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「こんな理由で解雇されてはたまらない」〜若き西武バス運転手の裁判を傍聴して

堀切さとみ

 9月27日。東京地裁606法廷で、不当解雇と闘うバスの運転手の裁判を傍聴した。

 原告は、西武バス上石神井営業所で働く中村文治さん(29・上写真)。事故を起こしたわけでも、職務怠慢だったわけでもない、成長の伸びしろのある若い運転手だ。ところが、入社してわずか二年足らずで自宅待機を命じられ、2021年2月19日に解雇通告を突きつけられた。はじめは何が何だかわけがわからなかったという中村さん。ユニオンと出会い、これが不当解雇だと知ることになる。

 西武バス側は解雇理由として「安全運転の遵守義務違反」「接遇順守義務違反」「超過勤務報告書の虚偽記載」「適正な運賃収受義務違反」の四つをあげている。大層なことのように見えるが、多くが事実無根だったり、そもそも違反ともよべないものだ。たとえば「感謝用語の不使用、声が小さい」というのがあるが、中村さんはコロナ感染のリスクを避けるために、声が大きくなり過ぎないよう配慮していた。もとより乗合運転手が一番優先すべきなのは乗客を安全に輸送することであって、挨拶は付随的なことだ。

 また会社側は「本来の運賃より少ない金額しか乗客に請求せず、会社に損失を与えた」と主張するが、西武バスは「信用方式」といって、乗客自身に降車駅を申告してもらい、最低運賃を超える区間分は運転士が操作して運賃を受け取っている。このやり方自体、乗客が何十人も乗り込んだ時には100%対応することなどできない。
 「こんな事由で解雇されるなら、全国の運転手は全員クビになる」というのが、傍聴していた同業者たちの弁である。

 そもそも会社側は「感謝用語は七割程度でよい」「乗客とトラブルになるくらいなら、最低運賃でよい」と指導していたという。自ら言ってきたことを反故にして、あたかも中村さんが違反をしているかのようにみせているのは姑息だ。ひとつひとつに証拠の提出を求めても、会社側はまともな解答をしていない。そして前回の期日では、会社側が解雇理由を「成績不良、技術不足」から「規律違反」に変更していたことが明らかになった。

 第十回目の口頭弁論だったこの日も、西武バスをはじめ、公共交通で働く労働者が多数集まった。
 この日の法廷で起きたことは、被告側が二週間前に提出すべき書面を、当日の昼になって突然出してきたこと。これには裁判長も呆れ果て、注意を促す始末だった。それだけ会社側にとって、解雇を正当化することが大変だったとしか思えない。
 それとは対照的に原告側弁護士は、中村さんの解雇撤回を求める2439筆の署名を、裁判長に手渡した。

 裁判は長期化しているが、仲間は増えていく。公共交通の安全性が危うくなっていることを、正していくための裁判でもある。
 裁判に挑んだ理由を、中村さんは力強く語った。
「こんなことを許していったら、若い運転手は減るばかりだ。運転手が生き生きと溌剌と働ける社会を作りたい」。

 次回期日は、12月6日(水)13時30分から東京地裁606号法廷で行われる。裁判の行方を見守っていきたい。

中村文治さんインタビュー(5分)


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staff01. Last modified on 2023-09-30 12:49:07 Copyright: Default

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