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投稿者:吉原 真次

イスラエルのパレスチナ・ジェノサイドを評す/ナクバの完成

 「アクサ―の嵐」を敢行したハマス、イスラム聖戦をはじめとするパレスチナ自治区ガザ地区(ガザ地区)の抵抗勢力が持つ底力を思い知らされたイスラエルは、彼らにとってのパレスチナ問題の最終的解決、パレスチナにとってはナクバ(大災厄)の完成を目指してパレスチナ・ジェノサイドに乗り出した。

 パレスチナの全ての抵抗勢力を殲滅し、生活基盤を根こそぎ奪ってガザ地区を人の住めない更地にして住民を難民化させる。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区(西岸地区)ではイスラエルの制圧下にありパレスチナ自治政府の権限や住民サービスが及ばないC地区(オスロ合意で定められ自治区の61%を占める)からパレスチナ人を追い出し、A地区とB地区は分離壁とイスラエル専用の高速道路で細切れに分断、数万の治安部隊を擁しながらイスラエルの暴虐に対して何もしないパレスチナ自治政府に統治を任せる。

 10月7日以降、イスラエルは今までガザ地区への攻撃に際して使っていた精密誘導弾に代えて非誘導弾を多用し以前は様々な警告を出して住民に退避を促していたが、今は個別な警告はほとんど出していない。西岸地区の抗議デモの鎮圧に際しては従来の催涙弾やゴム弾に代えて実弾を使っている。

 ガザ地区の情報当局は戦闘開始から12月24日までの間の死者は2万424人、行方不明者は6700人、負傷者は5万2600人に上ると発表した。特筆すべき点として子供と女性の犠牲の多さが挙げられ、ガザ保健省は犠牲者の40%が子供で女性を含めた犠牲者は全体の約70%を占めると発表している。イスラエルはハマス戦闘員だけでなく将来戦闘員となる子供、子供を産む女性をも虐殺の対象にしている。同15日にイスラエル軍がハマスの人質となっていた3人のイスラエル人を射殺したことが報道されたが、これは戦場で動く者はハマス戦闘員か否かを確認することなく殺せという命令が全兵士に徹底されていることを証明するものだ。

 12月19日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は220万人以上のガザ地区住民の90%以上が自宅から非難するという前例のない驚くべき水準の強制移住と破壊が起こっており、国連人権問題調整事務所はUNRWAの避難所で急性の呼吸器感染症や髄膜炎など36万件以上が確認されていると発表している。さらにガザ地区の水の供給は戦闘開始前の5%に激減し住民は安全な水を飲めない状態に追い込まれている。2万人以上の死者にはイスラエル軍の攻撃による死者の他に十分な治療が受けられず死に追い込まれた人や感染症等による死者も含まれているが、これは形を変えたジェノサイドに他ならない。

 報道される機会は少ないが西岸地区でもイスラエルのジェノサイドは行われている。パレスチナ保健省は10月7日から12月9日までの間にイスラエル軍と入植者により西岸地区と東エルサレムで275人が殺害され、2500人の死傷者が出たと発表し人権NGOはイスラエルにより3500人のパレスチナ人が拘束されたと報告している。

 ガザ地区北部でハマスが攻撃拠点とする地下トンネルへの海水の注水が行われているが、これは人質の生命だけでなく地下水の塩分濃度の上昇、さらにトンネル内の有害物質の流出による土壌汚染の危険性も伴う。またイスエル軍は北部で住民の生活の糧であるオリーブ畑を根こそぎ伐採した。これにより戦闘終了後に帰還した避難民の生活再建は非常に困難になる。

 国連等は、「アクサ―の嵐」以前に入植者による西岸地区でのパレスチナ住民への攻撃や入植地拡大に懸念を表明していたが、2023年明け以降の入植者による攻撃や入植地の建設は過去最悪の水準で多発、イスラエルの人権活動家の報告によればC地区で通算150平方キロメートル(西岸地区の総面積は5600平方キロメートル)の土地からパレスチナ人が追放された。そしてこれまでに400人のパレスチナ人が入植者とイスラエル軍により殺害されている。

 西岸地区では道路の封鎖や検問が行われ住民の移動が大きく制限されている。農民たちは収穫した農産物を消費地に運ぶことができずに安い値段で売る羽目に追い込まれ、西岸地区のパレスチナ人の生活は苦しくなる一方だ。

 パレスチナ・ジェノサイドはイスラエルとの交易による利益拡大を第一とするアラブ諸国、侵略者イスラエルの自衛権は認めるが、パレスチナの抵抗権は一切認めない欧米諸国により支えられている。アラブ諸国はパレスチナ問題に関する会議は開いているが1973年の第四次中東戦争に発動した石油戦略は考慮していない。アメリカは人質解放と人道支援拡大の為に一時的戦闘の休止と停戦の仲介に尽力した事を強調するが、11月9日からの1日4時間の戦闘休止は局所的なものに止まり、停戦は1週間で終わってしまいイスラエルの軍事行動を押し止めるものにはならなかった。むしろイスラエル軍にとってはハマスの攻撃を受けずに部隊を移動でき、1週間の間に戦線整理と補給を終えてガザ地区南部の攻撃ができた利点の方が大きい。

