるために「点数の取れない」子どもを特殊学級に「分けた」ということだ。文科省はその後も「分け」続けた。‘93年には、「通級による指導」が制度化され、ここでも「分ける」教育が進む。‘07年には「特別支援教育」が始まり、全国学力テストが復活する。つまり学力向上が叫ばれるなか、「点数の取れない」子を「分ける」圧力はさらに強まっていった。となると、現在の全国学力テスト体制の競争激化を思えば、普通学級の子どもらをより競争に向かわせるために、昨年の文科省通知はあるのかもしれない。つまり、「分ける」ためだ。

 第三回の感想はこうある、「戦争への道を進む社会は障害児者を排除する。逆に言えば、障害児者を排除している社会は、いつか戦争への道に進んでいくのである」。

 安保三文書の改定ばかりではない。大軍拡ばかりではない。実は、現在の公教育のあり方からも戦争の危機は見えてくる。それを回避するためには、私たちは元軍国少女であった北村小夜さんの「知」と「力」を引き継いでいく必要があるのではないだろうか。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。


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