 アメリカがパレスチナ・ジェノサイドを支える理由は、トランプ前政権が進めたイスラエルとサウジアラビアの国交実現を「アクサ―の嵐」で頓挫させられたこともあるが、何よりも10月18日のイスラエル訪問で歴代大統領として初めて自らをシオニスト(ユダヤ民族主義者)と公言したバイデンを長とするシオニスト政権だからだ。イスラエル訪問で「私は国務長官としてではなく、一人のユダヤ人としてここに立っている。」と発言したブリンケンが国務長官、親イスラエルを表明するハリスが副大統領を務めるなど政権の要職は親イスラエルの人々で占められている。最近になってイスラエルに戦闘規模の縮小を呼びかけるようになったが、12月8日の国連安全保障理事会(安保理)でガザ地区での人道的停戦を求める決議案に拒否権を行使し、同18日に採択予定だったガザへの人道支援を求める決議を22日に引き延ばし、さらに決議案から即時停戦を求める文言を削除させるなど、停戦実現を不可能にしている。

 欧州はユダヤ人排斥の発祥の地で排斥はナチスドイツのホロコーストに行きついた歴史を持つ。欧州諸国はその歴史を口実に親パレスチナのデモ参加者に反ユダヤ主義者のレッテルをはり、抗議行動を制限している。「アクサ―の嵐」以降、G7(先進7ヵ国)の中で最初にイスラエル訪問を行ったドイツでは政府に停戦を呼びかけるデモは開催に当たっては何度も申請をせねばならず、プラカードにさえも警察の監視の目が光る。ユダヤ人へのホロコーストを行ったドイツは第二のホロコーストであるパレスチナ・ジェノサイドに加担しているのだ。

 ガザ地区、ヨルダン川西岸地区でのパレスチナ・ジェノサイドは続いているが、停戦を求める世界の声は高まり、12月12日の国連総会で採択された即時の停戦を求める決議案は10月27日の決議を上回る153ヵ国の賛成で成立し、前回では棄権したフィンランドを含む欧州諸国と日本も賛成票を投じている。

 イスラエルに次ぐ750万人(2020年推定)のユダヤ人が住み、長い間親イスラエルだったアメリカでは10月18日に停戦を訴えるユダヤ系団体が連邦議会議事堂周辺でデモを繰り広げ、一部の参加者は議会の建物内で抗議活動を行い300名の逮捕者を出した。11月4日に首都ワシントンで親パレスチナ9団体が共催したデモには10万人が参加している。人口の1%を占めるアラブ系アメリカ人も抗議行動に参加し、1年後に控える大統領選での白紙投票を呼び掛けている。そして10月中旬に米テレビ局CNN等が行った調査で、イスラエルの軍事行動に完全に正当性があると答えたのは35〜49歳で44%、18〜34歳では27%となった。ユダヤ系アメリカ人には民主党支持者が多く、アラブ系アメリカ人の7割が前回の大統領選でバイデンに投票した事を考えるとバイデン政権がイスラエルに攻撃縮小を求める理由は、ユダヤ系・アラブ系アメリカ人と前回の選挙でバイデンを支持した若者層を引き留めることにある。

 イスラエルの世論は人質解放を第一として停戦を求めていないが、攻撃前の2020年には実質GDP(国内総生産)が+6、5%、失業率は3、3%と好調だった経済は23年7〜9月には前期比で実質+2,8%と低下し10〜12月の実質GDPはマイナスが見込まれている。戦争継続による個人消費の落ち込みと海外からの観光客の減少は経済の動向に暗い影を落とし、全人口の3、8%に相当する36万人の予備役の召集とガザ地区からの出稼ぎ労働者の激減、西岸地区からの出稼ぎ労働者の先細りは経済に悪影響を及ぼしている。

 「アクサ―の嵐」は世界にイスラエルの非道を知らしめ、アラブ人にはアラブの大義を再認識させた。イエメンのフーシ、ヨルダンのヒズボラのメンバーはスンニー派のハマスと異なりシーア派のイスラム教徒だがハマスと共闘している。西岸地区のパレスチナ人はイスラエルから自分たちを守っているのは自治政府でなくハマスだと知った。報道されることは少ないが西岸地区でも抵抗勢力は組織を超えて「ライオンの巣窟」を結成しイスラエルと闘っている。

 12月22日、イスラエル軍はガザ北部の制圧が最終段階にあり南部での戦闘拡大の準備を進めていることを明らかにした。パレスチナ・ジェノサイドは一歩進んだように見えるが、独立と民族解放を求める闘いは長期にわたる苦難の連続であり、植民地・半植民地化の始まりである1840年のアヘン戦争から中華人民共和国の成立までには1世紀以上の時を必要とした。しかし解放を求める人々は敗北の教訓を糧にして新しい戦術と戦略を生み出して最後には勝利を勝ち取っている。ハマスが高度な諜報網を持つイスラエル察知されずに「アクサ―の嵐」を成功させたことはそれを証明するものである。(12月25日)                      


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